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特集/障害のある人の介護を考える パート2

世田谷区における精神障害者へのホームヘルプ

斎藤嘉美

☆要綱に取り込むまで

 世田谷区は平成7年度よりホームヘルプの事業拡大を大幅に行いました。回数の増加(7年度は1週間に3時間程度を1回とし、最高5回まで、8年度は7回まで)とともに、高齢者では若年痴呆(65歳未満でも可)、障害者では難病療養者、寛解状態にある精神障害者へも派遣対象を広げました。
 例えば、高齢の親と中年の精神障害をもつ子どもの2人世帯で、高齢の親に対してヘルパー派遣をし、親の援助を行いながら子どもへの助言等を必然的に行ってきました。しかし、親が入院をすると、その世帯への援助を打ち切らざるを得なく、親は子どもを案じ自己退院を考え、子どもは親もいないうえにヘルパーも来ないため不安を増大させる繰り返しがありました。
 このようなとき、公務員ヘルパーである家庭奉仕員は、対象者の親が入院している間は制度上子どもに関われない矛盾を、業務上の検討会や労働組合が主導する「家庭奉仕員あり方検討会」で訴え、障害者手帳がなくても、生活の切り盛りが困難な精神障害者や難病療養者も派遣対象とすべきであると積極的に討議し、当局へ提言していきました。
 その後、職制サイドの検討会やヒアリングが行われ、仕事の本質、対象者の抱える問題の深刻さ等を確認し、ホームヘルプのあるべき姿を整理する中で精神障害者への家庭奉仕員派遣が実現しました。先の親子は、親は安心して長期入院を決意し、子どもは家庭奉仕員とともに生活の切り盛りを覚え不安を解消しています。
 こうした背景には、現場での経験を通した家庭奉仕員の粘りと精神保健福祉法制定の結果だと思います。区当局が他の自治体に先駆けて家庭奉仕員派遣を実施したことで、ほんの少しですが、親なき後の心配の解消ができ、家庭奉仕員もこれまでのあいまいな援助からホームヘルプの対象者としての援助ができるようになり、大きな前進となりました。

☆実践から見えること

 当面寛解状態とは、比較的症状が軽くて、主治医、保健婦が関わっていることです。精神障害者の場合は、自分からホームヘルプの申請をすることは少なく、保健婦との連携で派遣に至ることが大半をしめています。家庭奉仕員は、高齢者、身体障害者の場合、多くは家事などができないところを代わって援助しますが、精神障害者は一緒に行動し、生活の切り盛りができるように援助しています。
 長い間、母親とアパートで暮らしていた50代の男性は、母亡き後、火の不始末を家族が心配し、ガスの元栓も閉められ、厳冬も小さなコタツ1つの生活でした。しかし、家庭奉仕員が関わりだし、足の踏み場もない室内の清掃や、簡単な洗濯を一緒に行うことの繰り返しのなかで少しずつ自分でできるようになりました。
 家庭奉仕員との信頼関係もできた頃冬を迎えましたが、自室には暖かいお湯はありませんでした。家庭奉仕員は家族に安全設計の電気ポットの購入をすすめ何度も話し合ってやっと購入することができました。「初めて暖かいタオルで顔を拭き、暖かいインスタントコーヒーを飲んだ時の笑顔を忘れられない」と家庭奉仕員はうれし涙で報告しました。家族との話し合いのなかから、過去に火の不始末があったとのことで大変悩んだ末の判断と聞き、家族の困惑もよく分かりました。
 精神障害者は家族や地域の無理解から孤独感を募らせ、神経を張り詰めているうちに生活が上手くできなくなっている方が多いように感じます。そのため、家庭奉仕員は、家事援助をしつつ張り詰めた神経を少しでもほぐせるようリラックスした状況での信頼関係を作り、本人の気持ちを第一に考え、自分の行動に自信がもてるよう援助しています。
 服薬の管理が自分でできない単身者の場合、多くの場合腐敗したものも食べてしまったり、曜日を間違えてしまうなど、生活の基本が崩れることがあります。そのため服薬も何時の分を飲んだか分かるような管理の工夫や保健婦や医師との連携で1日3回分を2回で済むようにしたり、時には電話で服薬を促したりと試行錯誤しています。そのようなとき、作業所等施設との関わりがあれば施設で保健婦ら関係者のカンファレンスを開き、情報交換と共に援助方法を一致させ、本人が混乱しないよう対処しています。
 また、今後の課題として、現在の滞在型と、高齢者には既に行われている巡回型を組み合わせる等ホームヘルプサービスの改善も必要になってきます。

☆研修等バックアップ体制について

 現在、精神障害者への派遣は、原則として家庭奉仕員としています。彼らは非日常的なことに遭遇した時や孤独感を募らせたときなど不安が高じてパニック状態になり、近隣とのトラブルとなることがたびたびありますが、家庭奉仕員の関わりがあると、地域での理解が得られることも増えてきました。
 現在、世田谷区は外部から講師を招いて家庭奉仕員の研修を年2回程度実施しているほか、訪問看護婦や保健婦との合同研修等も実施しています。運営は家庭奉仕員自身が行っており、その時々の処遇困難な事例に合わせて計画することができ、援助のレベルアップにつながっています。時々、精神病院の看護長による精神病の概要、看護を通しての援助方法や、コロニーから精神分裂病の回復者本人やスタッフから話をしていただくこともあります。いずれの研修も家庭奉仕員から真剣な質問が相次ぎ、問題意識の深さを痛感させられました。また、事例発表会を開き、それぞれ率直な意見交換を行っておりますが、まだまだ勉強不足を感じ専門研修の必要性を実感しています。
 だれもが安心して地域で生活できる真のホームヘルプとは何か、行政の責任とは何かを今後も考えつつ、仕事を進めていきたいと思います。

(さいとうよしみ 東京都世田谷区世田谷福祉事務所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)18頁・19頁