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シリーズ/市町村障害者計画

熊本市障害者基本計画

-いきいきとした市民福祉都市の実現に向けて-

成田すみれ

はじめに

 人口65万、面積266km2の熊本市は、県庁所在地として、県人口の三分の一を有する中核都市である。社会・経済の中心地としての機能に加え、豊かな自然と歴史的遺産が落ちついた雰囲気を育んでいる城下町でもある。心身に障害を有する市民は、平成8年6月現在約2万人強(身体障害者手帳所持者1万8千人、療育手帳所持者2千6百人)、市財政のうち福祉部障害者関係の予算は約35億3千万円(平成8年度市一般会計歳出は1,911億円、福祉部は403億円)、市全体の21.1%を占めている。

 障害者基本計画は、平成4年9月に設置された「熊本市心身障害児(者)対策検討委員会」に源を発し、4年の歳月をかけ障害者自身や関係団体の参画を得て策定された。

経過

 同市は、昭和50年に身体障害者福祉モデル都市の指定を受け、盲人用信号機の設置や身体障害者用トイレの設置及び福祉副読本の配付など、ハード・ソフトの両面において早くから障害者福祉施策を推進してきた。

 高齢化の進展や慢性疾患への疾病構造の変化等により、熊本市においても障害をめぐる問題はそのすそ野を広げており、ニーズの多様化・重度化ともあいまって、昭和58年の「障害者福祉長期計画」を発展拡充させ、平成4年には「熊本市心身障害児(者)対策検討委員会」を設置、保健・医療・福祉の連携、さらに教育・労働・住宅までを含めた総合的・一体的な援助システムの構築を検討してきた。

 このような経過を経て、本計画は国の「障害者プラン(平成7年12月)」に基づく「障害者福祉施策に関する長期計画」の具体策として昨年9月に完成した。

 なお、策定にあたり、関係者へのアンケートという形式ではなく、直接障害当事者等関係団体(14団体、27名)より意見を聴取する場を設けている。

概要

 計画は、平成8年度から平成14年度までの7か年計画とし、ここでは障害者福祉の推進を図るうえでの課題と目標を明らかにするとともに、目標実現のための施策を示している。

 全体では、障害者のライフサイクルに沿い各ライフステージでのニーズに対応する支援と、そのための地域支援体制の強化が基本理念である。また、この理念のもと、既存事業の継続や拡充に併せて、①障害の予防・軽減、②地域での生活支援、③社会的自立の促進、④重度障害者・高齢者、⑤精神障害者、⑥啓発・広報(共に生活するために)、⑦やさしいまちづくりと重要施策を選定し、重点事業化している。(図 略)。

 なお、これら施策は目的別(①広報・啓発、②相談、③早期発見、④医療、⑤早期療育、⑥教育、⑦就労、⑧自立生活支援、⑨施設福祉、⑩高齢期、⑪精神障害者社会復帰、⑫やさしいまちづくり)に整理、各項目ごとに現状、課題と目標が明記されている。

計画の特色

 基本理念に基づき、本計画では特に以下の三点が重要課題である。

(1) 早期発見、早期療育

 保健所や保健センターでの乳幼児健康診査事業の充実に伴い、療育機関での総合的・専門的相談や支援事業の必要性が求められており、大学病院や県立施設の利用に多くを委ねているのが現状である。市レベルでの総合療育センターの設置と、そこでの専門機能を市内保育園(現在122名の児童が統合保育を受けている)への支援に生かすなど、きめ細かな療育体制の整備を提案している。

 障害当事者等関係団体とのヒヤリングでもこの課題の重要性については確認されている。

(2) 障害者の自立支援

 ここでは特にホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイを中心とした在宅介護を支える基本サービスの拡充を明記、中でも「ホームヘルプサービス」については、多様な障害者ニーズに応じたサービス提供ができることが目標である。

 毎日型派遣の実施や、24時間巡回型ホームヘルプサービスもはじめられているが、サービス回数や時間等の拡充を図るうえで、サービス供給主体の多元化として民間法人への委託も検討されている。また、サービスの提供拡大の方策として、身体障害者自立支援事業等の事業化も明記されている。

 「デイサービス」に関しては、市内に一か所のデイサービスセンターに加え、実施施設の増設、「ショートステイ」を含めての高齢者施設との共同利用なども課題である。

 また、重度の障害者の社会生活や社会参加に必要な移動手段の確保や、生活の継続を保障するための住宅環境の整備、地域ボランティア活動支援の環境づくりも重視している。

(3) 高齢期(高齢化対応)

 高齢化対応については、すでに老人保健福祉計画の策定により、人的・物的な環境整備が進められているが、高齢化の早い(障害者の高齢化は40歳代から)障害者が安心して住み慣れた地域で生活ができるよう在宅福祉の拡充を図るとともに、「高齢期障害者専用施設」の整備を提案している。これは特に知的障害者では要望が高く、すでに県内に一か所同様な施設が開設されている。市においても、障害や年齢などを勘案し、高齢化に対する設備整備やショートステイやミドルステイに対応できるような施設の整備を考えている。これらは、在宅生活が困難な高齢障害者にとって有効かつ不可欠な地域資源でもある。

 また、現状では高齢者の多くが障害者でもあることから、老人福祉計画に沿った福祉対策の活用(利用対象年齢の引き下げ等)や、高齢者施設の適正配置や計画的整備など、高齢部門との一体的援助も考慮されている。

今後へ向けて

 これら計画を達成するための具体化についてはいくつかの取り組みが見られる。

 早期発見・早期療育に関しては、障害福祉部門のみならず他局(保健衛生局:健康企画課・健康増進課)の参加も得て「総合通園センターのあり方」について検討の場を設け、熊本市型総合的療育センターの早期設置を図っている。

 生活支援や高齢期対応での各種計画については、在宅生活支援という視点であっても、「老人保健福祉計画」ですべてが解決されるのではなく、高齢化に伴う多様な障害者ニーズを加味していく作業が必要と認識している。

 精神障害者への支援施策については、熊本市地域保健計画との整合性を保ちつつ、社会復帰、自立に向けた援助体制作りと、まずは社会参加の手段として交通パス(さくらカード)交付事業を始めたところである。

おわりに

 A4版50ページに及ぶ「熊本市障害者基本計画」は、策定の趣旨や理念、計画内容のみならず、資料として策定にあたってのさまざまな審議会・検討会の経過や報告、障害当事者や関係団体の意見なども載せている。

 直接策定に従事した市担当者の方々にお話をうかがった際にも、障害をもつ市民との意見交換や対話を大切にし、丁寧に計画をたてる姿勢に好感を覚えた。日常の行政活動での障害者の方々とのやり取りを通じ、今何が必要とされているのかを確認されている点もよく理解できた。

 策定に関して、後日障害当事者等関係団体からの意見等を聞かせていただく機会を得たが、この計画が「障害をもつ市民サービス」として機能することが望まれていた。乳幼児期から高齢期まで必要時適切に、しかも問題の特性に応じた生活支援ができるよう、また中核都市に相応しい、新たな施策展開を期待したい。

 お忙しい業務のなか、快くこのような機会をくださった熊本市役所市民生活局福祉部、富田福祉部長、千葉障害福祉課長、宮本障害福祉課計画係長の皆様には感謝します。

(なりたすみれ 横浜市総合リハビリテーションセンター・本誌企画委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 56頁~60頁