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特集/新しい成年後見制度に向けて

成年後見制度の検討状況

五所 功治

1 成年後見制度に関する小委員会

 平成7年12月より自由民主党政務調査会社会部会では阿部正俊参議院議員を小委員長に、成年後見制度に関する小委員会が設置されました。この小委員会には衆参併せて、30名弱の自由民主党国会議員が所属し、現在までに5回の小委員会が開かれています。過去5回の小委員会においては、高齢者福祉の分野で高齢者の権利を守るために活動されている現場の方や、弁護士の方の活動状況、活動する際に生ずる問題点のヒアリング、諸外国の取組状況の検討を行ってきました。

2 なぜ成年後見制度が必要か

 成年後見制度に関する小委員会においては次の2つの観点より成年後見制度を社会の必然として考えています。

 第一の観点は高齢者問題の一般化であり、第二の観点は人間優先への社会の成熟化です。「人生50年」と言われていた昭和22年頃は、女性で80歳を超える人生を送ることのできる人は2割弱でした。その後、医学の進歩、医療制度の改革、人々のライフスタイルの変化等があり、現在では七割強の人々が80歳を超える人生を送るようになっています。このことはかつて、高齢者問題は一部の人の問題であったのが、現在では大部分の人が直面する問題へと変化してきたことを物語っています。また高齢期になり、痴呆になったり、意思表示ができなくなる人が以前はわずかであったのが、現在では圧倒的に多くなってきたということを意味しています。かつてはわずかであったためにその本人の意思の問題は家族や地域社会で解決できていたのですが、その数が圧倒的に多くなっている現在では家族や地域社会のレベルでは解決できず、社会のシステムとして必要となっているのです。

 第二の人間優先への社会の成熟化の観点ですが、これは今後は人間が中心の世の中になるということです。

 現在の民法において禁治産の制度があります。これは自分の行為、意思表示の結果に対し判断能力を欠いている場合に後見人をつけて家財を管理させる制度です。一見、本人の権利を守るための制度のようですが、制度の主眼は社会の商取引の混乱を未然に防ぐためであり、家財つまり“家”を守るためのものです。そのためか、ほとんど利用されていません。本人の意思を大切にするという考え方とは発想が違います。本人の意見を大切にしようとすればするほど、本人の意思表示が十分にできない場合、そのサポートシステムが重要となるのです。

 成年後見制度小委員会においては、現在まで高齢者問題の視点から成年後見制度が議論されることが多かったのですが、この第二の観点より本人の意思表示が十分にできない知的障害者、精神障害者、重症心身障害者のケースについてどうサポートしていくかについても今後議論されることが必要だと考えています。

3 構想

 成年後見制度小委員会において、現在までに問題点の洗い出しを中心とした議論を行ってきており、まだ具体的な制度の構想にまでは着手していません。ここで述べる構想は、小委員会の構想の前段階の状態であることをこの場で断っておきます。

 まず、主に高齢者のケースですが、現在の民法上の代理制度の活用で本人の意思が相当に尊重されると思われます。ただし、この場合においても現在では特定の代理人を立てることは難しい場合が多いと思われます。そのため公的な代理引き受け機関が必要になってきます。

 次に、代理人を立てたのに本人が痴呆になり、以前とは全く異なる意思表示をしたり、最初から本人の意思表示が困難なケースでは、これはもはや現行の法律制度の延長線上では全く対処できません。そこで本人の意思をできるだけ尊重した判断、また本人が本来するであろう意思表示の判断ができる第三者機関が必要になってきます。

 法律の条文で、いくら本人の意思表示をするような法文を書いたとしてもそれが機能しないならば全く絵に描いた餅です。成年後見制度を実のあるものにするには本人の相談に乗ったり、手続きを進めたりするようなサービスをする機関の設立こそが、肝心だと思われます。

 また、現在の商取引のルールにおいては取引の迅速と取引の安全を主眼においていますが、本人の意思、本人の保護をより尊重するならば、公示の制度や、商取引の際に一般的に強い側である取引相手が守るべきルールがいくつか増えることも考えられます。

4 法案の見通し

 現在、成年後見制度の実現への具体的なスケジュールは、まだ確かなものにはなっていません。しかし、それほど先送りできない状況になっています。成年後見の制度が必要と思われる事例が年々増えてきているからです。また次の国会において、介護保険法案がおそらく議論されることになると思いますが、介護保険は、今までの役所が一方的にサービスの配分を決定する仕組みではなく、利用契約を前提とした仕組みになります。そうなると本人の意思の尊重がより重要になってくるのです。これらの状況があるので、介護保険法案が議論されるころには、成年後見制度の骨格が明らかにされる必要があると考えています。

(ごしょこうじ 参議院議員政策担当秘書)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年11月号(第16巻 通巻184号)23頁~24頁