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特集/「アジア太平洋障害者の10年」中間年を迎えて

障害者の作業所ネットワークの結成にむけて

鈴木清覚

 「国際障害者年」「国連・障害者の10年」にひきつづき、1993年から「アジア太平洋障害者の10年」がスタートしました。

 新しい10年を迎えるなかで、私たち、全国社会就労センター協議会(セルプ協)をはじめ、重度障害者の働く権利の保障をめざす関係団体の役員の共通する深い反省は、アジア太平洋地域における障害者問題に、これまで無関心であったことです。

 私たちは、これまで日本における重度障害者の働く権利の前進と制度・システムの改革をめざし、先進国であるヨーロッパ諸国やアメリカの制度や動向、その実態に関心をよせ、たびたび研修団を派遣し交流し、学んできました。

 しかし、歴史的にも地理的にももっと深い関係のあるアジア太平洋地域における、重度障害者の労働問題については全く無知といえる状況でした。

 この反省の上に、セルプ協、ゼンコロ、共作業所全国連絡会などが協力して、1993年には、ILOの本部で長く勤務された丹羽勇先生やアジア太平洋地域でILOの仕事をされていた松井亮輔さんらの協力を得て、ESCAPの本部のあるタイの調査を開始しました。タイ政府の施策についての調査、作業所の訪問、スラム街や農村地域に入っての障害者や家族の実態調査等を行ってきました。翌1994年にはフィリピンとベトナム、95年にはインドネシア等の調査と交流を進めてきました。これらの活動を通して、障害者が「働く場がほしい」との切実な願いをもっていることが明らかになりましたが、作業所等の社会資源の整備はあまりにも遅れ、貧困問題と障害者が同居している実態が明らかになってきました。

 私たちは、こうした調査と交流を進めるなかで、「私たちに何ができるのか」を議論してきました。できることからはじめようということで、94年、タイにモデル作業所として「スマイル・オフセット印刷ワークショップ」の開設を援助し、95年にはベトナム代表団の招待や刺繍製品の購入等の活動を続けています。

 そして、本格的な活動を進めるため、95年のジャカルタ会議で「アジア太平洋地域のワークセンターネットワーク」の設立の呼掛け(資料1)を行い、今年11月に、京都にて、障害者の福祉的就労に関する世界会議(アジアで初めてのIPWHの世界会議の開催)と併せて、アジアネットワークの確立をめざして準備をすすめています。

(すずきせいかく 全国社会就労センター協議会調査研究研修委員長)

資料

障害者ワークショップ・アジア太平洋ネットワーク設立の提案

 多くのアジア太平洋の国々では、高い失業率や社会的・経済的な厳しい状況を反映して、重度障害者の就職の機会は極めて限られたものになっております。
 これらの情況のもとでは、特にアジアの発展途上国の障害者にとって、ワークショップは就職先として重要な役割をもってきています。
 それぞれのワークショップで、お互いの経験と知識を交流することにより、経営上の生産性・収益性・発展性を改善することができます。そのネットワークを作り上げるというのが私たちの提案です。
名称:障害者ワークショップ・アジア太平洋ネットワーク
目的:①アジア太平洋地域における障害者ワークショップ相互の協力と連携を推し進めること
  ②より働きやすく、より多くの障害者が就労可能になるようなワークショップにすること
活動:①情報交換
  ②ワークショップの職員を育成するために研修会や視察などの各種プログラムを提供する
  ③障害者の手による製品の国際的な物流
  ④経営管理や生産活動の改善のための技術的な協力

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号)29頁