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特集/「アジア太平洋障害者の10年」中間年を迎えて

アジアの障害者へ車いす贈呈

麻生幸二

 日本では物が豊かになり、相当のぜいたくができるようになった。個性を主張できるようにもなり、まだ十分使える車いすが更新、廃棄される時代になった。

 私たちはタイ国をとっかかりにこの事業を始めたが、調査の段階でタイ国内でいくつかの事例を見た。バンコク郊外の大きな施設で6歳の小さな子どもが、片方のキャスターが欠損した鉄製の大きな車いすに乗り、伸び上がるようにしてこぐ姿が痛々しかった。

 タイ・チェンブリ市で会った頚椎損傷のMさんの車いすはタイ製で重く、ハンドリムは固くて回らない。家族の協力は得られず、寝たきりから脱出するために日本製の軽い車いすを切望していた。

 タイには当時2つの車いすメーカーがあったが、スチール材で30㎏も重量がある上に1台4千バーツ(1バーツ=約4.5円)する。これは市民の平均月収の1か月分、大変高価で障害者が手に入れるのは容易ではない。他にパタヤの身体障害者職業訓練施設が作る競走用のものなどもあったが、キャスターなど主要な部品は海外からの輸入品で更に高いものになっていた。

 日本の軽い車いすはタイの障害者の生活自立に有効な援助手段だとの結論を得て1992年より運動を起こすことにした。実施については、①必要な障害者個人に届くこと、②車いす修理技術が確実に伝わること、などにこだわった。幸いにも全国の障害者グループなど11の団体から協力が得られ、「アジアの障害者に車いすを贈る市民の会」(代表・大分タキ、上野茂氏)を結成した。

 十分強度のある中古の車いすを集め、タイヤやブレーキなど主要な部品を交換してリフォームするのは「市民の会」、輸送や贈呈先の選定、贈呈や修理技術講習会の設定と経費の調達は朝日新聞厚生文化事業団の分担とした。

 贈呈用車いすの条件としては次のことをお願いした。①日本製の車いす、②20㎏以下の軽いもの、③材質はアルミ、ステンレス、チタン製、④形は前輪がキャスター、後輪は24インチのものを原則にして、⑤片手で両輪が回せるもの、⑥頚椎損傷者用にフットレストがはずせるもの、なども必要に応じて加える。

 ちょうど「アジア太平洋障害者の10年」の時期、この国際的な流れにのり5年たつ。

 タイのカウンターパートのタイ肢体障害者協会は、私たちの意図や思いを十分汲み取って、障害者の生活自立を目指して意欲的な活動を続けている。今後フィリピン、バングラデシュなどにも国内研修会を広げ、修理技術を伝えたい。市民の会の方々の熱意に支えられながら、アジアの障害者との連帯の橋渡しに少しでも役立てばと願っている。

 また、このプロジェクトはESCAPの高嶺専門官のご協力、さらに第3回からは郵政省国際ボランティア貯金から多額の援助を得ていることを感謝とともにご報告したい。

(あそうこうじ 朝日新聞大阪厚生文化事業団)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 30頁