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ワールド・ナウ

ヨルダン

アラブ女子視覚障害者のためのコンピュータ訓練センター

長田こずえ

 今回は、以前(『障害者の福祉』平成7年12月号)筆者が少し説明したアラブ女子視覚障害者のためのコンピュータ訓練センターの設立について、詳しく述べたい。

 1994年10月にヨルダンの首都アマンで開かれた「アラブ女性、家族そして障害者のセミナー」勧告項目の中で、“障害をもつアラブ女性の就職問題と現代の労働市場に見合った職業訓練の必要性”、そして“障害者に役立つテクノロジーの導入の必要性”、という2点が指摘された。これらの勧告に基づいた具体的なESCWA(国連西アジア社会委員会)の活動として、アラブ地域では初めての「視覚障害をもつアラブ女性のためのコンピュータ訓練センター(以下「センター」とする)」がヨルダンに設立された。

 これは以前に何度か述べたサウジアラビアのRegional Bureau of the Middle East Committee for the Affairs of the BlindというNGOとの協力で設立した。筆者が以前から積極的に推進してきた障害をもつ女性の社会参加、コンピュータとその周辺機器の利用、NGOとの協力といったアプローチを具体的にしたプロジェクトである。さらに日本の青年海外協力隊(JOCV/JICA)からも、センターに日本とヨルダンの2か国間協力としてボランティアをお願いしている。

 ESCWAは、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)のように、日本、中国、オーストラリアといった国連支援に積極的なメンバー国をもつ地域事務所と違い、障害問題班はなく、社会班で障害問題を取り扱っている。しかも、最近のリストラとプログラムの再編成のせいで、障害者のためという、セクター別のプロジェクトはだんだんと難しくなってきたが、このプロジェクトは湾岸諸国の援助機関(AGFUND)と国連本部にあるUN Voluntary Fund on Disabilityから資金援助を得て、今年の4月にオープンした。1996年4月に、ヨルダン王国のラード・ビン・ザイド、マジダ親王妃殿下の後援のもとで正式にオープンした。

 センターは、ヨルダンにある女子視力障害者訓練センターの中に設立された。この訓練センターは前期のRegional Bureauに属する。この新しいコンピュータセンター部門は、ヨルダン人のためだけではなく、アラブ地域全域をカバーする。今のところ、コンピュータを現地調達し、アラビア語と英語の点字出力機を2台、ドイツのSueibaという会社から購入した。このSueiba社の点字出力機は、アラビア語、英語の点字出力に関しては大変優れていて、こちらではほとんど独占販売の状況である。

 したがって、価格のほうも高く、点字機とソフトのセットで1台、約140万円ほどかかる。これにコンピュータそのものの価格、約20万円を加えると、1台につき約160万円くらいの予算が必要になる。このため、今のところ点字出力機は2台のみ、残りの1台のコンピュータには、英語専用の音声出力機を取り付ける予定である 。

 現在のところは、この2台の点字出力機を使い、入力のほうは普通のキーボードで行う訓練を開始した(写真 略)。アラビア語の点字ソフトの開発は思うほどに簡単ではないらしい。というのは、アラビア語は通常右から左に書くが、アラビア語の点字は左から右で逆になっている(図 略)。したがって、このアラビア語のソフトも、スクリーンでは右から左のアラビア文字、そして点字キーボードの出力は左から右にと逆に動く。もちろん英語のモードのときは、同じ方向である。

 問題となるのはアラビア語の文書の中に英語が混ざっている場合、ソフトの切り替え機能が必要となる。Sueiba社の点字ソフトはこの点を立派に克服している。現在、この訓練センターに点字プリンターはない。点字コンピュータの訓練に重点を置いてはいるが、将来はやはりプリンターも欲しいところである。

 今年の終わりか来年には、ヨルダン人の生徒とセンターの教師を優先的に、ヨルダン以外のアラブの国からの生徒を対象に訓練を始める予定である。以前に紹介した、アスマという英語の得意なパレスチナの女性は、上手に英語版の点字出力機を使いこなしている。訓練の途中に、筆者とその同僚は、この学校に点字の教材がほとんどないことに気付いた。われわれのコンピュータ訓練では、生徒自身に読みたい記事を自分で探してもらい、それを英語の場合はスキャナーにかけ、アラビア語の場合はソフトを使いうちこみ、電子化した文章にしてから訓練に使用する方法を採用している。

 しかし、生徒たちには“自分で好きな教材を探す”というコンセプトがないようだ。何を選んでよいのか全くわからない生徒もいる。これはおそらく、今までに点字の教材がほとんどなかったので、読む訓練がなされていないからだろう。将来的には、外部のボランティアを組織化して電子化した文章の教材保存と図書館の設立もはじめたい。

 現在(1996年7月)の段階では、点字出力機を使い電子化した文章を読みこなすのに重点がおかれ、通常のキーボードをつかった入力(タイピング)も徐々に導入している。アラビア語には、いわゆる日本語のローマ字入力方式に相当する機能がなく、日本語のかな入力方式と同様、英語のそれぞれのキーの上に、相当するアラビア語の文字テープを張り付けて使用する。つまり、アラビア語のキー配列を覚えなければならないわけである。多くの生徒たちは英語のキー配列の方になじんでいるのが現状である。

 さて、JOCVのボランティアの話に戻るが、現在、このヨルダンの電子庁に電子機器のボランティアとして派遣されている日本人青年が、週に一度、センターで英語の点字の訓練を担当している。これは、正式なJOCVボランティアがこのセンターに派遣されるまでの一時的なサービスであるが、センターとしては大変に助かっている。現在、JOCV事務局では、このポストに応募する40歳未満の人を受け付けている。興味のある人は事務局に連絡してみてはどうだろうか。

 さて、過去3年にわたり掲載してきた、「アラブからの便り」も、今回をもちしばらくの間お休みとなる。筆者は、去る8月より、国連を休職して米国の首都ワシントンにあるジョーンズホプキンス大学高等国際問題大学院に、学んでいる。国連から授業料の一部を出してもらうので、どうしても1年の間に国際公共政策の修士号をとらねばならない。もしワシントンで何か面白く役立つ情報を手にいれたら、また、みなさんにご紹介したいと思う。

(ながたこずえ 国連西アジア経済委員会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年12月号(第16巻 通巻185号) 65頁~67頁