フォーラム'97
米国の障害者雇用統計発表さる
―障害者雇用が80万人増―
久保耕造
果たしてADAの効果か
米国における1994年の第4四半期における障害者雇用統計が発表された。これによると、障害者の26.1%が雇用されている。これは、ADA(障害を持つアメリカ人法)が制定された後に初めて行われた一九九一年の第四四半期の調査時点での23.3%という雇用率と比較すると、率にして2.8%、人数にして80万人の障害者雇用の増加があったことになる。
米国の人口統計の基本資料となるのは国勢調査局(Bureau of Census)が行う人口動態調査(Current Population Survey,CPS)である。CPSは毎月行われているが、その目的は、障害者に関する実態を明らかにすることではない。また、三月には三月追加調査(March Supplement)が行われるが、これも障害者の実態調査につながるものとはなっていない。たとえば九六年の三月の追加調査の結果では障害者の雇用率はまったく伸びていないとされていた。昨年のADA制定五周年の記念行事の場では、その年の三月追加調査の結果に基づき、雇用率の伸びの悪さについて議論がなされていた。
これに対して、今回、八十万人の雇用増という調査結果を出したのは、CPSを実施するのと同じ国勢調査局が行った所得および社会保障受給調査(Survey of Income and Program Participation,SIPP)である。障害者の雇用統計についてはCPSよりもSIPPのほうがより正確な統計を提供するものとなっている。さらに、今回のSIPPの調査の中で質問されている障害者関連事項については、ADAの定義と同一の定義が適用されている。
障害者雇用大統領委員会の議長であり、議員在職中にはADA制定の推進者のひとりであったトニー・クエロ氏は「ADAが障害者雇用にもたらした影響について初めて明らかにしたものである」と、この調査結果を評価している。確かに、この期間が、経済の低迷期にあったことを考えると、八十万人の雇用増というのは画期的な伸びであったといえる。しかし、クエロ氏は「今回の雇用増は好ましい材料ではあるが、ADAがもたらす社会的・経済的影響の大きさがあらわれるのはまだこれからである」とも付け加えている。雇用機会均等委員会(EEOC)のポール・ミラー委員長も同様の指摘を行っている。
この八十万人の雇用増が果たしてADAがもたらしたものか否かについては評価のわかれるところであるが、ともあれ歓迎すべきことであるのは間違いない。
1991年 (9~12月) |
1993年 (9~12月) |
1994年 (9~12月) |
1991年から 1994年への 増減 |
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数 (1,000人) |
雇用率 | 数 (1,000人) |
雇用率 | 数 (1,000人) |
雇用率 | |||
人口 | 総数 | 144,075 | 75.1 | 148,244 | 75.1 | 148,369 | 76.2 | 1.1* |
非障害者 | 116,641 | 80.5 | 119,414 | 80.6 | 119,960 | 82.1 | 1.6* | |
障害者 | 27,434 | 52.0 | 28,830 | 52.4 | 29,409 | 52.3 | 0.3* | |
重度 | 12,494 | 23.3 | 13,819 | 25.0 | 14,219 | 26.1 | 2.8* | |
中・軽度 | 14,940 | 76.0 | 15,011 | 77.7 | 15,190 | 76.9 | 0.9* | |
機能障害 | 総数 | 18,012 | 48.6 | 19,400 | 49.7 | 17,797 | 48.6 | 0.0 |
重度 | 6,352 | 27.6 | 7,232 | 29.7 | 6,841 | 32.2 | 4.6* | |
支障がある 文字を見る | 4,567 | 45.5 | 5,155 | 45.5 | 4,002 | 43.7 | -1.8 | |
通常の会話 | 5,222 | 63.7 | 5,650 | 65.4 | 4,489 | 64.4 | 0.7 | |
持ち運び | 7,548 | 32.1 | 8,149 | 34.5 | 8,026 | 34.8 | 2.7 | |
階段を昇る | 7,803 | 30.1 | 8,584 | 31.6 | 8,517 | 33.9 | 3.8* | |
3ブロック歩く | 7,672 | 31.5 | 8,600 | 31.9 | 8,697 | 33.5 | 2.0 | |
日常生活動作(ADL**)に制約 | 3,313 | 25.3 | 3,820 | 26.8 | 3,640 | 27.2 | 1.9 | |
手段的日常生活活動(IADL***)に制約 | 4,811 | 22.9 | 5,375 | 25.4 | 5,434 | 27.1 | 4.2* | |
ADLもしくはIADLに人的介助を要す | 3,704 | 21.2 | 4,021 | 23.1 | 4,065 | 24.6 | 3.4 | |
車いす使用者 | 495 | 18.4 | 582 | 20.9 | 685 | 22.0 | 3.6 | |
車いすは用いず、杖、松葉杖、歩行器など を使用する者 |
1,484 | 25.2 | 1,841 | 29.2 | 1,609 | 27.5 | 2.3 |
* 増減の確度は90%である。
** 日常生活動作(ADL)とは、室内歩行、ベッドやいすなどの乗り降り、入浴、衣服の着脱、食事、トイレの使用などのことである。
***手段的日常生活活動(IADL)とは、道具を用いる日常生活動作のことで、屋外への外出、家計簿の記録、食事の準備、軽い家事、電話帳の利用などである。
(くぼこうぞう エンパワメント研究所)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号) 52頁~53頁