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列島縦断ネットワーキング

[宮城]

「バリアフリー体験住宅」への取り組み

巴 雅人

●経緯

 身体障害者福祉工場「萩の郷工場」は、社会福祉法人共生福祉会を経営母体として、昭和50年に東北地方としては初めて設立された。当法人は、昭和41年開設の重度身体障害者授産施設「西多賀ワークキャンパス」を設置・経営していたが、ここでの生活及び職業訓練を終えた身体障害者の社会復帰の場として「萩の郷工場」が設置されたものである。業務内容を印刷と電気製品の基板等の部品加工を中心として60名定員でスタートし、53年に増員し、現在は100名の定員になっている。

 現状は経済環境の悪化や従業員の高齢化に伴い、業績的には苦しい経営が続いている。特に円高は、手作業労働の海外シフトを促進し、弱電の下請けを主体とする当工場の製造部門にとっては、まともに影響を受けた感じになった。また、もう1つの柱である印刷業務も最新設備の変革に対する立ち遅れなどもあって厳しい運営が続いている。

●「はぎのさとユニティ」設立

 平成6年より、職域拡大や業種転換のひとつとして第3次産業への取り組みを試み、福祉用具や介護機器の販売業務に取り組んできた。高齢社会に向けての福祉用品・機器のニーズは高くなることが予測されるとともに、障害者自身のニーズが身近にあり、施設運営による介護のノウハウが蓄積されていたという背景があった。またこれらのノウハウやコンピューターを活用しての、障害者の新たな職域の拡大ということも視野に入れてある。販売に際しても、営業上の指導をしてくれる民間会社の協力も得ることができ、福祉環境事業部「はぎのさとユニティ」をスタートすることができた。

●「バリアフリー体験住宅」建設

 一方、急激な高齢化にともない特別養護老人ホーム等の新設が急激に進み、高齢者の福祉環境は施設福祉が中心となってはいるが、本来の福祉の原点である地域福祉・在宅福祉がこれからの中心となってくる環境の中で、高齢者の住みやすい、介護者の身体的負担が軽減されるような介護機器と造りが寄与された住宅の新築・改造が必要とされている。

 全国の公的機関においても積極的に住宅整備に対する資金貸付制度などが実施されてきているが、現実にどのような新築・改造をしたらよいのか、またどのような機器が介護を軽減させるか、実際に体験する場所がなかった。また、障害や程度による個人差に適合させるノウハウの提供も不十分であった。

 そこで障害者や高齢者が地域の中で不自由なく生活できる住まいを、新築や改造の際どこが重要かを実際に確認でき、さらにそこでは思いやりをもったアドバイスによる住まいづくりを支援でき、また介護実習や社員・職員研修にも利用できるなどの機能が備わったモデル住宅が各方面より要望されており、在宅福祉の推進に役立つことはいうまでもない。

 以上のようなことを踏まえて、単に見学するだけでなく、宿泊を含めた体験をすることにより、どのような住まいづくりが必要か実感できるような「バリアフリー体験住宅」を企画し、建築に際しての助成金を受けることができ、平成7年9月23日に開館した。

バリアフリー体験住宅平面図

バリアフリー体験住宅平面図

●設計コンセプト

 体験ができることを大切にした施設であり、一般の住宅での生活行動がここで可能な住宅施設計画とする。従って住宅部分は宿泊体験をしたり実際に生活できる造りとする。展示機能については、展示場を設置するが基本的には住宅部分に日常生活を送れるよう介護機器及び用品を設置し、見学者が実際に展示品で使い心地を試せる配置とする。外観や内観について一般の住宅と比べあまり違和感のないよう単純な形態とする。資材類は、特注品は採用せず基本的にこれまでの一般住宅で使用されているもので構成する。これらの資材でバリアフリーに近づける工法と、これらの資材でこのようなバリアーが出るという実態を比較してもらう。内外ともシミュレーションができる仕掛けを組み込み、見学者がどのレベルのバリアフリーが必要か理解してもらう。

●利活用の現況

 平成7年9月23日のオープン以来、年中無休(年末年始は休館)で「バリアフリー体験住宅」を運営し、入場者は平成8年11月末で8600人を超えている。通常の見学のほかにもさまざまな利用方法で活用されている。・宿泊による介護及び機器の体験・福祉専門学校、建築専門学校、大学の授業・市民ボランティアサークルの研修・行政担当者、保健婦、ヘルパーの研修・お花見(老人のリハビリとして)・設計、建築関係者の勉強会

 アンケートを記入してもらっているが、多くの高齢者の方は実際に見学して、情報不足から生ずる漠然とした老後の身体的な不安に対して、多少なりとも安心感をもって帰られている。もっとも多いのは介護機器に対する価格が高いという回答である。また車いす利用の方は、一般のモデルハウスは入場すら不可能なものが多く見学できるというだけでも大変感激である、というような声もあった。

●今後の展開

 高齢者・障害者が住み慣れた住宅や地域で自立的に住み続けるためには、高齢者・障害者の心身機能に対応できる生活環境整備の基本として住宅の果たす役割が重要になる。「はぎのさとユニティ」はこれらの自立生活にたいして、総合的な生活環境を創造する専門職の役割を担うべく努力をしていきたい。

 また、福祉と建築を連結するシステムを構築する土台として「バリアフリー体験住宅」を活用していただき、実際に在宅福祉をサポートしていく各職種への情報発信の場として発展させていきたい。

(ともえまさと 社会福祉法人 共生福祉会福祉環境事業部長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年2月号(第17巻 通巻187号) 55頁