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シリーズ 市町村障害者計画

滋賀県・甲賀地域障害者福祉計画

24時間対応の“生活支援センター”もスタート

丸山一郎

はじめに―福祉圏の計画策定まで

 障害児・者対策において、先駆的な取り組みをしてきている滋賀県である。障害児の早期発見療育の大津方式をはじめ、近江学園や信楽青年寮を中心とする心身障害児・者や知的障害者の地域生活の推進策などを挙げることができる。

 また、早くから障害者の地域参加をすすめる総合的な取り組みをしてきた県でもあり、特に全国でも初めてであった福祉圏構想は「県社会福祉計画」として昭和56年に設定されている。以下、県事務所福祉課長の川上雅司氏及び仲村加代子主任にうかがう。

福祉圏と地域計画

 福祉圏の設定は、単独市町村では困難である福祉サービスの提供を、一定人口規模を単位として計画・実施をしようとするもので、滋賀県の場合は、人口約10万~15万人の単位に7圏域が設定されている。今回訪問した甲賀地域は、7つの町(石部・甲西・水口・土山・甲賀・甲南・信楽)で構成され、人口は14万1,590人である(表1)。

 生活福祉に関しては、4段階に分けて考えられている。つまり、町内会市町村福祉圏全県のように最も身近なレベルから、全県域にわたるものまでレベルに分けているが、福祉圏は県と市町村の共同の行政単位として機能している(滋賀県の場合、保健医療圏もほぼ同様に設定されている)。

 平成8年6月に策定された「甲賀地域障害者福祉計画」(図1 略)は福祉圏の計画であり、県と7町の共同計画である。

 それぞれの町は「総合発展計画」を策定しているが、その実施計画にこの障害者計画が組み込まれる。町自身での障害者計画の策定は専門機関との連携や財源等の問題から困難と考えられた。

 障害者基本法の成立(平成5年)により市町村障害者計画の策定努力が規定されたことにより、全県域の障害者計画である「滋賀県障害者対策新長期構想」(平成5年6月)に基づき、県下7つの福祉圏での計画が立てられたのであり、甲賀地域もその1つである。

 甲賀福祉圏では、地域福祉保健推進協議会“ふれあい甲賀”をみんなで進める会(図2)に、計画の策定委員会を設置して平成7年6月から検討を開始、素案を甲賀郡の町長会や県庁内各課との協議を経て、作成した。そして、平成8年6月より、全福祉圏域の障害者福祉計画がスタートしたのである(県のガイドラインは、資料参照)。

図2 ふれあい甲賀をみんなで進める会
拡大図
図2 ふれあい甲賀をみんなで進める会

甲賀地域障害者計画の概要

1 計画の目標と期間

 障害者の総合的な生活支援システムの構築と具体的なサービスの整備を目標とする。

 2000年(平成12年)までの5か年間の施策の方向性を提示する(期間を県の長期構想と合わせている)。

2 計画の対象者

 表1のとおり、3千716人の身体障害者、595人の精神薄弱者、303人の精神障害者を挙げている。地域内の施設の入所者も地域住民として当然の対象としている。精神障害者については、通院医療費の公費助成を受けている人のみを挙げているが、この地域には約千人を超える精神障害をもつ人々がいると推定している。

表1 人口・障害者の状況(平成7年3月31日現在)
町名 人口 老人人口 身体障害者 精神薄弱者 精神障害者
石部町 11,748 1,020

(8.7)%

217 50 22
(2.4)%
甲西町 39,318 3,138

(8.0)

802 125 76
(2.5)
水口町 34,957 4,806

(13.7)

882 121 79
(3.1)
土山町 9,753 1,760

(18.0)

327 53 23
(3.7)
甲賀町 12,076 2,496

(20.1)

375 53 22
(3.7)
甲南町 18,873 2,464

(13.1)

505 65 51
(3.3)
信楽町 14,865 2,631

(17.1)

608 128 29
(5.1)
合計 141,590 18,315

(12.9)

3,716 595 303
(3.2)

3 生活支援構想の考え方と推進方策

 障害者の生活の状況や福祉保健サービスの実施状況、福祉施設の取り組み、まちづくりの展開をもとに、計画の目標を「生まれ育った地域社会の中で、家族とともに安心して生きがいのある生活が送れる社会を築くこと」と定め、利用者本位の福祉、保健サービスを計画的に整備・充実していくとしている。

 このため「甲賀地域障害者生活支援構想」を推進することにした。この構想と推進方策は図3に示すものであるが、特に、「生活支援センター」の設置(相談や情報提供・サービスの調整を行う24時間対応で行う)は重点施策である。

 一貫した支援計画と必要なサービスの総合的提供のための「甲賀郡心身障害児(者)サービス調整会議」の設置、就労促進のための「甲賀郡障害者支援事業所協会」の設立が唱えられ、既に発足している。また事業の企画、管理、評価をする「甲賀地域心身障害児(者)在宅福祉事業運営協議会」を設置する。

4 各ライフステージごとの対策と具体的目標

 就学前、就学期、成人期などそれぞれのライフステージに併せての対策の課題が整理されている。そのための具体的な施策の目標が示されているが、目標数値として、平成12年度までにグループホーム3か所の設置、精神障害者の通所授産施設の運営開始等が示されている他は、検討を推進するとされている。

今後の実施と計画の見直し

 計画の中でも特に重点的に取り組まれているものとしては、

① 生活支援センターの定着

② 精神障害者の生活支援の開始

③ 重度障害者の日中活動の場づくり

④ グループホームの設置

⑤ 当事者組織の充実

等がある。

 また5年後の計画の見直しは当然であるが、途中での目標の設置などの見直しは積極的に行われる。

話をうかがって(まとめ)

 7町(人口14万人)をまとめた地域計画であるが、市町村障害者計画のモデルとして各地で参考とすべきところが多い先駆的な計画である。

 県の積極的な推進策や具体的調整、7町の町長や担当者の結束、さらには施設や関係者の参加などにも学ぶものが多い。図3の構想と推進体制は特に、その実施に期待し、注目していきたいものである。

図3 甲賀地域障害者生活支援構想
拡大図

図3 甲賀地域障害者生活支援構想

 スタートした“生活支援センター”を見学させていただいたが、地域計画の「核」の実現を実感したものである。

(まるやまいちろう 日本障害者リハビリテーション協会)

<資料>

障害者地域福祉計画ガイドライン

Ⅰ 計画の趣旨

 心身障害者対策基本法が一部改正され、平成6年6月から施行されたが、この中で国、県、市町村段階においてそれぞれ障害者計画を策定することとされた。

 国においては平成5年3月に障害者対策に関する新長期計画、県においては平成5年6月に滋賀県障害者対策新長期構想が策定されている中で、市町村における障害者計画の策定が課題となっている。

 しかしながら、障害者施策については、単独の町村等では対象障害者数が少ないこと、県と市町村の施策が相まって障害者の生活を支援しているものであること等から、本県においては、福祉圏を単位として県と市町村の共同の行政計画として「障害者地域福祉計画」を策定するものである。

 なお、今後さらに各市町村において単独で障害者計画を策定する場合には、当該市町村計画の指針ともなるものである。

Ⅱ 計画の性格

 本計画は、それぞれの圏域における障害者のニーズや社会資源の状況を踏まえ、具体的な施策のあり方について定める実効性ある計画とする。

Ⅲ 計画の目標期間

 県の障害者対策新長期構想との整合性を図るため、平成12年度までを目標期間とする。

 なお、社会経済情勢の変化等に応じて、必要な見直しを行うものとする。

Ⅳ 計画の内容

1 各圏域(地域)の特性
各圏域(地域)の特性を記述する。

2 障害者等の実態
(1) 障害者と障害者を取り巻く環境の実態(ニーズ、資源の状況)
(2) サービスの現状

3 障害者のライフステージに応じた施策のあり方
ライフステージごとに施策の現状と課題および施策目標について定める。
なお、各ライフステージにわたる施策については、一括して定めることも考えられる。
(1) 出生期
出生前~出生直後(新生児期)
○ 障害の発生予防
① 周産期保健・医療等
② 保健指導、健康相談等
(2) 就学前期
出生後~学齢期前(6歳)
○ 早期発見・早期治療・早期療育
① 発見から治療・療育をつなぐ体制
② 早期療育・障害児保育
③ 就学前指導を含む相談体制
(3) 就学期
学齢期(7歳)~学卒期(15/18歳)
○ 教育の質的充実と適正就学指導
① 障害に合わせたカリキュラムの編成・研究
② 交流教育の促進
③ 進路指導(進学・就職等)
④ 就労へつなぐ教育
⑤ 学卒後の進路相談の充実
(4) 成年期
学卒期~65歳
○ 就労と社会参加
① 就労・福祉的就労
② 通所
③ 地域での生活の場の確保
④ 介助・支援サービス
⑤ 社会参加の促進
(5) 高齢期
65歳~
○ 生活の支援と生きがいの確保
① 介助・支援サービス
② 地域での生活の確保
③ 生きがいの確保
(6) 精神障害者対策
○ 地域での受入れと社会復帰
① 医療等総合的施策の展開
② 地域での受け入れを援助するための施策
③ 就労対策
④ 相談事業
(7) 生活環境の整備
① 地域住民の理解・啓発活動
② まちづくり
③ 住まいづくり

4 計画の推進体制
計画の実現に向けての推進体制について定める。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年12月号(第16巻 通巻185号) 40頁~45頁