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フォーラム’97

平成7年度精神薄弱児(者)基礎調査の概要

厚生省大臣官房障害保健福祉部障害福祉課

1 調査の目的

 精神薄弱児(者)福祉施策の一層の充実を図るため、その生活の実情とニーズを正しく把握し、今後における精神薄弱児(者)福祉行政の企画・推進の基礎資料を得ることを目的としました。
 今回の調査は、前回の平成2年度と同様に実施したところであり、初めて時系列比較が可能となりました。

2 記入者について

 これまで、精神薄弱という障害のある人は、自ら主張したり、訴えたりすることが困難だといわれてきました。しかし、前回及び今回の調査において、多くの本人が自ら調査に答えています。高い回収率とあわせて、調査の趣旨が理解され、生かされたと考えています。
 ここ数年、「手をつなぐ育成会」(親の会)等にも、「本人たちの会」が次々と組織されて、精神薄弱者本人たちの活動の拠点、自己主張、意見交換の場が増えつつありますが、まだまだ、一般の方々には、精神薄弱者は意見をもたない、何もできないという認識が根強くあります。精神薄弱という障害があっても、堂々と意見を言える、同じ人間だという認識へ、今回の結果が刺激になればと思っています。そして、近年の流れである、本人意思の尊重ということが、関係者のみならず、一般の方々にもひろまることを期待しています。

3 調査結果の概要

 以下の結果の概要は、今回の調査の対象である在宅精神薄弱児(者)について述べたもので、数字は推計数、割合は在宅の精神薄弱児(者)についてのものです。

(1)精神薄弱児(者)数

 今回の調査によると、全国の在宅の精神薄弱児(者)はおよそ29万7000人(18歳未満およそ8万6000人、18歳以上およそ19万5000人、年齢不詳およそ1万6000人)と推計されます。
 なお、施設入所児(者)はおよそ11万6000人(18歳未満およそ1万1000人、18歳以上およそ10万5000人)であり、わが国の精神薄弱児(者)総数は、およそ41万3000人(18歳未満およそ9万6000人、18歳以上およそ30万1000人)と推計されます。
 前回(平成2年度、以下同)の調査時のおよそ38万5000人と比べておよそ2万8000人、約7%の増加となっています。

(2)障害の程度

 障害の程度は、「最重度」「重度」が約43%、「中度」「軽度」が約54%となっており、前回と比べて構成割合に大きな変化は見られませんでした。保健面では、身体的健康に厳重な看護が必要な「1度」が約3%、行動面では、行動上の障害が著しく、常に付き添い注意が必要な「1度」が約5%となっています。

(3)生活の場の状況と希望

 「自分の家やアパートで暮らしている」人が9割とほとんどです。だれと暮らしているか聞いたところ、「親や親兄弟」と暮らしている人が9割であり、18歳以上で「ひとり」「夫婦」で暮らしている人は5%となっています。
 生活の場の希望では、「親や兄弟」と暮らしたいが半数となっています。本人の希望を見ると、「親や兄弟」と暮らしたい人が4割となっています。自立した生活(「ひとり」「夫婦」「グループホーム」で暮らしたい)を望む人が37%おり、本人の自立意欲が前回調査時の34%からさらに伸びています。

(4)身体障害者手帳の所持状況等

 在宅精神薄弱児(者)では、およそ5万4000人が身体障害者手帳を所持していると推計され、前回と比べて4000人の増加となっています。
 なお、精神薄弱の程度が最重度・重度であり、かつ身体障害者手帳の程度が1、2級に該当する肢体不自由の障害のある人は、1万3500人と推計され、前回より約700人増加しています。

4 結果の概観

 自計郵送方式の調査としては、回収率(87%)が高く、また、約4割が本人、あるいは本人が親などと一緒に、自ら調査に答えており、本人をはじめとする関係者から、各種の要望等を幅広く聞くことができ、調査の趣旨が理解され、生かされたと考えています。
 結果を概観すると、前回と比較して精神薄弱児(者)の総数は増加していますが、そのうち18歳未満は減少しており、18歳以上が大幅に増加しています。60歳以上の状況をみてみると、前回の4%から今回5%となっています。
 また、生活の場の希望では、大多数が在宅での生活を希望しています。特に本人においては、「ひとり」「夫婦」や「グループホーム」での自立した生活を望む人が4割近くとなっており、3割だった前回よりさらに自立の傾向が高まっているといえます。また、地域活動の参加状況に関しては、「ほとんど参加しない」「参加したことはない」人が7割ですが、参加していない人の3割(18歳未満では5割)が「機会や場所があれば」参加したいとしています。
 これらの結果から、在宅生活や社会参加を支援するための施策の充実を一層図る必要があると考えられます。
 一方、5割以上の人が「じろじろ見られる」「サービスを拒否される」などの「いやな思い」を経験しています。また、暮らしの充実に関する希望として、本人を含め、もっとも多かった項目は「障害者に対する回りの人の理解」でした。これらの結果から、在宅生活や社会参加を支援する上で、心のバリアを取り除く必要性が、課題として改めて明らかになったと考えられます。
 他に、「老後の生活」の充実の希望が4割を占めており、老後の生活に対する不安の傾向が強く出ています。また、就労形態では正規職員の前回22%が、今回19%と減少しており、一般社会における経済活動の影響が表れているといえます。さらに、診断・判定に関しては、18歳未満の「小学校に入る時」までを見ると前回78%から今回84%となっており、障害の早期発見が進んでいるといえます。

5 最後に

 今回の調査を振り返ってみると、前回、平成2年度調査との時系列比較が初めて可能となったわけですが、実情、ニーズとも大きな変化は見られず、自立生活や社会参加に対する意識の強さや、精神薄弱者に対する差別や偏見の実態が浮き彫りとなっています。このような観点から、平成7年12月に策定された障害者プランを推進していくことが、まさに今回把握されたニーズに対応しているものと考えています。
 今後とも、調査結果を生かし、障害者プランの推進を図っていくことにより、施設施策及び地域生活への支援の充実に努めていき、ひいては、社会全体の精神薄弱者に対する理解(心のバリアフリー)にもつながればと考えています。

   精神薄弱児(者)基礎調査結果の要旨(抜粋)
   暮らしの充実の希望(※3つまで重複選択)

(1)

 

平成7年

平成2年

 

総数

本人記入
(再掲)

総数

本人記入
(再掲)

総数 297,100
(100.0)
76,600
(100.0)
283,800
(100.0)
65,500
(100.0)
相談や指導 (33.1) (29.1) (28.5) (27.6)
早期発見 早期療育 (7.4) (5.4) (6.6) (3.4)
必要な時に施設を利用できる制度 (38.2) (26.0) (42.7) (23.4)
ホームヘルパー (9.5) (7.1) (8.6) (5.1)
医療 (17.4) (14.3) (19.3) (15.8)
経済的援助 (23.1) (20.7) (29.2) (25.6)
ボランティア活動 (8.5) (5.6) (7.1) (6.8)
障害者に対する回りの人の理解 (47.9) (40.8) (46.0) (36.3)
人としての権利の保護 (16.9) (15.3) (12.9) (9.9)
その他 (3.9) (3.8) (3.4) (2.3)

 

(2)

  平成7年 平成2年
  総数 本人記入
(再掲)
総数 本人記入
(再掲)
総数 297,100
(100.0)
76,600
(100.0)
283,800
(100.0)
65,500
(100.0)
通所施設 (21.4) (14.3) (22.5) (9.6)
作業所 (16.2) (14.0) (15.5) (9.9)
働く場所 (30.7) (30.1) (30.3) (31.5)
入所施設 (20.8) (14.0) (22.0) (8.7)
グループホーム (16.1) (11.0) (11.6) (9.9)
住まいについて (10.5) (14.0) (9.8) (9.9)
老後の生活 (39.2) (31.6) (41.3) (30.7)
レクリエーションの場 (16.7) (11.0) (16.2) (13.5)
生活環境 (9.5) (9.2) (6.6) (6.8)
その他 (2.6) (2.0) (2.2) (1.4)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年4月号(第17巻 通巻189号)50頁~53頁