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特集/障害のある人の介護を考える

障害者の介護を含む生活支援の方策について

―公的介護保険との関連において―

奥野英子

1 はじめに

 障害者の介護等サービスについては、身体障害者福祉法、児童福祉法、精神薄弱者福祉法に基づく事業として実施されている。このうち、身体障害者については身体障害者福祉法第18条(介護及び施設等)に基づき、身体障害者居宅生活支援事業として実施されている。

 身体障害者居宅生活支援事業は、①ホームヘルプサービス事業、②デイサービス事業、③短期入所(ショートステイ)事業、の3本柱で構成されており、いずれも実施主体は市町村である。

 障害者の介護等のサービスについて、公的介護保険との関連、これまでの経緯、現在の取り組み、今後の施策の方向等について身体障害者を中心に述べたい。

2 障害者プランにおける「介護等のサービス」の位置づけ

 平成7年12月に策定された「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」において、7つの視点の第1である「地域で共に生活するために」の中で『介護等のサービスの充実』等の重要性があげられた。介護等サービスは在宅障害者ばかりでなく、施設で生活している障害者にも重要なものであるが、ここでは在宅障害者に該当する部分のみを一部引用すると、以下のとおりである。

  

介護等のサービスの充実

〇ガイドヘルプなど障害者特有のニーズにも配慮しながら、身体介護や援助を必要とする状態の者にホームヘルプサービスが的確に提供できるよう、また、デイサービスやショートステイを必要とする者及び入所施設での処遇を必要とする者がこれらのサービスを利用できるよう、市町村におけるサービス提供体制を整備する。

〇ホームヘルパーは約4万5,000人、デイサービスセンターは約1,000か所、ショートステイは約4,500人分となることを目標として、計画期間内にそれぞれ整備する。

〇施設の有するマンパワー等の専門的機能を活用し、地域への支援機能の充実を図る。

〇公営住宅や福祉ホーム等に住む身体障害者を対象とする、介護サービスの提供の充実を図る。

〇障害の種別や程度等個々の特性や障害者のニーズに応じ、適切な介護等のサービスが提供できるよう、ガイドラインの策定等を行う。

総合的な支援体制の整備

〇身近な地域において、障害者に対し総合的な相談・生活支援・情報提供を行う事業を、概ね人口30万人当り概ね2か所ずつを目標として実施する。

〇障害者の実情に応じた相談・調整に当たることのできる専門スタッフの養成を図る。

社会参加の推進

〇障害者にとって最も身近な市町村を中心に、福祉バスの運行等移動時の支援施策や手話通訳者の設置、点字広報の配布等コミュニケーション確保の施策等障害者が社会参加するために必要な援助を行う事業について、概ね人口5万人を単位として計画期間内に実施することを目標として推進する。

〇遠距離での移動を容易にするガイドヘルパーネットワーク事業、盲導犬育成事業、精神薄弱者の社会参加活動の支援事業等を推進する。

マンパワーの養成・確保

〇障害者の特性に対応できるようホームヘルパー養成研修の充実を図る。

〇点訳奉仕員、朗読(録音)奉仕員、手話通訳者その他専門的知識・技能を有する者の養成・確保を図る。

 以上が、介護保険制度によって提供される予定のサービスと、社会参加を含む障害者に特有の幅広いニーズに関わる介護等のサービスに該当する部分であり、障害者保健福祉行政がめざしている方向性を示すものといえよう。

3 身体障害者福祉審議会の意見具申

 身体障害者福祉審議会は介護保険制度について検討を重ねてきたが、同審議会は平成8年6月に厚生大臣に対して「介護保険制度の創設に際して」の意見具申をした。この意見具申において、介護保険制度と障害者の介護についての見解が出されているので、ここに紹介したい。

  

 「障害者保健福祉施策は『国連・障害者の10年』、『障害者対策に関する新長期計画』及び『障害者基本法』の成立等を経て、着実に発展してきているが、サービスの質・量の充実のためには、今後一層計画的・総合的な施策の推進が重要となる。

 このような中で昨年末に決定された『障害者プラン』や本年7月に予定される厚生省の障害保健福祉部の設置は、障害者施策の計画化・総合化に一歩を踏み出したものとして評価できる。今後は、新組織の下で『障害者プラン』の着実な推進を図るほか、より多くの都道府県、市町村において『障害者プラン』を踏まえた具体的な目標を含む障害者基本計画が策定されるよう、国においても強力に支援していくことが必要である。

 わが国は、急速に本格的な高齢社会に突入しつつあり、老齢に伴って生ずる寝たきり、痴呆などの介護ニーズに応える施設・在宅サービスの提供体制の整備とそのための費用の確保の問題はたいへん重要な課題となっている。この意味で高齢に伴って生ずるニーズに対応した公的介護保険の創設は極めて大きな意義を有するものであり、その緊急性に鑑みて当面高齢者を中心とする制度設計となることについてはやむを得ないものと理解できる。

 言うまでもなく、介護に対するニーズは年齢や障害の原因を問わず、すべての国民が豊かな暮らしを送っていく上で共通して必要なものであり、地域における要介護者の支援体制は、高齢者・若年者にかわるところなく整備していく必要がある。

 保険制度については、受給者の権利性が強いこと、本人の選択によるサービスの提供ができること、社会連帯による財源確保が図られること等の利点があると言われている。しかしながら、障害者施策のうち、介護ニーズへの対応について介護保険制度に移行することについては、①障害者施策が公の責任として公費で実施すべきとの関係者の認識が強い点、②身体障害者以外の障害者施策が一元的に市町村で行われていない点、③障害者の介護サービスの内容は高齢者に比べて多様であり、これに対応したサービス類型を確立するには十分な検討が必要であること、④保険移行に当たっては、障害者の介護サービスをはじめとして現行施策との調整が必要と思われる点、等なお検討すべき点も少なくなく、また、これらの点についての関係者の認識も必ずしも一致していない。

 当審議会においても、昨年来、老人保健福祉審議会の数次にわたる報告等を受けて審議をしてきたが、今後この問題については、当審議会としてさらに十分に議論を重ね、また、必要に応じて関係審議会とも連携をとりながら、障害者施策にふさわしい介護サービスとその財政方式のあり方を模索していくこととする。この検討の結果が、介護保険制度案大綱で予定されている将来の見直しにおいて、適切に反映されることを期待するものである。

 また、これらの検討の結果、施設体系、専門職員のあり方、市町村事務のあり方など、現行の障害者施策体系において必要となる制度の改善やその他の改善事項については、介護保険制度の実施状況も踏まえつつ、可能な限りその実現に向けて検討すべきである。さらに、『障害者プラン』については、今後の国、地方における実施状況等を踏まえ、充実させる方向で見直しを行うべきものと考える。 

 なお、今回の介護保険の導入に当たっては、現行の身体障害者施策の体系と十分な調整が図られるよう留意されたい」

 以上のように、身体障害者福祉審議会としては、公的介護保険の今後の動向を踏まえつつ、障害者の介護については当面、従来通りの公費負担により実施し、障害者プランによって介護サービス等のより良い提供体制を整備することが望ましい、と意見具申している。

4 「障害者に係る介護サービス等の提供の方法及び評価に関する検討会」の設置

 平成7年度に日本障害者リハビリテーション協会内に「障害者に係る介護サービス等の提供の方法及び評価に関する検討会」が設けられた。同検討会は板山賢治座長、白澤政和副座長のもとに、一人ひとりの障害者のニーズに応じて各種のサービス等を的確に提供し、地域における障害者の自立生活を支援するための「障害者ケアガイドライン」についての検討を実施してきた。

 当検討会は全体会とともに、身体障害者部会、精神薄弱者部会、精神障害者部会の3つの部会を設け、障害者にとってのケア、その基本理念、ケアを提供する際の原則、ケアを提供するシステム、等を検討してきた。

 平成7年度は、身体障害者部会は身体障害者ケアガイドライン(案)を作成し、精神薄弱者部会は精神薄弱者に対するアセスメントを中心に検討し、精神障害者部会はケアマネジメントの基本的な考え方と論点を中心に検討してきた。平成8年度はそれぞれの部会で試行事業や検討を継続しているところである。

5 身体障害者ケアガイドラインについて

 同検討会身体障害者部会では、「身体障害者ケアガイドライン~障害者の地域生活を支援するために~」(案)を作成した。このケアガイドラインはA4判27頁であり、①ガイドラインの趣旨、②ケアの基本理念、③ケアの原則、④総合相談窓口、⑤ケアマネジメントの意義と留意点、⑥ケアマネジメントのプロセス、の順にまとめられている(表)。

表 身体障害者ケアガイドライン
~障害者の地域生活を支援するために~


目 次

1 ケアガイドラインの趣旨
(1) ケアガイドラインの必要性
(2) 障害者福祉に求められる視点

2 ケアの基本理念
(1) 障害者の自立と社会参加の支援
(2) 障害者の地域における生活の継続の支援
(3) 障害者の主体性、自己決定の尊重・支援

3 ケアの原則
(1) 総合的ニーズの把握とその評価
(2) ケアの目標設定と計画的実施
(3) 保健・医療・福祉の総合的なサービスの実現
(4) プライバシーの尊重

4 総合相談窓口

5 ケアマネジメントの意義と留意点
(1) 「ケアマネジメント」とは
(2) 障害者を対象とするケアマネジメントの留意点
(3) ケアマネジメント実施機関とサービス関係諸機関との連帯

6 ケアマネジメントのプロセス
(1) 利用者の確認
(2) ニーズの評価
(3) ケア計画の作成
(4) ケア計画の実施
(5) フォローアップと再評価
(6) ケアマネジメントの終了と事後評価
(7) 「ケアマネジメント」と「リハビリテーション実施方法」との共通点

あとがき
  

 現在、この「身体障害者ケアガイドライン」に基づいて、全国5か所の市において試行事業が実施されている。この試行事業の実践報告に基づいて、平成9年度に障害者ケアガイドラインを成案化する予定である。

 この身体障害者ケアガイドラインの骨格及びポイントをここに紹介したい。

(1)ケアガイドラインの趣旨

・一人ひとりの障害者がどこに住んでいても、普通の暮らしができることを保障する。

・地域における障害者の生活を支え、自立と社会参加を促進するために、一人ひとりのニーズに対して、必要なサービスを的確に提供する。

(2) ケアの基本理念

・自立と社会参加の支援

・地域における生活の継続の支援

・主体性、自己決定の尊重・支援

(3) ケアの原則

・総合的ニーズの把握とその評価

・ケアの目標設定と計画的実施

・保健・医療・福祉の総合的なサービスの実現

・プライバシーの尊重

(4) 総合相談窓口

・総合的な相談・生活支援・情報提供機能をもつ拠点の整備

・介護、住宅改造、福祉用具、訪問リハビリ、社会参加等の複合的ニーズに対応する。

・各種専門職によるチームアプローチとケアマネジメントの体制

(5) ケアマネジメントの意義と留意点

・ケアマネジメントはサービス利用者の生活全般にわたるニーズと、公私の社会資源や複数のサービスを適切に結びつけ調整を図り、総合的・継続的なサービスの供給を確保する。

・利用者の主体性、自立性、選択性を尊重した「生活モデル」により実施する。

・介護だけでなく、社会参加に必要な支援、障害の種類に応じたニーズに対応する。

・障害者のニーズをあくまでも「必要としていること」ととらえ、「問題」というようなマイナスのイメージでとらえない。

・幅広い関係機関との連携により実施する(図)。

図 ケアマネジメントに関係する社会資源
図 ケアマネジメントに関係する社会資源

(6) ケアマネジメントのプロセス

①利用者の確認

・複合的なニーズがあり、利用者が希望した場合にのみ、ケアマネジメントの対象となる。

②ニーズの評価

・利用者の生活の場に出向いてのニーズの把握(利用者の了解を得た上で)

・利用者及び家族が困っていること、望んでいることを把握する。

・評価項目―身辺処理、起居・移動、コミュニケーション、健康管理、家庭生活技術、福祉用具、住宅環境、社会参加、教育、就労、危機管理等

・一次的評価はソーシャルワーカー(社会福祉士等)、保健婦、介護福祉士等による。

・一次的評価でニーズを把握しきれなかった場合に、医師、看護婦、PT、OT等の幅広い専門職による二次的評価を実施する。

③ケア計画の作成

・ケアマネジャーを中心に、関係専門職により構成されるケア会議において検討する。

・総合的な評価により明らかにされた複合的なニーズに対応するために、公私すべての社会資源を活用したケア計画を作成する。

④ケア計画の実施

・必要とされるサービスの提供先について利用者の意向により決定し、サービス供給を依頼する。

・計画どおりにサービスが提供されているかを確認し、必要に応じて、利用者側とサービス供給側との連絡調整をする。

⑤フォローアップと再評価

・ニーズの変化に対応するために、フォローアップや再評価を実施する。

 以上のようなプロセスにより、障害者を対象とするケアマネジメントを実施することとしている。障害者を対象にケアマネジメントを実施する際には、本人の能力を最大限に生かし、本人の意向を十分に尊重し、自分でマネジメントできる者については自分でケアマネジメントすることが望ましい。

6 身体障害者ケアサービス体制整備支援モデル事業

 平成9年度は「身体障害者ケアサービス体制整備支援事業」を予算に計上している。本事業は、①国レベルにおいては、身体障害者ケアサービス体制整備検討委員会を設置し、身体障害者ケアガイドラインの実施マニュアルを作成するとともに、ケアマネジャー養成指導者研修を実施する、②県レベルにおいては、都道府県身体障害者ケアサービス体制整備支援モデル事業実施委員会を設置し、ケアマネジャー研修、ケアガイドラインに基づくケアマネジメントのモデル実施を予定している。

7 まとめ

 高齢者の公的介護保険制度の導入が進められている中で、障害者についても公的介護保険制度の対象となることが望ましいという意見も出されている。しかし、身体障害者福祉審議会の意見具申にもあるとおり、当面は、障害者の介護等のサービスは公費負担により実施するものとし、介護等サービスの質及び量の充実については、平成8年度から14年度までを計画期間とする「障害者プラン」等によって整備していくこととし、その実現に向けて、現在、積極的な取り組みがなされているところである。

 前述のとおり、「ケアガイドライン」の成案化と実施マニュアルの作成、ケアマネジャーの養成研修、ケアガイドラインに基づくケアマネジメントのモデル実施等、ケアサービス体制整備モデル事業の一連の取り組みのほか、障害者プランにより、「概ね30万人当たり概ね2か所ずつの設置」が推進されている市町村障害者生活支援事業、障害児(者)地域療育等支援事業、精神障害者地域生活支援事業等、また、概ね人口5万人を単位としている市町村障害者社会参加促進事業等、幅広い各種事業の推進により、障害者の介護を含む生活支援の体制づくりをめざしている。

(おくのえいこ 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課障害福祉専門官)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号) 16頁~21頁