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シリーズ/市町村障害者計画

総理府障害者施策推進本部担当室加々見参事官に聞く

聞き手 藤井克徳

プランの推進を左右する「市町村障害者計画」

●藤井 一昨年12月に「障害者プラン」が策定されて、ほぼ1年経ちました。私ども、障害がある当事者や家族、民間団体としましては、プランに寄せる関心や期待は非常に大きいものがありました。十分ではないとされていたわが国の障害者施策にあって、初めて数値目標が明定されたこと、総合性を高める意味から総理府によって策定されたことなど、多くの点で画期的な内容をもつものだと思います。

 さて本日は、「障害者プラン」を実質的に裏打ちするものとされている「市町村障害者計画」に焦点を当て、これを所管している総理府障害者施策推進本部担当室の加々見参事官にいろいろと伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。本論に先立って、「プラン」が滑り出した現時点でお感じになっていることや考えておられること、これらについてお話いただきたいと思います。

●加々見 まだ初年度の最中でもあり、少なくても1年間の結果を見ないと判断はできませんが、「プラン」と「市町村障害者計画」が表裏の関係にあることからすれば、必ずしも十分な進み具合とは言えないと思います。ただ「障害者計画」につきましては、今年度に入ってから、都道府県やいくつかの市町村の障害者計画に数値が入れられるなど、新たな動きが見られます。そういう意味では画期的だと言われましたが、おっしゃるとおりだと思います。

●藤井 そこで早速、「市町村障害者計画」に話を移していきたいと思います。先ほど述べられたように、「障害者プラン」と「市町村障害者計画」は表裏の関係にあるわけです。すなわち、プランに盛り込まれた施策の大半は、その実施主体や運営主体を市町村が担うこととなり、「市町村障害者計画」の出来映えが「障害者プラン」の進捗に大きく関係するように思います。「市町村障害者計画」の策定状況については、総理府をはじめ、民間団体においても調査が行われています。これらの結果を見る限りでは、決して十分な状況にはないように思います。改めて、「市町村障害者計画」の策定状況がどのようになっているのか、この点についてお聞かせください。

●加々見 総理府では、昨年4月に調査を行いました。これによると、計画策定済みと回答のあったところは334市町村でした。市区町村全体の約1割程度です。それ以降だいぶ増えていまして、おそらく15%ぐらにはなっているのではないでしょうか。全体からすれば、必ずしも多いという状況にはないと思います。

計画の策定なお10%台

●藤井 一昨年5月、総理府によって「市町村障害者計画策定指針」がまとめられました。あの中の留意事項で、「平成8年度中に策定することが望ましい」と、努力目標としながらも期限を明記していますね。平成8年度中と言いますと、残された期間はもうわずかです。現時点での10%あるいは15%という数字について、どう評価されていますか。

●加々見 市町村での実際の策定のされ方を見てみますと、都道府県にかなり指導してもらっているところが多いように思われます。今は都道府県レベルの障害者計画づくりや旧計画の見直し、また市町村向けの指導マニュアル作成などに力が注がれているように思います。これらを受けて、市町村障害者計画を策定するというところも少なくないのではないでしょうか。平成8年度中となるとかなり厳しいものがありますが、来年度に向けてかなり期待できると思います。

●藤井 それほど悲観的ではないとのことですが、現時点での15%ぐらいという数字は、思いのほか低いのではないでしょうか。なぜ策定が進まないのか、その原因や背景として何が挙げられるでしょう。

●加々見 一つは、「ゴールドプラン」や「エンゼルプラン」など、さまざまな行政計画の策定がこの時期に集中しており、「障害者計画」だけにエネルギーを注げないという事情があるように思います。それからもう一つ、市町村の多くは規模が小さく、策定に取り組む体制が整っていないということもあろうかと思います。

●藤井 とくに、町や村の段階でのマンパワーの弱さについては、非常に大きな課題だと思いますが、これに加えて財政上の問題も計画策定を鈍らせている要因になっているのではないでしょうか。当然のことながら計画策定は即予算と連動することになり、予算面の理由から足を踏み込めないでいる自治体もあると伺っています。また、先ほどおっしゃいましたさまざまな行政計画の策定が求められている中にあって、障害分野についてプライオリティが高まらないと言う問題もあるようです。これらについて、総理府ではどのように考えておられますか。

●加々見 厚生省においても、市町村の障害者計画策定に継続ついてのモデル事業などが実施されています。国の「市町村障害者計画策定指針」をはじめ都道府県においてもマニュアル作成が進められているなど、いろいろな形でお手伝いがなされているように思います。同じ県内の先進的な計画をモデルにしているところもあるようです。一挙に策定が進むというわけにはいきませんが、大きな道筋はつけられたように思っていますが。

推進具体化のために今、何を

●藤井 たしかに大きな筋道はつけられたと思います。平成8年度末までは様子を見るというのもいいと思います。しかしながら、最終的にどの程度の市町村で計画策定が図られるのか、不安が残るところです。決定的な策はないとしても、総理府を先頭に各省庁において、この時期もう少し踏み込んだ対応策が必要かと思います。総理府として、何か秘策は考えておられませんか。具体的な推進策について、もう少しお聞かせください。

●加々見 総理府が主催しているもので、「障害者施策推進地域会議」があり、各地(全国を3ブロックに分けて)で開催しています。この会議においても、「市町村障害者計画」の推進を重要な柱として位置づけ、議題に掲げています。また、今年度の「障害者白書」でも、「障害者プラン」の推進との関係で「市町村障害者計画」の意義や推進の必要性を大きく取り上げ、具体的な事例なども紹介しています。今後とも、お手本になる事例などは積極的に紹介していきたいと思っています。総理府だけで成し得ることは難しく、関係省庁をはじめ、自治体とか関係の団体の皆さん方にもいろいろご協力をお願いしていきたいと思っています。

●藤井 今のお話に加えて、公的には自治省に対して、また関係団体としては都道府県知事会や全国市長会、全国町村長会といった、いわゆる地方6団体などに対しても協力を求めていく必要があるのではないでしょうか。

●加々見 引き続き自治省や関係団体にも計画策定推進を図っていただくよう、強力にお願いしたいと思っています。行政が主体となりながらも、関係機関・団体がしっかりと連携していくことが重要になってきます。総理府としましても、各方面からご支援をいただきますようお願いしていきたいと思います。

中間年の追い風を活かしながら

●藤井 「障害者プラン」や「市町村障害者計画」を推進していくための重要な視点として、これらの存在そのものの啓発を進めていかなければならないと思います。ところが「障害者プラン」にしろ「市町村障害者計画」にしろ、その認知度は非常に低い状況にあります。残念なことに障害者団体の関係者や障害当事者を含めて、その本質や正確な内容となりますと、あまり広がっていないように思います。市町村のレベルについても、同じことが言えるのではないでしょうか。「ゴールドプラン」や「エンゼルプラン」と比べて、その知名度はだいぶ低いと思いますが。

 「プラン」が策定されて1年近く経ち、少しタイミングはズレましたが、今からでも大規模な啓発事業があってもいいと思います。

●加々見 今年は「アジア太平洋障害者の十年」の中間年にあたります。関係の機関や団体においても、さまざまな催しが準備されていますが、障害分野についての関心も新たな高まりが予想されます。総理府としてもさまざまな手段により啓発に努めてまいりますが、関係省庁にもご努力いただいて、「障害者プラン」や「市町村障害者計画」の推進、啓発についても、新たな展開を期待したいと思います。

●藤井 一昨年、総理府によって策定された「市町村障害者計画策定指針」がありますね。あの指針はなかなかよくできていると思います。ところが大変残念なことに、ほとんど活用されることなく眠ったままの状況にあるのではないでしょうか。十分に活用されれば、もう少し「市町村障害者計画」の策定状況にも変化が見られると思います。新たな手法ばかりではなく、改めて指針の活用を徹底していくのも有効な策のように思えるのですが。

●加々見 指針が、まだ十分隅々まで通知されていないのであれば、その周知を図っていきたいと思います。

●藤井 全国の市町村の首長さんを含め障害福祉担当者の方々に、「市町村障害者計画」をはじめこれからの障害者施策の推進にあたって、このことだけは大切にしてほしいという点がありましたらいくつか挙げていただけませんか。

●加々見 まずは、国の「障害者プラン」に盛り込まれている施策項目について十分検討していただき、これらを盛り込んだ計画としていくことに力を入れていただきたいと思います。そのうえで、それぞれの地方や地域に即して創意工夫をこらした独自の事業を盛り込んだ施策を講じてほしいと思います。市町村による独自の事業が展開されていくことが、ひいてはプランの進展に弾みをつけることにつながるのではないでしょうか。

 それぞれの都道府県や市町村の努力や創意工夫の喚起に向けて、総理府としても力を入れていきたいと思います。同時に、関係団体の皆さん方も積極的に働きかけていただき、優れた市町村計画がたくさんできるようにしてほしいですね。

●藤井 優れた「市町村障害者計画」の策定を、というお話ですが、私どもは策定された計画を見せていただいていますが、内容にかなりの落差がありますね。人口規模を含め、自治体の条件や特性はかなり異なり、計画の内容に特徴や差はあってもいいと思います。しかしながら、限度を超えるような格差があってはならないと思います。率直に言って、形だけの計画というものも見受けられます。

●加々見 これまではプランの策定に全力をあげ、とりあえず第一歩を踏み出したわけです。そして今、「市町村障害者計画」の質が問われる段階にきているのです。全体的にレベルアップするよう、これからも効果的な手を打っていきたいと思います。

問われる民間団体の力量

●藤井 最後になりますが、「障害者プラン」の中間見直しについて伺いたいと思います。プランには「必要があれば中間見直しを行う」とあり、とくに「市町村障害者計画」の策定状況等を踏まえる旨が記されています。時間的な制約もあってか、厚生省施策以外は数値目標が盛り込めなかったわけで、そうした点からも中間見直しは必要だと思いますが。

 「市町村障害者計画」策定の推進と並行して、中間見直しの準備にとりかかる必要があるかと思います。どういう視点とスケジュールを考えておられるのでしょう。

●加々見 「障害者プラン」の中で、プランの実施状況について定期的にフォローアップを行うことになっています。その方法については、各省庁とも相談しながら、進めていきたいと思います。お話があったように、市町村計画の策定状況なども併せ見ていく必要があります。

●藤井 中間見直しにしろフォローアップにしろ、これを推進していくためには各省庁間の連携あるいは協力が不可欠になってくると思います。プラン策定の過程では、関係省庁の担当課長会議が精力的に開催されていたと聞いています。プラン策定後は、こうした課長会議は開かれていますか。

●加々見 総理府がとりまとめている担当課長会議は、2、3か月に1回の割合で開催しています。プラン策定時もそうでしたし、「障害者白書」の作成過程など、節目節目で必要な調整や協議を行っています。

●藤井 民間団体に対する期待や要望がありましたら、お聞かせください。プランの中間見直しに向けて、また市町村計画の策定に向けて、私たちとしても行政まかせという消極的な姿勢ではいけないと考えています。独自の力で、障害がある人々の実態やニーズを把握し、これらの上に建設的な視点からの提言や提案を積極的に行っていかなければならないと思います。

●加々見 民間団体の皆さんによって、シンポジウムの開催や調査活動などが行われていますが、「プラン」や「市町村障害者計画」の推進に大きな力になっていると思います。民間としての固有の役割に加え、行政機関と十分に協力体制がとれればと思います。

●藤井 今日は、大変貴重なお話をありがとうございました。

(ふじいかつのり 新・障害者の十年推進会議企画委員、本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号) 54頁~58頁