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気になるカタカナ

エンパワメント

久保耕造

 エンパワメントという用語が、最近のアメリカの障害者シーンにおいて頻繁に登場してきている。
 そもそも「エンパワメント」という概念が、アメリカにおけるソーシャルワークの手法や考え方として最初に登場したのは1970年代の公民権運動にまでさかのぼるといわれている。わが国においては、1995年に北京で開催された第4回国連女性会議の決議のタイトルの一部にエンパワメントという言葉が含められていたことにより一躍有名になった。しかし、このことからもわかるように、エンパワメントというのは障害者問題に限って用いられる概念ではない。
 アメリカの障害者問題に関連しては、古くは1970年代の自立生活運動の文献の中にもエンパワメントという言葉や考え方を見出すことができる。しかし、昨今のように頻繁に障害者問題に関連する文脈に登場するようになったのは、ADA(障害をもつアメリカ人法)制定をはさんだ時期からであり、それほど昔のことではない。とりわけ、表現としてさかんに用いられるようになったのは、ADA制定の可能性をさぐるためにジャスティン・ダート氏が「障害者の権利とエンパワメントに関する調査委員会」を設けたころからである。
 エンパワメントという単語そのものは「能力をつける」「権限を与える」という意味である。ただし、従来のさまざまな考え方の枠組みが、障害者の「能力」や「権限」を訓練や指導によって後から付加されるものとみなしてきたのに対して、エンパワメントという考え方のもとでは、「障害者には本来ひとりの人間として高い能力が備わっているのであり、問題は社会的に抑圧されていたそれをどのように引き出して開花させるかにある」と考えるのである。
 つまり、社会的な抑圧のもとで、人間としての生き方が保障されてこなかった障害者自身に力をつけて自己決定を可能とし、自分自身の人生の主人公になれるようにという観点から、あらゆる社会資源を再検討し、条件整備を行っていこうとするのがエンパワメントという考え方であり、手法である。
 実は、アメリカにおいても障害者のエンパワメントに関する定義については一致していない。そのため、現在、雑誌などでさかんに議論がなされているところである。
 エンパワメントは、日本語としての適切な訳語をみつけることが難しい概念であるが、英語におけるその反対概念はパターナリズム(温情主義)である。

(くぼこうぞう エンパワメント研究所)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年8月号(第17巻 通巻193号)37頁