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高度情報化社会にむけて

職業リハビリテーションとコンピュータ

宮崎豊和

はじめに

 パソコンが世間に普及して、パソコンを自宅に所持すれば、簡単に在宅就労ができ、障害者の職業として最適であると十数年前から叫ばれてきましたが、爆発的に在宅就労の形態が普及しているわけではありません。それは、なぜでしょうか。
 十数年前までは、上肢障害者の筆記に代わる自助具として電動カナタイプしかなかった長い不便な時代から、漢字混じりのきれいな文章が簡単にできるパソコン、ワープロ時代に代わりました。道具として、重度障害者の意思伝達表現装置としても、パソコンの出現は多大な役割を果たしています。

パソコンは単なる道具

 障害者がワープロ等で、パソコンを利用できることと、それをすぐに在宅就労に結びつけたがる人は少なくないと思います。局所的に見るとパソコンの前に座りキーボードを打っていれば仕事になると考えがちですが、パソコンとは単なる便利な道具で、ペンや車と同じです。どんな仕事でもいえることですが、情報処理の仕事とは、必ず依頼主(得意先、お客、会社の上司)がいて、その人のためにパソコンという道具を使って要望を満たしていくことです。
 すなわち、パソコンで仕事をするためには、それを使う基本操作はもちろんのこと、パソコン外の専門知識も必要です。例えばSE、プログラマ等はOS、プログラム言語、数学、会計等の知識を兼ね備えて初めて、依頼主とのヒアリング、打ち合わせができ、それからシステム設計、プログラミングと、良いシステムが構築でき、依頼主の要望に応えることができるのです。究極的には、接客業と同じであり、依頼主の立場に立った開発が求められています。
 また、最近、インターネットがブームで、ホームページの作成の需要は高まりつつあります。同様に簡単なものはワープロ感覚で作成できますが、デザイン能力の要求が高まっています。

進路選択

 現在、情報処理業務を志す障害者に対して、高校を卒業してからの進路は、①職業訓練、リハビリセンター等、②情報処理業務の授産所、③大学等への進学、といろいろあります。①では、情報処理に対する「いろは」を個々の障害者にあったやり方で親切丁寧に教えてくれて、就職先の斡旋も行ってくれます。②は、①と同様に教育を行い、習得した後は、そこの授産所で情報処理の業務に就くというところです。③は、大学の講義内容と実際の情報処理業務の実務とはほとんど無関係といえます。むしろ、クラスメイト、クラブ活動、自治会活動等から学び取ることが大きいと思います。
 私は夜間の大学で、クラスメイトの大部分が昼間働いている環境の中で、自然と働きたくなり、たまたま友人の紹介からアルバイトを見つけたことが現在の職業に進むきっかけとなりました。すなわち、大学では①と②のように即効性のある実践的な教育は望めませんが、障害の有無にかかわらず、同じものを志す者たちの環境下から得るものは大きいものがあります。以上のように3つの進路がありますが、人によっては複合した進路を選択し、例えば、ある大学を卒業し職業リハビリセンター(以下職リハと略す)を経て、情報処理の職を得るケースもあります。
 しかし、ここで注意したいことは、「あの職リハ、訓練センター、その授産所、この大学に入れたら一生安泰だ」というブランド志向意識は、はっきり言って捨てたほうがよいと思います。情報処理の職を得ようと思うなら、どの進路が有利かはあまり関係がなく、入所や入学してからが本番で、就労してからも同様のことがいえます。

情報処理業務の流れ

 70年代は、汎用コンピュータ等の時代でした。システムの開発には、1つの汎用コンピュータを有効に使用するために、各段階ごとに専門職に分かれていました。こういう組織は、大企業ならではの大資本の中でできたことです。職人芸ともいうべきさまざまなスペシャリストが生まれ、そういう人材を養成すれば需要がある時代でした。
 しかし、パソコンの出現で開発環境も変わりました。OSはより使いやすい物となり、ハード自体も安価になり、システム開発者1人に1台という時代が到来しました。開発環境は年々良くなり、専門的なキー操作をするキーパンチャー等はいらなくなり、プログラマが直接キーボードの前に座り、プログラミングをするということが可能な時代になりました。そのお陰で、今まで分業化されていた仕事が統合化され、開発者の個々の知識は情報処理はもちろんのこと、さまざまな知識が必要になってきています。

職業リハビリセンターに期待するもの

 現在、職リハ等の教育は、教職員自体も時流の新しい知識やコンピュータ言語の習得選考に追いつかなくなってきています。何を重点的に教えていくことがベストなのか、という困惑や戸惑いがあるのも実状だと思います。しかも、そこで習得した知識や技術は、2、3年で陳腐化します。
 では、そこでは何を教え、訓練生自ら何を学び取るかといいますと、「独学する力」を身につけてほしいということです。難しいと思いますが、情報処理を大局的に教えて、自ら勉強する力を身につけるような訓練生を養成する必要があると思います。
 特にコンピュータ言語は、ここ数年目ざましく進歩しています。90年半ばからウィンドウズの普及と相まってオブジェクト指向言語が出現し、プログラミング自体は簡素化されて作業時間は短期間になる一方、さまざまな言語を組み合わせて、総合的なシステム全体を見渡せて開発できる能力が必要になってきています。いわゆる、今までのプログラマは、システム設計者(SE)レベルの広い知識を身につけなければならないようになっています。
 前に書いたように、教育で受けたある知識は必ず陳腐化します。それを避けるには、業務に就いても常に向上心をもって、新しいことにチャレンジし、勉強することが大切です。

さいごに

 情報処理の仕事は、多くの経験と失敗を積み重ねて初めて一人前になります。そのためには、就労の環境面からいうと、障害者雇用促進法が普及したとはいえ、重度障害者の就職は、現在でも一般企業は身構えます。それは、日本は契約社会で、“就職”という“契約”で成り立ち、それはイコール“終身雇用”と結びがちです。それなりに企業が身構えるのも無理もありません。しかし、日本も終身雇用制からだんだんと能力主義に変わろうとしています。それを逆手にとって、就職という枠にとらわれなければ、例えば、重度障害者でもアルバイトという形で一般企業で能力を磨くことができます。そして能力次第では、しばらくして正式に社員として採用される場合もあります。そのほうが個人と企業間の負担が少ないといえるのではないでしょうか。
 しかし、職リハ等の就職担当者などは、制度上、慣例上のしがらみなどから、こういう形での就労は認めたくないのが実状だといえます。職リハ等関係省庁間のしがらみを取り払うことが、多様な障害者の就労形態を生み出すきっかけになるとはいえないでしょうか。

(みやざきとよかず ㈲ミヤエンジニアリング取締役)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年5月号(第17巻 通巻190号)56頁~58頁