音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/時代が求める新しい創造活動

演出にみる魔力

今中博之

イメージづくりの効果

 「広告代理店はもうかったやろなあ」と思った1996年10月の衆議院選挙だった。今回の選挙では、ご存知のように今までにはなかったような政党のテレビCMや華やかな新聞広告にお目にかかった。硬いイメージの政治を少しでもソフトに、身近にみせようと各党はさんざん頭をひねったのだろう。しかし、もっとも頭をひねったのは、政党から仕事を依頼された広告代理店というプロデューサー集団なのかもしれない。キャッチフレーズから政党のマークデザイン、台本づくり、キャスティングにいたるまで、実に多岐にわたる演出が短期間になされ、相当額のお金が支払われているはずだ。

 なぜ、そんなに演出や広告に力がそそがれているのかというと、「イメージづくり」が選挙において非常に大きなウエイトを占めるからだろう。イメージをつくりだすための巧みな演出は陳ぷ化されたテーマでさえも鮮度を取りもどすことができるのである。

 「演出」にはそれだけの魔力がある。これは、作品展やコンサートなどの舞台、出版物にもいえることである。

イベントに必要な“演出”

 少し前までは、福祉のイベントといえば、まるでフォーマットがあるかのように福祉センターや公民館など、会場費が無料の所で行われてきた。壁には押しピンで絵画や手織り作品を展示し、白布のかけられた長机の上には無造作に陶芸作品が並べられているだけであった。そして、作者の名前の横には障害名と等級が書かれている……というのがよくみられた。このような展示が福祉のイメージとして一般の人たちに受けとめられていたように思う。

 そのようなイベントでは、お客様といえば家族や関係者などごく身近な人に限られ、作品を見たさに電車賃を払ってやってくる人はきっと少なかったに違いない。

 3年程前になるが、私は東京汐留の生活実験劇場「東京パーン」で1か月間、『夢の車椅子アイディア展』という福祉イベントをプロデュースした。このイベントは、松下電器産業㈱及び東京都社会福祉協議会の協力を得て行ったもので、5万人もの入場者を記録した。

 ここで記したいのは、5万人という人数よりもその来場者層である。本来ならば、足を運びそうもない若い女性やサラリーマン、カップル、高齢者から子どもまで多種多様な人たちを誘引したのである。

 このイベントが成功した要因の一つは、だれもが認知しやすいテーマ性と「場の力」にあると思われる。「場末の劇場でストリップをやるとわいせつになるけど、ストリップを国立劇場でやると、それは芸術になる」とは、(財)たんぽぽの家理事長播磨靖夫氏の見解であるが、作品とそれを盛り付ける器(環境)とは表裏一帯の関係にあるといえる。いくら作品づくりに心血を注いだとしても、それを演出する方法を間違えば、苦労も水の泡となってしまう。空間デザイン(動線計画、滞留計画、照明計画など)から人的サービスにいたるまで綿密な計画が必要になってくるのである。

 演出の効果は、イベントという非日常空間だけにいえることではなく、日常化された風景の中にも当然必要とされている。今年の商空間のデザイン賞で入賞(注1)をはたした「グローバル」「布目の里」「ユーダ」(大阪市東住吉区杭全)がそれである。ここは、重度身体障害者や軽度知的障害者たちが一体となり企画・運営するショップである(注2)。

 バリアフリーな環境デザインが彼らの社会参加を促し、自立を可能にしていくのである。だれもがわかりやすくするために単純化・記号化されたショップデザインと展示レイアウトになっている 。また、弱視のメンバーのためにコントラストのあるカラー計画と照明計画が考慮された。このように演出された空間は、障害者と健常者 のバリアを解除する。

福祉の演出に期待すること

 最近の福祉に関する環境も多少様がわりしてきた。「演出」がほどよくなされるようになってきたのだ。要するにプロデューサーなる人物が介在するようになってきたわけだ。作品の選択、会場設定、広報活動、展示、資金のやりくりなど、どう世の中に送り出していくか、作戦、戦術が練られるようになった。その結果、飛行機を使ってでも会場に足を運ぶ人も現れてきている。

 障害をもつ人の場合、作者自身のプロデュースによる発表ならば自己責任において何ら問題はないが、第三者によるプロデュースがほとんどであろう。この第三者とは公的な機関や団体、障害者の関係団体であったりするが、障害をもつ作者自身の意見にじっくり耳を傾けることなしにイベント作業が進行し、オープンの日を迎えることがよくある。

 通常、自治体レベルのイベントプロデュースをプロに依頼すると、数百万円の費用が発生してくるせいか、福祉関係のイベントにはまだまだプロデューサーの登用に関しては稀なのが実情である。実際にイベントの企画をプロに依頼する場合は、依頼者はだれの作品を何のために世に送りだそうとしているのかを考え、依頼者自身の責任の重大さも自覚し、心をこめた仕事をするこ とを望む。また、受けた側も企画の依頼者の希望を十分取り入れ、それに見合った報酬は要求してもよいのではないだろうか。

 これからは、障害者自身も自分の作品がどのように扱われ、演出されているのか注意深く見守り、どんどんプロデューサーと議論すべきであると思う。

(いまなかひろし バリアフリー空間研究所)

<注>
(1) DDA・年鑑日本の空間デザイン賞'96」の特別賞と奨励賞にノミネート。「JCD・商空間デザイン賞'96」に入選。
(2) 「布目の里」と「ユーダ」は、福祉作業所。「グローバル」は、事務機器・家具の販売店であり、「布目の里」と「ユーダ」を、精神的に支えている。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年12月号(第16巻 通巻185号) 23頁~24頁