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特集/「アジア太平洋障害者の10年」中間年を迎えて

ネパールの視覚障害者援護事業

佐々木秀明

 当協会は「国際障害者年」を契機にアジアの視覚障害者を援助する目的で、1982年「海外盲人援護事業事務局」を設立した。「国連・障害者の10年」と軌を一にした、途上国障害者援助の実践的プログラムを目指したのである。85年、国内論議を尻目に後開発国であるネパールに調査団を派遣、盲人福祉の実態を調査。以来、ネパール盲人福祉協会(NAWB)をカウンターNGOとして、ネパールにおいて実践的な活動を展開している。

 11年にわたるネパール視覚障害者援助活動を要約すると以下のようになる。

 教育分野では、①点字出版所建設と技術移転、②点字教科書製作・配布を中心にした教具教材の提供、③専門教師の養成、④寄宿舎の建設・整備、⑤教育研修会、を段階的に実施し、盲児童の就学促進と統合教育校の開発を行った。この結果、点字教科書の完全供給、全国26の統合教育校の開発、375名の盲児の就学が実現している。

 リハビリテーション分野では、インド国境沿いの農村地域でCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)を展開。CBRセンターの建設やフィールドスタッフの訓練、個別訪問調査をベースに、視覚障害者に対する在宅訓練・指導、自活生産資金の貸し付けによって自立を促進してきた。また、失明予防プログラムとして、眼科診療所の運営やビタミンA配布、巡回栄養・衛生指導、学校検診などを実施している。このCBRプログラムによって、153名の視覚障害者が水牛や山羊などの家畜飼育、野菜栽培、竹籠づくりなどで生計を立てるに至っており、年間7千人の眼疾患者が治療を受けている。

 このように、当協会とNAWBのパートナーシップによる事業は確実にその進展を見せてきた。こうした実績は、現地スタッフを実施主体に、現地のニーズと実情を十分に把握した上で提供される、きめ細かなサービスに拠るところが大きい。これはNGOの最も得意とするところである。しかし、一NGOであるが故の経済的な限界によって、その受益者が限定されることも事実である。さらに現地NGOがその資金源を全面的に国際NGOに頼らざるを得ず、「援助慣れ」「援助疲れ」の構図も見逃せない。政府の施策を先行的に代行し、その成果を上げているNGOではあるが、今後は現地NGOの体力をつけるための新しい戦略の構築も必要となろう。

 11年を経た現在、当協会は第2期活動として、視覚障害者の職域拡大をテーマに、今後増えるであろう教育課程修了盲児の職業問題に取り組んでいる。具体的には、日本の視覚障害者の伝統的職業である鍼灸の技術移転の可能性を追求し、将来的に鍼灸師養成校を設立することである。当協会は「国連・障害者の10年」から「アジア太平洋障害者の10年」の前半まで、一貫してネパールの援助に力点をおいた活動を展開してきたが、今後、現地NGOの自立促進をも考慮した、新たな視点からの援助が問われている。

(ささきひであき 東京ヘレン・ケラー協会海外盲人援護事業事務局)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 22頁