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特集/障害のある人の介護を考える パート2

地域介護システムにおける入所施設の役割

―清湖園の取り組み―

杉橋研一

 介護保険制度が制定される運びとなっている。内容についてはまだまだ論議されるべき状態だが、受益者の自主選択が全面に打ち出されたことにより、対象者が65歳以上の高齢者とうたわれていても、身体障害福祉関係者である我々にも大変インパクトの強いものとなっている。
 これまでの流れから、福祉八法の改正、障害者基本法の制定、障害者プランの提示などと、身体障害者の福祉制度が「国連・障害者の十年」の「完全参加と平等」「ノーマライゼーション」の理念のもとに、障害者本人主体の環境整備へと進展しているのを頼もしく感じ、一方で正直なところある種の懸念、危惧に近い気持ちを抱いている一人である。
 懸念・危惧の主な内容は、「地域福祉」と「施設福祉」があたかも利害対立するような捉え方が、時々施設関係者の考えの中に、また自らの頭に戸惑いながらもしばしば垣間見える。福祉施設は本来、地域の機能の一環として存在するものであって、利害が対立するような「福祉施設」があるとするなら、その施設の使命はすでに終わっていると言わざるを得ないことは、建て前上だれでも認めるところである。
 ただ、相互扶助的イメージのある「地域」そのものの存在への疑問や、地域社会の障害児者に対しての無理解・理解不足、あるいは福祉施設の独善や措置費制度そのものの矛盾、そして既成組織に発生しやすい硬直化などが、「利害対立」意識を派生させる主要因であろう。このうち前述の2つは福祉施設建設時の周辺住民の反対や、障害者の社会的要求場面での一般社会の冷淡さによく現れ、何とか理解を深める手だてが必要である。しかし一方の当事者である施設側の独善や矛盾、硬直化論理については、福祉施設従事者として常に戒めていないと、往々にして利用者や地域社会との軋轢となって表出してしまうことは、関係者はしばしば経験済みであろう。
 さて清湖園は1982年、琵琶湖の西北部に位置する、人口1万3000人ほどの今津町に開設された身体障害者療護施設である。定員50人、ショートステイ1ベットの運営である。因みに今津町は滋賀県の7福祉圏域のうちの1つ、高島郡にあり、郡の5町1村の人口は5万3000人と県では最小圏域でやや過疎的な地域である。
 そして当園は90人の特別養護老人ホームと併設の上、80床の病院と一部合築である。その上、施設入居者が社会的に極度の少数派である最重度の身体障害者であって、しかも地元の出身者は、高島郡にエリアを広げても数人という状態のため、はじめのうちは地域にほとんど縁のない知られない存在であった。
 このような環境や状況の中で、独自のさまざまな地域交流事業をはじめとする働きかけや、措置権限の委譲などで、ようやく今津町の市が崎には老人ホームや病院だけでなく、身体障害者の生活施設があると認識されるまでになり、昨年11月からは障害者生活支援事業を受託することにつながっている。
 しかし、50人の入居者を世話するための生活施設が支援事業を実施するということは、入居者のために向けられていた生活局面での多様な介助付きサービスの一部を、必然的に在宅者にも提供する態勢を今以上に取ることとなる。
 田舎の生活施設である当園がこの事業に踏み切ったのは、小なりといえども地域の社会資源としての施設でなければならないという意志と、現在の入居者に多少の負の影響があっても、必ずそれを補って余りあるダイナミックな生活を得られると確信するからである。
 当園の運営方針の柱として1つめは「入居者にとって住み良く、安全で、意義のある生活の場を提供する」こと、2つめは「地域の重度障害者の中核的施設をめざす」である。1つめの柱はここ10年来の方針であるが、地域を具体的に意識しだしたのは「意義ある生活の場」とは、日課の多様性・選択性と社会参加の豊富な機会と捉えた時からである。そしてこの両者は不即不離の関係であると考えたからである。その延長線上に2つめの柱を6年ほど前に加えた。
 社会参加の機会とは、現状では日常的にはちょっとした自由なショッピングや小旅行、地域の共同作業所への通所程度のことであるが、地域行事や公民館活動への参加、あるいは入居者の自主的グループまたは個人のパフォーマンスは、人手さえあればほとんど参加が可能である。
 このような活動の中に在宅生活の障害者を巻き込むことは十分可能である。これを実現させる1つの手段として、障害者生活支援事業を取り入れた。そしてこの真のねらいは、希望的観測であるが、この道筋から在宅の障害者が逆に施設内機能を活用し、時には家族やそのボランティアとともに入り込んで、施設独自の小さくまとまった日課体系を変革していくことである。そして、このことが社会参加の意欲や希望をもつ施設生活者に、意義ある生活に結びつける方策を提供する強力な基盤となり、同時に生活施設が地域の重要な社会資源の1つとなり得るという強い期待があってのことである。
 最終的には福祉施設を、在宅・入居を問わず、障害者本人を含む地域の人々が、いかに自分のものとしてフルに利用することができるかに尽きる。ここで柱の2つめの地域の中核施設をめざす、が具体化することになる。
 ただ、このようなことがほんとうに良い方向で実現するのか。施設生活者が施設内にいることにより、享受?している温室的特権?を失うことになりはしないか、必ずしも社会参加的意欲をもたない人や、意志疎通も困難な、また意識障害をもつ人への対応はどのように位置づけていくか、そして現在の清湖園の機能や実力への不安、職員の配置や労働条件はどうかなど、大きな宿題をいくつも抱え込んでいる。

(すぎはしけんいち 身体障害者療護ホーム清湖園園長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)12頁・13頁