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特集/コンピュータネットワークの活用

コンピュータネットワークを活用しよう!

太田 茂

 「…活用しよう!」なんて威勢のいい題を与えられてヨッシャ!と張り切ってはみたものの、結果はご覧のとおりの重厚(?)な文体。これが私の限界です、あしからず。

 さて、現代社会は情報化社会と呼ばれている。この社会の必須アイテムは、情報処理機器と電気通信網である。こう書くといかにも難しく聞こえるが、要するに「コンピュータと電話(実はテレビも)が不可欠な世の中になったんだよ」ということである。両者を組み合わせたコンピュータネットワークは、さしずめ情報化社会の申し子であり、時代の花といえる存在だが、パソコン通信もインターネットも現状の面倒な操作を何とかしない限り電話やテレビ並の普及は望むべくもない。せっかく、従来の通信手段には見られない特徴と可能性をもっているのにもったいない話である。テレビ並は無理でも、せめてFAX程度の操作で使えなければ未来はない。

 コンピュータの特徴といえば、高速演算能力にばかり目が行きがちであるが、それよりもすべての情報、要するに、文字も音声も画像もデジタル化して一元的に扱うことができる機械であることのほうがはるかに重要である。もっとも音声情報や画像情報の本質は、文字情報のそれとは全く違うものであり、デジタル化した後のデータ量や処理方法も大きく異なるから、すべての情報を一律に扱うことは不可能である。分かりやすくという趣旨から細かい説明は避けるが、データ量、処理の手間、あらゆる観点から見て画像情報が最も重く、文字情報が最も軽い。そもそも画像処理が可能になったのはつい最近のことで、初期のコンピュータはカナ文字しか使えなかった。

 さて、コンピュータが扱う文字情報(以下「電子文字」と呼ぶ)は、点字機器や音声合成装置を用いることで容易に点字や音声に変換できる。そのため、パソコンの普及で、全盲の人も読み書きができるようになった。また、手が不自由で文字が書けない人でも、キーボードさえ使えれば文字が入力でき文章をつづることができる。汎用キーボードが使えなくても、体の一部が自分の意志でコントロールできる人なら特殊な入力装置を利用すれば上記の操作が可能となる。つまり、電子文字は全障害者の共通情報媒体となりうる条件を満たしている。さらに、電子情報は、電気通信網を介して世界中に伝送することができるから、移動が困難な障害者の行動半径や就労機会を大幅に拡大することができる。

 これらの特徴によって、コンピュータは単体として、あるいは、ネットワークの構成要素として、福祉分野に大きく貢献する事が期待されている。しかし、当然限界もある。特に、画像情報が問題である。人間を含む多くの動物にとって視覚情報は極めて重要である。周囲の状況を瞬間的に把握する手段として、視覚に勝る感覚はありえない。そうした背景があるから、半導体技術の進歩によって安価に画像情報が扱えるようになるや否や、コンピュータ業界は競って画像の世界に殺到し「マルチメディア」時代を開幕させた。

 画像情報の華々しさに比べて文字情報は地味ではあるが、その価値まで低いわけではない。文字主体の情報でも内容が充実していれば当然ながら価値がある。逆に、説明抜きの画像は芸術性は高くても情報価値は乏しい。

 ただし、マルチメディア化、その実、画像偏重傾向に伴うコンピュータの処理方式の変化が新しい問題を引き起こした。すなわち、文字と画像の混在が日常化したため、出力時点では文字情報も画像化して本来の画像情報と重ね合わせる方式が一般化し、出力情報中から電子文字が駆逐されてしまった。このため、容易に点字や音声に変換できるという電子文字の特徴が利用しにくくなった。

 長い間、視覚障害者は単独で本を読むという楽しみを味わうことができなかった。しかし、コンピュータの進歩で、まず、電子文字の点字化や音声化が可能となり、さらに、印刷された文字を読み取り朗読してくれる盲人用読書機が登場し、パソコンやコンピュータネットワークの普及と相まって、視覚障害者の情報摂取機会は飛躍的に増大した。しかし、視覚障害者の心に一条の希望の光を投げかけたパソコンが、皮肉にも今、ウィンドウズと呼ばれるOSの採用で、その期待に背こうとしている。視覚障害者がやっと得た情報摂取用の小さな窓をウィンドウズOSが閉じようとしているという事実は、電話の発明や普及が聴覚障害者の社会参加を疎外した過去の歴史を彷彿とさせる。

 しかし、マルチメディア化は世界的な潮流であり、少数派の抗議で変わることはありえない。従って、この流れを是認した上で、情報補償が必要な人たちへの救済措置を講ずるべきである。その方法としては、例えば、すべてのテレビ番組に字幕と副音声の付加を義務づけ、副音声を状況説明に用いるなどの方法が考えられる。これらの方法は技術的には問題ないが、番組などの製作コストを増大させる。しかし、そのコスト上昇分は建物や道路のバリアフリー化と並んで、当然、社会全体で負担すべき筋合いのものであろう。

 このように、コンピュータやその応用製品は多くの問題を抱えている。しかし、これは特効薬にしばしば副作用があるのと同様、当然のことである。そもそも人類は「火」という危険ではあるが重要なエネルギー源を、長年なだめすかしながら使いこなしてきた。コンピュータは火以上に大きな影響を人類に与えると予想されている。そのコンピュータを端末とするコンピュータネットワークの効用は計り知れない。要は、副作用を極力抑制しながら、どこまで使いこなすかである。

 この解決策発見は読者の皆様への宿題とさせていただく。以上述べたような問題があることを十分認識した上で、新しいインフラ、コンピュータネットワークの世界に船出し、存分に楽しんでいただきたい。Bon Voyage!

(おおたしげる 川崎医療福祉大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年2月号(第17巻 通巻187号) 8頁~9頁