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フォーラム’97

地方自治体でグループホーム調査・世話人連絡会をすすめよう

―愛知県グループホーム調査(1996)―

渡辺勧持

1 「愛知県グループホーム調査」実施の背景

 日本の知的障害をもつ人へのサービスは、施設利用者中心から、地域の中ですべての人を対象とした地域生活援助へと、大きく変わり始めている。
 グループホーム(ほぼ4人の人が援助者と暮らす住まいは、生活ホーム、生活寮等と呼ばれているが、ここでは総称としてグループホーム、またはホームと呼ぶ)は、住まいの1つの形を現実に地域に示すことによって、この新しい方向への可能性を広げてきた。
 グループホームのコンセプトは、知的障害者が、入所施設から地域へ移るときに欧米のほとんどの国で使われた。1992年現在、スウェーデンでは、人口約3500人に1か所、アメリカでは人口約8000人に1か所(入居者6人までの場合)のグループホームがあり(文献1、2)、今も地域で生活する場合の、住まいの主流を占めている。
 日本ではグループホームは、1979年に東京都、神奈川県が補助制度を開始。平成元年に国の制度が始まった。現在(1995年)その数は1600か所を超える(人口約8万人に1か所)。スウェーデンやアメリカに比較すると、展開の速度は必ずしも早いとは言えないが、「地域の暮らし」を目に見える姿で着実に人々に伝えている。
 グループホームの展開には、①入所施設、通勤寮経由をした人に対し、ナイトケアのできる入所施設や通勤寮がグループホームを設置、運営する場合(国の補助制度に多い)、②学校卒業後、そのまま地域で暮らす人を通所施設や作業所、あるいはグループホームのための支援団体が設置、運営して進める場合(地方自治体の補助制度に多い)の2つが見られる。
 グループホームは、「普通の住まい」を目指しているのであるから、特定の形にとらわれず、さまざまな住み方がでることが当然であるし、望ましい。実際、自立や結婚生活によってアパートに移り住み、グループホーム周辺に人々の輪が広がる場合もあれば、グループホームで家庭から出る前の宿泊体験を行ったり、ショートステイをすることもある。
 このような現状の中で、グループホームで安心して暮らせるために必要なサービスを検討するために調査が開始された。

2 愛知県の調査

(1)調査の過程

 調査は、愛知県精神薄弱者愛護協会の療育研究員会(委員長・榊原豊子)が主体となり、グループホーム世話人2人、通勤寮長1人、県の研究者5人が参加した。調査時の県内39か所のグループホームを対象に平成7年にスタート、他県での調査を参考にしつつ分担調査を進めながら月1回の会合をもち、2年間行われた。 当初、調査のテーマは、利用者160人の障害程度や家計、世話人の身分保障やバックアップ施設の援助内容などが討議されたが、徐々に利用者の声を聞き、保護者の声を聞き、それから世話人、バックアップ施設側、そして愛知県下の全施設の声を聞く構成へと展開した。研究会では比較的早期に世話人の連絡会を作る必要性が話され、通勤寮部会の援助で結成され、現在、活躍している。

(2)調査結果

 調査の結果は、『じゆうがあるで、なかまがおるで、私の家だよ』という題名で168ページにまとめられた。冊子の前半は、本人、保護者、世話人、バックアップ施設、愛知県下全施設を対象とした別々の調査の報告、後半は、まだまだ知られていないグループホームを、保護者、関係職員、行政にもっと知ってもらおう、という意図から、「グループホームQ&A」(47項目)やグループホーム制度、文献を紹介した。
 それぞれの調査について、いくつかのトピックスにふれてみたい。

(利用者本人への調査)

 ホームに入るときだれから勧められたか、近所の人や商店との地域生活、休日の過ごし方、ホームの生活、お金の管理、仕事、世話人のこと、将来についてなど9つのテーマを45項目について聞いている。
 知的障害をもつ人々へのアンケートの困難にも関わらず、160人中131人から回答があった。設問の意味が難しく、無回答が高い率を占める項目があったが、多くの意見が得られた。「グループホームに入ってよかったことはなんですか」の回答には、「前にくらべると自由になった」「ひとりでもどこへでもいける」など自由に関するものが26記述、「みんなにあえてよかった」「友達と生活できてよかった」などの友達、仲間についての記述が31あり、冊子の表題はこれらの回答をつなげたものである。回答者にも絵を用いた結果が配布された(図1)。

図1 本人向けの調査報告から

図1 本人向けの調査報告から

(保護者への調査)

 グループホーム利用者の保護者への調査はこれまであまり行われていない。71人の保護者から意見が出された。ホームを利用した理由については、「親の病気や高齢のため」と「本人の自立、成長を願って」の2つに大別された。ホームを利用しての感想では、本人(楽しく生活している、できることが増えてきた、自立してきた等)にも、家族自身(家族が安心して暮らせるようになった等)にも好意的な記述が多かったが、その中で「少し寂しいがやむをえぬ」「多少寂しさはありますが、集団生活の経験は本人には必要」など、地域の中でゆっくりと家族に見守られながら自立している姿が感じられた。

(世話人への調査)

 世話人の調査は、多くの調査で見られ、その調査項目も世話人の年齢や前職、同居・別居、仕事の内容、地域の人々との交流、バックアップ施設や相談機関との関係など比較的類似している。今回の調査では、39か所という対象グループホーム数の少ない利点を生かし、金銭管理や地域の人々の交流を勧めるときの工夫についてできるだけ自由記述を多くし、アンケートの結果自体が世話人の情報交換につながるようにした。世話人の仕事をしていて「やっていてよかった」「もうやめたいとおもった」時の体験記述が世話人同士で励みになったということを聞いた。
 世話人を対象とした調査で、これまであまり行われていない調査の1つは、グループホームに情報がきちんと届いているかどうかである。グループホームはプライバシー保護の観点から住所が公開されていない場合があり、このために情報が制限される場合がある。本調査では、バックアップ施設には届いていると思われる研修の案内が、ある場合には、世話人の約30%しか見てないという低い場合も見られ、情報が伝わらない難しさを示した。

(バックアップ施設への調査)

 バックアップ施設への調査も施設種別、建物の所有形態、援助体制と内容、利用者の特性などの項目で、よく調査される。図2では、国の制度で実施しているグループホームの調査(文献3)と今回の調査とで相違するいくつかの例を示した。地方自治体の制度で運営しているグループホームには多様な運営形態や利用者の援助方法などが見られる。本調査でも、通所施設がバックアップしているホームでは、レスパイト・ケアや土、日に帰省するなど、家族や地域とのつながりが強く見られた。地方自治体で実施している各地からの調査報告を期待したい。

(愛知県下全施設への調査)

 児童通園を除く、すべての知的障害援助に関係する114施設からの回答を分析した。図3で「作るつもりはない」と回答した施設には、すでに運営しているところがあり、グループホームについては、援助にあたる施設のほとんどが必要と思っていると思われる。安心して運営できる制度ができればその数は飛躍的に展開しよう。

図2 国の制度で運営しているグループホーム調査との比較

図2 国の制度で運営しているグループホーム調査との比較

図3 グループホームを作る計画

図3 グループホームを作る計画

3 これから大事にしたい動き

 知的障害者の地域生活援助は、今、始まったばかりといえる。その第一線にあるグループホームには、地域生活をするときのレスパイトや宿泊体験などのサービスや本人への具体的な援助の方法が宝の山のように持ち込まれている。世話人の連絡会は、世話人の援助の質を高めるためにも重要であるが、そこから地域生活へのノウハウが発信され、法人の壁を越えた地域での援助システムのあり方を生み出すなど、その重要性は計り知れない。ぜひ各地域で早期に連絡会が展開してほしいし、そのための支援を施設側はなすべきであろう。

(わたなべかんじ 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)

〈文献〉
(1)廣瀬貴一(1995)スウェーデンの知的障害者福祉(ビデオ「街に暮らす」とセット)。日本財団
(2)Braddock,D., Hemp,R., Bachelder,L., & Fujiura,G.(1995).The state of the states in developmental disabilities.Wachington,DC.:American Association on Mental Retardation.
(3)グループホーム事業のあり方に関する調査研究委員会(1995)グループホームを障害福祉の主流に~地域生活援助事業(グループホーム)実態調査報告書。平成6年度厚生行政科学研究事業、1~59頁。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年5月号(第17巻 通巻190号)66頁~70頁