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シリーズ/市町村障害者計画

箕面市障害者市民の長期計画(みのお‘N’プラン)

-ノーマライゼーションをあゆむために-

伊藤利之

1 はじめに

 箕面市は大阪府の北部に位置する面積47.88㎞2、人口約12万5000人(所帯数:約4万7000)の小都市であるが、平成8年3月、「箕面市障害者市民の長期計画(みのお‘N’プラン)を策定(図1)、その中核施設として、市立病院(360床に拡充)に加え、新たにリハビリテーションセンター、総合保健福祉センター、老人保健施設を包含する「みのおライフプラザ」を整備し(平成8年7月開設:図2 略)、技術的にも、急性期からリハビリテーションに至るサービス体系の整理・拡充を図る地域システムを構築してきた。

図1 箕面市障害者市民の長期計画(みのお‘N’プラン)施策体系
分 野 施策(対応する事業数)
生活環境の整備 暮らしやすい福祉のまちづくり(7)
住みやすい住宅の整備(5)
情報アクセスの整備(9)
防災対策の充実(4)
雇用・就労の充実 雇用・就労の促進(7)
福祉的就労の場への支援(3)
就労支援策の充実(5)
福祉サービスの充実 相談支援機能の充実(3)
地域生活支援施策の充実(10)
市内施設の整備(3)
保健医療の充実 保健サービスの充実(15)
地域医療サービスの充実(5)
地域リハビリテーションの充実(3)
療育・教育の充実 療育・幼児教育の充実(10)
学校教育の充実(10)
社会教育の充実(3)
啓発と交流の促進 人権に根ざした啓発活動の推進(6)
あらゆる人々との交流の促進(4)
スポーツ・文化活動等の充実 スポーツの振興(2)
文化・レクリエーション活動の推進(7)
推進基盤の整備 人材の養成・確保(5)
調査研究の充実(4)
市民参加による地域福祉の推進(3)
施策の推進体制の整備(2)

 もとより、市の予算規模(一般会計:約450億円)を考えると、わが国においてこれだけの施設整備が容易にできる状況とは考えにくく、その背景に市が主催する競艇事業収入があることは無視できない。しかし、その使途はハード面に限られており、それだけではこのように充実した福祉やリハビリテーション事業を展開することができないことは誰の目にも明らかである。市民や市民団体、障害者団体、行政サイドの障害者や高齢者福祉に寄せる関心の高さと、それによるパワーと連携、当事者参加のシステムを醸成してきた歴史的経緯に敬意を表したい。

2 計画策定までの経緯

(1)第1段階(昭和56~60年)

〔拠点の整備〕

 国際障害者年の趣旨を踏まえ、昭和56年に国際障害者推進本部による「障害者事業十か年計画」を策定、昭和58年にはその拠点施設として「障害者福祉センター」を建設するとともに、福祉のまちづくり環境整備要項を制定、障害者団体の活性化とネットワーク化などの施策を積極的に推し進めてきた。

(2)第2段階(昭和61~平成2年)

〔当事者の参加〕

 障害者雇用の場を確保することが、障害の種別を問わず、ライフステージからみて共通の課題であるとの認識から、雇用助成制度を創設、平成2年には、働く場づくりとして全国初の「(財)障害者事業団」を設立した。その経緯の中で、各障害者団体が初めて同じテーブルについて話し合うことができるようになり、その後の活動の大きな原動力になったという。

(3)第3段階(平成3~7年)

 〔ニーズの把握〕

 「老人保健福祉計画」の策定にあたり、保健福祉に関する「市民ニーズ調査」を実施(身体障害者、知的障害者、精神障害者、高齢者などに対し、それぞれの団体を通じて調査)、その結果に基づいて高齢者だけでなく全市民を対象とした「保健福祉計画」を策定した。一方、障害者事業についても「障害者事業十か年計画」の期限が切れることから、その総括と次期長期計画の策定作業を予定、平成7年12月に「障害者市民長期計画」をまとめた。ちなみに、この計画は当事者も参加した15回におよぶ作業部会の検討を基に、市職員が手作りで書き上げたものである。

(4)第4段階(平成8~12年)

 〔障害者計画の実現〕-障害の多様性とライフステージに沿った施策の推進-

 策定した計画を如何に実現するか、それが最大の課題であることはいうまでもない。とくに福祉のまちづくりを推進、福祉バスの運行、グループホームや福祉住宅の整備を図るとともに、療育や障害者雇用の支援など、障害の多様性とライフステージに対応した施策の推進に力点を置いている。

3 計画の概要とその視点

 計画の基本目標として、①だれもが平等に暮らせるバリアフリー社会の実現、②人権尊重に根ざした自立生活の展開、③ノーマライゼーション社会の実現の三点を掲げている(表)。なお重点課題としては、(1)ライフステージに沿った総合的施策の推進、(2)重度・高齢の障害者市民への支援施策の充実、(3)連携の強化と役割の明確化を挙げており、箕面市の特性に応じたきめ細かな福祉サービスの提供に努めるとしている。

 計画策定の視点として、あえて老人保健福祉計画との違いを挙げれば、障害種別に、しかも年ごとに変わるであろうそれぞれのニーズに、長期にわたって対応することのできる施策の豊かさを追求するという視点(間口の広さと奥行きの長さ)である。ちなみに、本計画の最大の特徴は、障害者の共通の課題である就労問題を自立生活支援の原点と位置づけて重視していることである。

表 計画の概要
(1) 基本目標
 ・だれもが平等に暮らせるバリアフリー社会の実現
 ・人権尊重に根ざした自立生活の展開
 ・ノーマライゼーション社会の実現

(2) 計画の期間
 ・平成6年度(1994年度)から平成15年度(2003年度)までの10年間
 ・中間年に見直し

(3) 施策分野
  1 生活環境の整備 2 雇用就労の充実 3 福祉サービスの充実 4 保健医療の充実 5 療育教育の充実 6 啓発と交流の推進 7 スポーツ文化活動等の充実 8 推進基盤の整備

(4) 行動目標
 ・細かな事業ごとの設定方式でなく、各分野の背景、課題を踏まえ、施策基本目標(方向性)及び期間内に達成すべき行動目標を示している

(5) 数値目標
 ・福祉住宅→福祉型借上公共で毎年5戸程度の整備
 ・市の障害者雇用率→3%
 ・ホームヘルプ→25,092時間(ヘルパー17人)
 ・ガイドヘルプ→27,687時間(ヘルパー18人)
 ・ショートステイ→8人分
 ・デイサービス→15人規模で身体障害2施設、知的障害1施設
 ・グループホーム→17か所(福祉ホームを含む)
 ・健康診査→基本健康診査50%、がん検診30%
 ・機能訓練→2,196回(理学又は作業療法士1人)
 ・在宅リハビリテーション→1,677時間(理学又は作業療法士1人)

4 計画の実現に向けて

 計画の実現にはこれを実施する責任体制の整備が不可欠である。箕面市では、当事者が参加する「障害者市民施策推進協議会」を中心として計画の推進体制を整え(図3)、これまで別々に行ってきた施策とその組織体制を統合整備、平成8年に完成した「みのおライフプラザ」を拠点として、その実現を図ることにしている。

図3 計画の推進体制

図3 計画の推進体制

 なお、本計画の課題として保健福祉推進室にまとめていただいた内容は以下のとおりである。

(1)ライフステージに沿った総合的施策の推進

 障害者市民のそれぞれのライフステージに対応するため、幼児期から高齢期までの一貫性をもった総合的な施策の推進

 制度の連続性(療育→教育→労働→地域生活=生活環境、保健、福祉)

 市行政各部が連携した全庁的な施策推進体制の強化

(2)重度・高齢の障害者市民への支援策の充実

 自立支援を基調とした施策の多様化(制度選択=自己決定の尊重)

 高齢者施策との一体的な推進による高齢の障害者市民のQOLの向上

 若年の重度障害者市民の就労施策の強化と日常活動の場の拡充

(3)連携の強化と役割の明確化

 国、府、市の役割の明確化(制度の普遍化と施策の地域化)

 労働行政と福祉行政の相互乗り入れ

 市民および障害者団体活動との連携(施策の推進力)

 福祉協定(福祉のまち総合条例=企業市民としての社会参加)

(4)財源の確保

 国、府制度の活用(特定財源の確保)

 既存事業の見直し(重点事業への財源シフト)

 適正な受益者負担(施策の一般化)

 行政改革(現在、審議会へ諮問中)

(5)新たなニーズ把握

 相談(ケースワーク)業務からの収集(システム化)

 当事者団体等との意見交換(障害者市民施策推進協議会を活用)

 全市的なニーズ調査の実施(次期総合計画および保健福祉計画との調整)

(6)計画のフォローアップ

 計画の進捗状況の点検等は障害者市民施策推進協議会が担当

 基本は、あるべき目標に向かって現実からの積み上げ

 以上のような課題をクリアするには、それなりの財源の確保を基盤に、市民ニーズの高揚、障害者団体の活性化、首長をはじめとする行政職員の積極的な取り組みが求められている。しかし、それだけでは市町村レベルで十分なことができるはずはなく、同時に、上位組織である国や府の態度、特に制度や施策の実施方法の画一化などを改善することも必須の条件である。今後の問題として、あえて本計画の推進担当者の言を借りて国行政に注文をつけるとすれば、新たな制度や施策の展開にあたっては、各市町村が自らの地域的特性を生かして柔軟に対応できるような仕組みを考えてほしいということである。

5 おわりに

 箕面市では障害者を「障害者市民」と呼び、市の行政計画には当事者の参加が当たり前になっている。障害者計画に限らず「福祉のまち総合条例」も市民参加により制定されており、あらゆる人々の人権を尊重してノーマライゼーション社会を実現しようとする思想が広く普及している。はじめに述べたとおり、この現象を市民の文化水準と競艇による収入だけで解き明かすことはできない。市民や障害者団体の積極的な活動、そこから発せられるさまざまなニーズや意見を調整し、これを行政計画に生かす行政側の懐の深さに問題解明の一つの鍵があるように思われた。

 稿を終えるにあたり、われわれの企画を快くお受けいただき、既存資料ばかりでなく新たな資料までご用意くださった、総合保健福祉センター所長・関口洋太郎氏、保健福祉推進室主幹・武藤 進氏、同副主幹・奥山 勉氏に厚く御礼申し上げます。また、みのおライフプラザ等の見学にご協力いただいた関係各位にも心より深謝申し上げます。

(いとうとしゆき 横浜市総合リハビリテーションセンター・本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年11月号(第16巻 通巻184号) 44頁~48頁