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特集/コンピュータネットワークの活用

コンピュータ利用と在宅勤務の可能性 

池田剣志郎

 私は、脊髄性横断マヒにより四肢及び体幹の運動機能がほとんどなく、車いす使用の重度障害者です。凸版印刷株式会社総合研究所生産技術センターに所属し、主に在宅で勤務しています。今年で入社5年目になります。

●就職のきっかけ

 以前からコンピュータのソフトウエア開発に興味がありましたので、システムエンジニア(SE)として、それも体力的な問題から、在宅での仕事を希望していました。大学3年の終わり頃(1991年初め)から20数社に「在宅勤務」での採用が可能か問い合わせる手紙を出しましたが、ほとんど良い回答は得られませんでした。SEは開発依頼主やスタッフとの綿密な打ち合わせが重要なため、在宅勤務では無理とのことでした。「在宅勤務」が可能であっても、仕様書に基づいてコーディングするだけの「プログラマー」としての仕事であり、パート的な勤務となるとのことで、希望していたものとは異なるものでした。その年の6月に障害者向けの新卒就職相談会に参加した際も、「在宅勤務」自体が企業の勤務体制として整っていないため、数年は難しいだろうとの話でした。

 その後、大学から凸版印刷を紹介され、希望していた職種で、特例として在宅勤務での採用が決まりました。

●仕事の内容や形態

 コンピュータシミュレーションを用いて、設計・開発を支援する仕事を行っています。現在は、洗剤や飲料水、調味料の容器として使われている、プラスチックボトルの製造 (延伸ブロー)工程をシミュレート(予測)する方法を研究しています。これらのボトルは、あらかじめ加熱して柔らかくしたチューブや試験管状のプラスチックを型にはめ、棒で延伸しながら空気で膨らませて製造します。高速で非常に大きく変形させるため、一般的な手法ではシミュレートできません。プラスチックに関する基礎的な実験や測定が重要です。そこで、5、6人のチームを組み、各自で分担して研究を進めています。私は、(コンピュータにシミュレート手順を記述する)プログラムの開発と検証解析を担当しています。

 自宅には、ワークステーションとパソコンを設置し、これらを使ってプログラムの開発や検証計算、文書を作成しています。ISDNを用いたLANで研究所と繋がっているので、所内とほとんど変わりないコンピュータ環境です。所内のコンピュータ上にある電子出勤簿にアクセスして、その日の勤務を申請します。また、通常の連絡、データのやり取りは、電子メールやFTP転送で済みますが、特に、計算データは頻繁に転送しており、量も多い(十数メガバイト)のでISDN回線でなければ話にならない状況です。

 自宅では、長時間同じ姿勢を続けていると、腰痛や内臓の圧迫による腹痛等があるため、体調をみて休憩をとりながら仕事をしています。時間に拘束されることなく、午前9時から午後11時頃まで自由に勤務しています(実質は、9時間程度です)。

 打ち合わせや調べ物等で週2日程、母の運転する車で出社しています。研究所は、自宅から約50キロメートルの所にありますが、渋滞で片道2時間半はかかります。所内は、車いすを使用して不便さは感じていません。

●重い障害のある人にとっての在宅勤務の利点と課題

 在宅勤務の利点は、前述の通り、時間に拘束されず、自分の身体に合わせたスケジュールで仕事を進められること、外出による身体の負担がないことが挙げられます。すなわち、最大限仕事に専念できるということです。

 逆に、一般的にみれば、周りの人は仕事状況が分からないので、ある程度見える形で成果を出さなければならないところが大変でしょう。また、家に籠もりがちになるので、社会とのコミュニケーションや、気分転換も必要です。私の場合は、週2日の出社で、その辺りの問題は感じていません。

 会社側が私の在宅勤務を前向きに検討し、配慮いただいたことを感謝しつつ、現在の私の勤務形態には大変満足しています。

(いけだけんしろう 凸版印刷株式会社総合研究所生産技術センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年2月号(第17巻 通巻187号) 22頁~23頁