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特集/障害のある人の介護を考える パート2

住民のニーズに合ったサービスの提供

―障害者生活支援センター「ひき」の活動―

曽根直樹

1.利用者中心の介護支援サービス

 私たち社会福祉法人昴では、平成4年、「ファミリーサポートセンター昴」を設立し、在宅障害者とその家族の介護支援サービスを有償サービスとして開始しました。「レスパイトサービス」という名称ではじめたこの事業は、当時、全国的にも1~2の民間の先駆的な事業所が行っているのみで、埼玉県でも初めての試みでした。全く新しい事業のため、行政の補助もなく、建物も一般の借家を使い、利用者と個別の契約を結んで、会費と利用料を負担してもらい運営するという形態をとりました。有償サービスが、果たして利用者に受け入れられるのか、また、どれだけのニーズがあるものか心配していましたが、年々会員も増え、開始当時62人だった会員数が、平成7年度には110人になり、利用件数も平成4年度は延べ147件だったのが、平成7年度には延べ1107件と、7倍に増加しました(図)。

図 ファミリーサポートセンター昴の4年間の実績

図 ファミリーサポートセンター昴の4年間の実績

 開始当初、私たちが考えていたのは、障害をもつ人を介護する家族が息抜きをするために1~2泊安心して預けられる、宿泊型一時預かりサービスといったものでしたが、実際にサービスを続けていると、利用者が求めていることは、実に多様であることに気がつきました。
 現在、サービスメニューとしては、一時預かり、移送、介護者の派遣の3種類のサービスを組み合わせて、電話1本で利用できる仕組みになっていますが、最も多い利用パターンは、自宅から通所施設、学校までの送迎を伴う2~4時間程度の日帰りの一時預かりです。宿泊の利用も年間100件程度あります。また、介護者の派遣を要請されることも増えました。自宅での介護はもちろん、保護者に代わって病院の理学療法訓練に付き添ったり、コンサートなど本人の外出や家族同士のグループ旅行、冠婚葬祭に本人が出席するための同伴等、さまざまな依頼があります。
 はじめは、単純に「一時預かり」と考えていたことが、利用者の求めに応じてサービスを提供していくうちに、大切なのは、個々の利用者に合わせたサービスを提供することであると考えるようになりました。一人ひとりの利用者が求めているのは、「自分の望む生活」が援助されることであり、制度的な制約やサービス提供者の事情に合わせて生活することではないのです。

2.障害者生活支援センター「ひき」の開設

 昨年10月、地元東松山市をはじめとする比企10市町村(東松山市・滑川町・嵐山町・小川町・都幾川村・玉川村・川島町・吉見町・鳩山町・東秩父村―人口24万人)は、こうした実績に対して、埼玉県のモデル事業を受託し、市町村の負担金を共同出資して、私たちが行ってきたような介護支援サービスを公的サービスとして提供する事業を開始し、昴に委託しました。
 これは、埼玉県が昨年度新しく創設したモデル事業の指定を受けて行われています。モデル事業は、障害者プランで創設された相談事業「市町村障害者生活支援事業」と、介護サービスを提供する埼玉県単独事業の「在宅重度障害者生活支援モデル事業」の2つからできています。障害者プランによるサービスは、人口30万人程度の「障害者保健福祉圏域」を単位に整備を進めることになっています。今回、事業を共同で実施する比企10市町村の総人口はおよそ24万人です。今後、障害者プランのために市町村が共同で1つのエリアを作ることが進むと思いますが、比企郡はその先駆けといえます。

3.障害者生活支援センター「ひき」のサービス

 センターの事業は、相談活動を行う生活支援サービスと、介護を提供する介護支援サービスに分かれています。
 相談を行う生活支援サービスには、コーディネーター2名が配置され、介護サービスの登録申請・予約の他、各種制度の利用や介護支援に関する相談・情報提供などに応じています。また、住宅改造や年金、リハビリテーションといった専門分野の相談には、嘱託の専門援助員があたることになっています。
 介護支援センターには、常勤・非常勤併せて3名のスタッフが配置され、サービスを行っています。サービスの内容は一時預かり、送迎、介護者の派遣で、ファミリーサポートセンター昴が行ってきたレスパイトサービスと同じような内容になります。介護サービスに対する利用者の負担は、1人年間150時間まで無料です。
 事業の委託先は、法人が運営する通園施設「ハローキッズ」となっています。しかし、昴では、これを通園施設のオプションとしてではなく、エリア共有の社会資源として、施設から、スタッフも場所も分離して、「障害者生活支援センターひき」という、独立した事業所として開設しました。そして、一施設の事業としてではなく、比企10市町村の事業であることを前面に出して運営しています。この結果、従来の法人独自事業であった「レスパイトサービス」とは、明らかに違った展開が生まれてきました。
 昴は、知的障害、あるいはそれに身体障害を重複した方の施設を運営してきた関係で、従来のレスパイトサービスの利用者は、昴の施設利用者や卒園生、またはその友人といった層に限られていました。
 しかし、「ひき」の利用者は、従来からの利用者はもちろん、事故による頸椎損傷の方や脳卒中の後遺症の方など、これまで以上に多様な状態の方が利用するようになりました。
 介護サービスの利用登録は、市町村福祉課が行い、そこから支援センターにファックスで連絡が入ることになっています。登録をした後は、支援センターに直接電話で介護の予約をします。1日の受け入れ定員は日帰り5人、宿泊2人です。市町村福祉課や、郡の福祉事務所、訪問看護ステーションなど、行政を含めた他の社会資源と連携して仕事を進めることも多くなり、公的サービスとしてエリアの障害者の生活を支援するという性格が強くなってきました。この事業の運営について、比企10市町村の福祉課・郡福祉事務所担当者と事業者で運営委員会を構成し、協議をしていくことになっており、実体としても一施設の事業ではなく、エリアの住民共有のサービスとなってきています。
 しかし、課題も残っています。現在、支援センターの登録者は130人を超えるまでになり、さらに毎日増え続けています。支援センターの必要性の高さを証明しているともいえるわけですが、人口24万人の比企エリアには、重度の知的障害と身体障害をもつ人だけでも1800人の人たちが生活しています。今後、利用者数はその数字まであがっていくことが予想されます。しかし、現在の事業は、補助金額が定額になっており、需要が増えたときに予算を増やして、供給をそれに追いつかせていくといったルールがありません。これは、利用が増えた結果、介護サービスが対応しきれなくなることを意味します。エリアに必要とされている介護サービスの供給量をどう整備していくかが、今後の大きな課題となっています。

4.この街の福祉サービスを

 今、障害者プランの事業は、既存の福祉施設への委託という形で整備が進もうとしています。これは、施設のもつサービス提供のためのノウハウやマンパワーに期待してのことでしょう。
 しかし、それは裏腹の問題として、本来そこに住む住民のニーズによって形成されなければならないはずのサービスが、事業を受託した施設の考えや事情によって左右される危険性をはらんでいるともいえます。地域福祉をキーワードに出発したはずの障害者プランが、結果として地域住民のニーズを中心としたものではなく、施設なしには成立しない、「施設中心の地域福祉」という、施設に依存した状況が作り出されることが懸念されます。
 障害者生活支援センター「ひき」は、その運営スタイルの試みとして、施設や法人が表面に出ないように、市町村の共有財産としてサービスを提供することを模索しています。地域福祉の「地域」を市町村と考えると、その街にどういう福祉サービスが必要かということを、住民のニーズを中心に、街の行政が主体となって考え、その計画に沿って整備されることが望まれます。私たちは、障害者生活支援センター「ひき」だけでなく、法人の事業全体が、街の障害者計画の一環として、地域の中で役割を果たしていきたいと考えています。

(そねなおき 障害者生活支援センターひき所長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)8頁~11頁