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列島縦断ネットワーキング

[埼玉]

日本視覚ハンディキャップテニス協会の活動

加藤博志

●視覚障害者のテニスは難しい

 「目の見えない人がテニス?」「できっこないでしょう」と、見たことや実際に経験していない人々は、この現実を疑って止みません。が、これが、さまざまな工作をすることによって、有限から無限の可能性を秘めた感動的な競技として、実施が可能となるのです。

 視覚障害者のスポーツの中で、特に視力の全くない人々とは、空間域での物体の認知が非常に困難な状況にあるために、テニスは難易度の高い競技となります。

●どうしてボールが打てるの

 視覚機能がない人は、人間が保有するセンスを駆使し、周囲の環境の認知を行っています。各種のセンスの中で、特に聴知覚が重要なものです。そのために、使用するボールを視覚障害者用に工作するわけです。ボールは、空間に浮いている時間の長いことを配慮して、スポンジボール(Lサイズ)を使用し、中を空洞にして盲人用卓球ボールを挿入することにより、音を発生させることとなります。

 この音を聞くことにより、物体の方向(自分の身体に対して上下・左右・前後など)や、静止しているのか、移動しているのかが判断できます。もし、移動している場合は、その物体の移動の速さ、音源の高低などで高さを認知でき、物体の移動の方向を定位することができます。そして、それらの場面を頭の中に見た状況と同じように、イメージを作ることができるわけです。このことを一般的に「視覚化」すると言われています。

 この視覚化ができれば、例えばボールの球道にラケットを振り出していけば打つことができます。ただし、ラケットは身体から離れているために、ボールの方向や距離と高さが判断できても、深部感覚によりバウンドを予測して手をどの位置や距離に置いて、ヒットするポイントに動作が行えるかが困難なところです。

●どのようなルールでやるの

 基本的には、ショートテニスのルールが基となっています。

 コートの大きさは、バトミントンコートと同じ区画です。ネットは、ショートテニス用(市販品)を使用します。

 ボールは、大きさの直径が8~9センチメートル、重量が30グラム(プラスマイナス二グラム)の音の出るもので、本協会が長年にわたり創意工夫を行い、昨年の夏に協会としての公式なボールを、身体障害者スポーツの用器具の開発を手がけている㈱チャンピオンのご支援により完成させ市販に至ったものです。ラケットは、ショートテニス用の、全長56センチメートル以下のものを使用します。

 グループ分け及び競技方法等は表のとおりです。

表 競技クラス別と競技方法等
区分 視機能分類・条件 使用ボール 競技方法
B1 視力0~明暗弁 音源有り 3バウンド後の打球まで有効
B1.2 不問(アイマスク装着) 音源有り 3バウンド後の打球まで有効
B2 視力 手動弁別~0.03未満、視野5゜未満 音源有り 2バウンド後の打球まで有効
B3 視力0.03以上、視野5゜以上 音源有り 2バウンド後の打球まで有効
B4 制限なし 音源無し 2バウンド後の打球まで有効
MD
ミックスダブルス
B1区分の者と晴眼者 音源有り 晴眼者が打球する場合は、2バウンド後の打球のみ有効とする。連続して打つ場合は2回までとする。

 サービスは、盲人卓球と同様に、サービスをする前に、掛け声をかけ、返答を受けた後にサービスを行うことになっています。

 失点については、バウンドの制約や、B1クラスのボール停止時のコーチングの適用を除けば、一般のテニスのルールを準用しています。

●どのような活動をしているの

 「目が見えなくてもテニスがしたい」との願いにこたえて、1985年より数年間、視覚障害者のテニス用具の工作と普及・指導を、福祉施設などで体育・スポーツの授業や訓練と余暇活動などの中で実施をしてきました。特に余暇活動の中でのテニスの取り組みでは、日本女子テニス連盟のみなさんやボランティアのみなさん、クラブ員などの指導に絶大なる支援をいただいて現在に至っています。

 これらの参加者などから、大会を開催したいとの気運が盛り上がり、機が熟した1990年に「視覚ハンディキャップテニス大会実行委員会」を組織し、その年の10月21日に「第1回視覚ハンディキャップテニス大会」を開催しました。そして、その大会当日に、参加者の賛同のもとに、「日本視覚ハンディキャップテニス協会」を設立しました。会の目的は、視覚のハンディの有無に関係なく、共にテニスに親しみ、余暇活動の善用により社会での融和を図り、生活の質の向上に寄与することとしています。事業は、競技会の開催、テニスの指導及び普及による研修会・講習会の開催、技術等の研究と開発などを行っています。

 組織としては、各都道府県に支部を置きたいのですが、普及過程の困難な現状ですので、地域ブロック単位の活動をしています。

 本年度の主要な事業は、6月の「第1回西日本視覚ハンディキャップテニス大会」(神戸市)、10月の「第7回日本視覚ハンディキャップテニス大会」(所沢市)、2月の「第3回ミックスダブルス大会」(東京都)です。その他、中部支部での事業や各地でふれあいテニス大会などの名のもとに、この競技が行われています。また、研修会や講習会・練習会は全国各地で行われ出したところです。

 今まで、手作りであったボールも市販されるようになってきましたので、今後、ますます盛んにしたいと関係者一同がんばっています。なお、今年の「第33回全国身体障害者スポーツ大会」(大阪府・市)のデモンストレーション競技に、本競技が採用された、有難い話もあります。

 本協会の三田会長は、「われわれ視覚障害者はスポーツをする機会に恵まれないので、1人でも多くの人々が、スポーツをする楽しさや喜びを感じて、仲間との触れ合いや、障害に関係なく、地域の人々との融和の機会をもっていきたい」と述べています。

 また、毎週練習に励んでいる女性は、「人間には、はかり知れない可能性があることを、また、できるように工夫することを教えられた」と感想を語っています。

(かとうひろし 日本視覚ハンディキャップテニス協会常務理事)

 事務局 〒359 所沢市並木4-1 国立身体障害者リハビリテーションセンター内


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 62頁~64頁