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海外自立生活新事情

スウェーデンの身体障害者の自立と介助

定藤丈弘

 スウェーデンリンシェピン市に滞在中、身体障害者の自立生活に少しでも接したいと思い、同市のある障害者団体の代表者であるスサンナさん(33歳)という重度肢体不自由者と地域の会館で面談した。その翌日には彼女の自宅を訪問して、その自立生活に直に接することができた。

重度肢体不自由者スサンナさんの自立生活

 彼女は四肢マヒで車いすを常用し、さらに成人になって筋肉が弱くなる病気にもかかったという重度障害者であるが、DHRというスウェーデンの代表的な障害者団体のリーダーの一人として活躍し、当然ながら親もとから独立して自立生活を送っていた。

 スウェーデンの知的障害者のグループホームの居住水準などの高さに驚くことに慣れてきた頃だったが、彼女の家を訪ねた時はまた驚きの声をあげざるを得なかった。そのアパートはいわば3LDKの間取りであるが、立派なリビングルームに広い浴室やクローゼットもあり、97㎡位の居住空間に、普段はボーイフレンドと介助者の3人暮らしとのことだった。

 設備面でも台所の自動式高さ調整機能付きの調理台やドアの自動開閉、浴室や寝室のリフター装置に加えて、驚いたのは立位を可能にするような装置つきのイスもあった。またカーテンの開閉やステレオ、電気の操作などの諸設備の操作をすべて口で操作できるようなコンピューター機器も備えてあり、日常生活動作自立を高める福祉機器を活用していることだった。これらは自治体から保障されている。彼女の家の居住空間は標準よりも多少広く、家賃も高い(したがって重度障害者の標準的居住水準よりも高い)とはいえ、基本的には彼女も年金生活者なのである。

 地域の会館であった時、彼女はリフトつきバンを利用していたが、外出したい時は、いつでも電話1本で、バンさえ空いていればどこへでも利用可能なシステムになっているとのことだった。

 介助の保障はどうなっているのかと尋ねると、「私は1か月で635時間の介助を受けることができ、これが日常の自立生活の支柱である」という答えが返ってきた。驚いて、「それは1日の介助受給時間に直すと、21時間前後となり、ほとんど1日中介助者のサポートがあることになるよ」と聞き返すと、「その通り。また1年間に6週間は旅行(外国など)にでれば、介助者2人が付き添ってくれる」との返答だった。

 最近の法律改正で、介助保障は公的ヘルパー派遣という現物給付から介助手当方式に変わり、彼女は現在1か月635時間分の介助手当の支給を受け、それで2名のフルタイム介助者(うち一名は実姉)、二名のパートタイム介助者と契約して、介助を受けている。新しい介助者の採用は求人求職斡旋機関のようなところで情報を得て、面接し、条件があえば契約して、雇用するという。「それにしても手厚い介助サービスだなあ」としつこく問い返すと、「障害の程度で個々の介助ニーズは異なるから、私より重度の障害者はもっと介助時間がかかり、したがってもっと手厚い介助者ケア、介助手当が支給されるのよ」という明解な答えが返ってきた。

地域自立生活権の保障を目指すもの

 私は彼女の言葉に半信半疑になりながら、同市を去り、スウェーデン最後の1日を二文字理明氏らとともに、ストックホルムのSTIL(ストックホルム自立生活協同組合、スウェーデンの代表的な障害者自立生活運動の拠点)を訪れた。そこで広報部のヨーアン氏と話をしていて彼女の言葉が真実であったことを知らされた。

 彼女に支給されている介助料を規定した法律は1994年施行の「介助手当に関する法律」(Personal Assistance Law)であり、着脱衣、入浴、食事、コミュニケーション等の基礎的活動のため、1週間最低20時間以上の介助・支援を必要とする65歳までのすべてのものに対して、社会保険局から介助手当を支給することを定めたもの(65歳以上の介助を必要とするものおよび週20時間以下の介助を要するものはコミューンからの援助が得られる)であり、待望の障害者の地域自立生活権の保障を目指したものである。

 同法は、要介助者=介助利用者が介助手当を受給するために法的に保障された権利を付与することを定めたものであり、さまざまな障害をもつ人たちが生活の質を高められるように援助すること、具体的には親・家族から独立したり、施設から地域に移れるように、また創造的(生産的)市民として活躍できるように支援することを目的としているのである。

 STILのリーダーであるラドルフ・ラッカ氏は、「同法は自己決定、自己尊重、人間の尊厳のために、そしてさまざまな障害をもつ人たちのための社会参加と平等のためにも門戸を開放するという意図で作られたもの」と評価している。

 このように、STILに代表されるスウェーデンの自立生活運動の影響も受けて成立した同法が、“日常介助の必要なすべての障害者が、親・家族や施設から離れて、地域社会の中で生活主体者として生き続ける権利”である障害者の地域自立生活権の保障の確立に寄与したと評価される理由は、大きく分けると次の2点があげられる。

 第1は前述したように、これまでのホームヘルパー派遣方式が要介助者である障害者を介助サービスの受け身的な受給者とすることへの反省に立って、障害者の自己決定の尊重を重視し、介助手当の支給を通して、障害者本人が介助者を選択し、雇用できるシステムを作り出したことである。この方式により、障害者は介助の消費者、利用者の立場から、自らが主体となって介助サービスを全体的に管理しうる力量の形成、すなわち自立生活の形成に役立てうるからである。

 第2は、これまでのスウェーデンの充実した介助サービスの水準自体は継承した同法が、常時介助を必要とする障害者を含むすべての障害者の1人暮らし、結婚生活を含めた自立生活を可能にするためのサービス水準を保障しうることである。

 その中で特筆すべき内容は、1つには、その介助手当の受給資格認定にあたっては資産調査を必要としないことである。したがって介助手当額の認定は「介助利用者あるいは利用者家族の収入や富に依存するのではなくて、唯一必要とされる時間数に基づく」こと、すなわち個別的介助ニーズにのみ基づいて介助時間量=介助手当額が決定されることである。

 2つめは介助手当額の算定ベースとなる介助時間量の内容は、在宅での介助、家事援助に主に限定された「ホームヘルプサービス」にとどまらず、社会参加活動を含めた生活全体を支援しうるサービスを意味するのであるが、別の角度からみれば、介助利用者は介助者の雇用主となるわけであるから、介助手当額の内容には、介助者の生活可能なだけの給与、社会保険料その他の雇用者としての社会的諸費用、深夜などいわゆる時間外労働への追加的報酬、介助者募集を含む管理運営的コストなどがカバーされるのである。

 さらに3つめとして、上記を踏まえての介助手当の具体的な給付水準は、最重度障害者の地域自立生活を継続して支えうるにたるレベルのものとなっていることである。

 たとえばSTILのヨーアン氏によれば、STILに登録している介助利用者160名の平均的介助量は1日10時間(週70時間)であるが、最高時間量は1日36時間(週252時間)に達している。その該当者はさすがに10名たらずとのことであるが、濃密な介助を常時必要とする重度障害者層であることが推測される(介助時間量に介助時給額を乗じて算出される介助手当月額はかなりの金額になるであろうことは容易に推測しうる)。

 同法はもちろんスウェーデン全体を対象にするものであり、地域社会で常時24時間対応できる介助システムを確立させたことや、介助利用者とその家族の所得や資産額による対象制限をしないことを含めて、国際的に画期的な障害者の地域自立生活権の保障を実現した法律として評価されるように思われる。

介助利用者に対するSTILの役割

 介助利用者に対するSTILの役割についてもふれておきたい。STILはアメリカの自立生活運動の影響も受けて、スウェーデンで障害者の自立生活モデルを先駆的に展開する障害者主体の団体であり、「介助手当法」の制定に影響を与えたり、同法の後退を阻止するための抗議運動といった自立生活運動のセンター的役割も果たしているが、同時に介助利用者の協同組合の拠点的役割も担っている。

 介助手当は社会保険局から介助利用者の銀行口座に振込まれたり、あるいは介助利用者の希望でサービス供給者に直接支払われる場合もある。STILは、こうしたサービスも介助利用者にかわって行う協同組合として、機能している。現在160名の介助利用者が全員STILの構成メンバーとなっている。

 サービス供給者といっても、STILが介助者をプールし、利用者に配分するのではない。介助利用者は自分で介助者の募集、契約をして、自らの介助ニーズに対応できるように訓練し、介助者と対等な関係を結び、時には解雇する、などの一切の責任を負うので、STILは利用者がそのような介助者管理力を獲得するように側面から支援するのである。

 STILの具体的な支援としては、1つは介助利用者に介助手当システムに関する法的な諸権利を知らせることである。

 2つめは介助手当の決定などに不服がある場合、訴訟を支援する役割であり、そのための法の専門家と連携している。

 3つめは利用者が介助者のスーパーバイザーとなれるよう、介助者管理力を獲得できるよう10日間の教育プログラムを実施している。たとえば、自らのニーズの評価力や、介助手当を申請し、支給を獲得するための主張力、自らの生活の質を高めるために介助者を活用していく力、具体的かつ全体的に介助者を管理する力などを高めるためのプログラムである。介助者の雇用主としての責任能力を高めるための訓練(労働組合との合意や労働法に規定された介助者の雇用状況、雇用の場での安全性と健康に関連した法的知識の習得など)もなされている。

 4つめは介助利用者としての経験の浅い人たちと長い人たちとの交流の場を設定するといったピアサポートグループの運営によって、介助利用者の自立能力を高めることである。

 5つめは知的障害をもつ介助利用者に対して、その家族等が介助者を募集して訓練し、監督する機能を果たせない場合、代理スーパーバイザーとして支援することである。介助手当法の施行はSTIL自体を大きく発展させたのである。

スウェーデン訪問記の終わりに

 グループホームの充実や介助手当法の施行など、スウェーデンの障害者福祉改革は注目に値するが、問題がないわけではない。週20時間以下の介助ニーズをもつ人たちなどへの介助サービスは権利性が弱いなどとの指摘がなされているし、1か月の介助手当額の算定ベースとなる介助時間数に実際の使用時間数が達しなかった場合には、その未充足の介助手当額は次の会計期間からカットされる。介助手当受給者は受け取った金額とその使用した介助時間数を明記した書類を社会保険局に送付し、未使用だった介助時間数の報告を義務づけられているのである。社会保険局の監査は厳格となり、当初の介助手当額を一定額カットされるケースも増え、STILはその抗議行動にも追われているのである。

 また、スウェーデンの課題の1つには公共交通機関のアクセス問題もある。リフトつきバンに代表されるドア・ツー・ドアの交通サービスはあれだけ充実していたのに、たとえば一般の公共バスはほとんど出入口に数段の段差があり、少なくともリンシェピン市で日常利用した公共バスは車いすで乗るのに悪戦苦闘した。これは現段階におけるノーマライゼーションの限界を示している(アクセス環境法案が最近成立し、近未来には問題解決の方向)。しかしこれらのアクセス環境の課題の報告は他日を期するとして、次回からはアメリカの障害者の自立生活動向を報告したい。

 スウェーデン10日間の調査と研修中、大阪市に在住の重度肢体不自由者の藤井規之君親子と行動を共にした。20歳の規之君はCPの四肢マヒで特に手足のマヒが強く、福祉機器の活用もほとんど容易ではない。言葉もまったく聞き取れないため、眼線で1回ずつ50音を合図するのを通訳することによりコミュニケーションが可能となる最重度級障害者である。しかし彼の自立意欲はたくましく、母親の桂子さんは最重度の規之君でも親から本当に自立が可能なのかを探追すべく、今回のスウェーデンでの調査と研修に参加されたのである。

 桂子さんにストックホルムで別れる最後に感想を尋ねると、「この国の障害者福祉レベルは高すぎて現実感覚が湧かない」との返事が返ってきた。しかしこの返答は、同じ“先進資本主義国”でありながら、日本の福祉水準の著しく遅れた状況にふだんから置かれ、そのことが当たり前となっていることを前提とした発言であり、彼がこの国でなら自立可能という確信をもった旅だったに違いない。

 それにしても常時濃密な介助を必要としながら、自立と連帯を求めて、たくましくかつすがすがしく生きておられる2人との出会いは強く印象に残った。この見聞記はそんなお2人に捧げたいと思う。

 最後に、二文字氏にも謝意を表したい。毒舌家だが、心やさしい二文字氏のご指導なくして、この見聞記を書き上げることは困難だったからである。

(さだとうたけひろ 大阪府立大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号) 38頁~41頁