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特集/身体障害者ケアガイドライン試行事業

障害者のケアマネジメント

奥野英子

1 はじめに

 本誌3月号の「障害者の介護を含む生活支援の方策について―公的介護保険との関連において―」で報告したとおり、平成7年度に設置された「障害者に係る介護サービス等の提供の方法及び評価に関する検討会」(座長:板山賢治、副座長:白澤政和)において中間報告が出されましたが、平成8年度は、同検討会の中に設置されていた身体障害者部会、精神薄弱者部会、精神障害者部会においてそれぞれの取り組みがなされました。
 身体障害者部会(部会長:二瓶隆一)では、平成7年度に中間報告としてまとめられた「身体障害者ケアガイドライン」の試行事業が、栃木県大田原市、埼玉県北本市、東京都立川市、横浜市、名古屋市の5市において実施されました。
 多様な状況にある各市において実施された試行事業は、それぞれ特徴ある取り組みがなされ、身体障害者ケアガイドラインを見直すためばかりでなく、今後、障害者に対するケアマネジメントを本格的に実施するために参考となる結果が出されました。本号において、それぞれの市における試行事業の取り組みの状況、結果、課題等を報告していただきます。

2 身体障害者を対象とするケアマネジメント

 本誌3月号においても簡単に紹介しましたが、試行事業実践報告の前提として、ケアマネジメントの概要について説明します。

(1) 「ケアマネジメント」とは

 ケアマネジメントは、地域社会の中で複合的なニーズを有する障害者に対して、総合的かつ継続的なケアを提供する際に、サービス利用者のもつ生活全般にわたるニーズと、公私にわたるさまざまな社会資源との間に立って、複数のサービスを適切に結びつけ調整を図りつつ、総合的かつ継続的なサービス供給を確保するための機能です。
 ケアとは介護ばかりでなく、医療・保健・福祉等を含む、社会参加を支援するすべてのサービスを意味します。
 このケアマネジメントの理念は、生活の主体者であるサービス利用者が「望んでいる健全な暮らし、生活」を実現するための「ケア」をマネジメントするものであって、援助者が「利用者の暮らし」をマネジメントするものではありません。
 また、利用者の主体性、自立性、選択性を尊重し、決して専門職だけで決定するのではなく、ケアマネジメントのすべてのプロセスにおいて、利用者の意向を十分に生かした上で支援することが大事です。このような意味において、障害者を対象とするケアマネジメントは専門職主導であってはなりません。

(2) 障害者を対象とするケアマネジメントの留意点

 障害者を対象として「ケアマネジメント」を実施していく場合には、障害者に特有のニーズ(社会参加に必要な支援や障害の種類に応じたニーズ)に対応できるものでなければなりません。従って、障害者を対象とする「ケアマネジメント」は、教育、就労への参加を支えるとともに、「社会参加」を視点に入れたきめ細かいものでなければなりません。
 障害者のニーズは、個々人の望む人生によって異なりますが、ニーズをあくまでもニーズ(必要としていること)としてとらえ、「問題」というようなマイナスのイメージでとらえないようにすることが重要です。
 なお、複合的なニーズをもっていても、本人自身がそれを解決できる場合には、ケアマネジメントの対象となる必要はありません。障害者の自立や主体性の観点から自分でマネジメントできることが望ましいことといえます。

(3) ケアマネージャーの役割

 ケアマネージャーは、ケアマネジメント及びサービス提供等のプロセスに中心的に関わる者であり、具体的な役割は次のとおりです。

①総合相談窓口の運営及び管理に関すること
②1次評価の実施及び2次評価の依頼に関すること
③ケア会議の開催に関すること
④ケア計画の作成に関すること
⑤サービス提供機関との連絡、調整に関すること
⑥フォーローアップ及び再評価の実施に関すること
⑦ケアマネジメント終了の決定に関すること

(4) ケアマネジメントのプロセス

 ケアマネジメントのプロセスと、各プロセスのポイントは以下のとおりです(図)。

  図 ケアマネジメントのプロセス

図 ケアマネジメントのプロセス

①利用者の確認

 ケアを必要とする障害者やその家族及び関係機関からの相談が総合相談窓口にきます。複合的なニーズがあり、利用者がケアマネジメントを希望した場合に、ケアマネジメントの対象となります。

②ニーズの評価

 総合相談等によりケアマネジメントの対象者であろうと想定された場合、利用者の現状を正確に把握する必要があります。利用者の生活の場において詳しく話を聞き、現状を把握し、ニーズを総合的に評価する必要があります。また、利用者がニーズを認識していない場合もあります。これらの場合には、専門職は必要な情報を提供するとともに、利用者と十分な話し合いをもち、双方がニーズを正しく確認する必要があります。
 障害者のニーズを評価する際には、次のような項目が考えられます。

ア 生活の状況

●1日の生活の流れ ●家族の状況 ●家屋の状況 ●近隣との関係 ●その他

イ 利用者の状況

●障害の状況 ●健康状態 ●身辺行為(食事行為、入浴行為、排泄行為、整容行為、着脱行為、床上行為等の状況) ●移動 ●コミュニケーション ●家庭生活技術 ●経済状況 ●社会参加状況 ●福祉用具の活用 ●教育 ●就労
 ●その他

 ソーシャルワーカー(社会福祉士等)、保健婦、介護福祉士(ホームヘルパー)、ピアカウンセラー等による1次評価により、上記のような項目について評価します。家庭訪問による1次評価の結果、かかりつけ医・専門医、看護婦、PT、OTなどの職種による専門的評価が必要と判断される利用者については、必要な専門職種による2次評価を実施します。

③ケア計画の作成

 ケア会議を開催し、利用者の複合的なニーズを明らかにするとともに、活用できるサービスを検討します。その結果に基づきケア計画書を作成し、それを利用者に示し、利用者の合意を得ます。
 ケア会議はケアマネージャーが進行役となり、利用者のニーズに関わる専門職種(ソーシャルワーカー、医師、保健婦、看護婦、PT、OT、介護福祉士、ピアカウンセラー等)、市町村の担当者等が参加し、チームアプローチで行います。
 ケア計画を作成する際には、公的サービス、民間サービス、インフォーマルサポートなど活用できるサービスすべてを検討します。利用できるサービスの提供先が複数ある場合にはすべてを列挙し、これらについて十分に説明して、どの提供先からサービスを利用するかについては、利用者の判断に委ねます。
 ここで重要なことは、公的サービスの提供が、ケア会議の決定を尊重して円滑に行われるかどうかということです。このためには、サービスの決定権をもつ市町村と、サービス決定にかかる権限の範囲と程度をあらかじめ取り決めておくことが必要でしょう。

④ケア計画の実施

 サービスの依頼は、利用者が行う場合とケアマネージャーが利用者に代わって行う場合があります。実際にサービスの提供が開始されてから、サービスがスムーズに提供されているかどうか確認をすること、また、利用者のサービス受け入れ状況をサービス実施機関からフィードバックすることも必要とされます。
 その結果、サービスが計画どおりに実施されていなかったり、サービスの受け入れに支障がある場合には、必要に応じてケア会議を開催し調整します。なお、利用者とサービス提供先との間に行き違いや何らかのトラブルが生じた場合には、ケアマネージャーはその調整に当たります。

⑤フォローアップと再評価

 ケア計画実施後のサービスの提供状況や、時間的経過に伴うニーズの変化、さらに、新たに発生したニーズに対応するためにフォローアップや再評価が必要です。フォローアップはサービス提供開始から1週間、1か月、その後は毎月等、期間を定めて実施することが必要です。

⑥ケアマネジメントの終了

 フォローアップや再評価の結果、複合的なニーズがすべて解消された場合、または、チームによる総合的支援が必要とされなくなった場合に、ケアマネジメントは終了します。また、ケアマネジメントのプロセスを通して障害者の社会生活力等が高められ、自分でケアマネジメントができるようになった場合にも、ケアマネジメントは終了します。

3 おわりに

 身体障害者のケアマネジメントを実施するに当たり、検討すべき重要な課題が多々あります。ケアマネジメントを実施するためには、必要とされるサービスの質的・量的整備が最も重要なことです。平成8年度からスタートしている「障害者プラン」によって、介護等のサービスの量的・質的整備が図られているところですが、今後、一層サービスの充実が求められます。
 また、ケアマネジメントが実施されることにより、これまで潜在化していたニーズが顕在化すること等により、さらに必要とされるサービスの種類及び量が明確化されることが期待されます。
 ケアマネジメントの実施主体は市町村ですが、市町村が適格な機関等に委託して行うことも考えられます。障害者のケアマネジメントを実施するに当たり、ケアマネジメントの実施体制の整備、ケアマネジメント実施機関と関係諸機関との連携システムをどのように確立していくのか、各種サービス間の連携のあり方等を検討する必要があります。
 ケアマネジメントは障害者一人ひとりの複合的なニーズに対応するものであり、あらかじめサービスの上限を設定するようなものであってはなりません。しかし、ニーズの評価やサービスの提供に当たり、客観的な「ものさし」が求められるかもしれません。こうしたことの検討や、ケアマネジメントに重要な役割をもつケアマネージャーの養成・研修等が、今後の課題です。

(おくのえいこ 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課障害福祉専門官)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年8月号(第17巻 通巻193号)8頁~11頁