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列島縦断ネットワーキング

東京・第6回障害者シンクロナイズドスイミングフェスティバル IN TOKYO

太田裕子

 静まり返った会場に音楽が流れだすと、その音楽に合わせて水面を滑るように泳ぎはじめる演技者。同時に押し寄せる感動の波。会場いっぱいに沸く拍手。5月11日、第6回障害者シンクロナイズドスイミングフェスティバル IN TOKYOが、東京都多摩障害者スポーツセンターにおいて開催されました。これまで京都で開催されていたフェスティバルを、もっと多くの地域の人に障害者シンクロナイズドスイミング(以下、「障害者シンクロ」とする)を知ってもらいたいという思いと、関東でもフェスティバル開催をという熱意から、6回目の会場を東京へと移し、8都府県から初出場2チームを含む10チーム、145名が集う、素晴らしい大会となりました。
 手や足の先まで神経の行き届いた優雅な女性ソロ。水しぶきが高く上がる力強い男性ソロ。しなやかな手や脚の動きだけでなく、文字どおり息の合ったデュエット。軽快な音楽にこぼれ落ちんばかりの笑みをのせて、軽やかに弾む重度障害の子どもとその母親のチーム。重度の障害のある人も一緒に演技する仲間とともに、堂々と素敵な演技を披露しました。6回目のフェスティバル。それぞれの技術がかなり向上し、それぞれの障害に応じた特色のある演技を披露してくれました。
 各演技の終了後、シンクロ委員からの温かく、時として厳しい講評は、演技者の励みとなり、次のフェスティバルへの糧となります。地域へ戻ると、「次はどんな技術を取り入れよう」と、参加者の心は1年後のフェスティバルへと向かっているようでした。

障害者シンクロのはじまり

 「もっと泳げるようになりたい。いろいろな泳ぎができるようになりたい」という水泳教室修了者の願いから、障害者シンクロが京都で産声をあげたのは、およそ15年前。さまざまな障害のある人が楽しみながら水泳に取り組むようになり、地域の障害者水泳大会で発表する機会を得て、その発表を目標に活動を続けていました。全国に障害者シンクロが広がり始めたのは、京都で開催された第24回全国身体障害者スポーツ大会の水泳大会の開会式で公開演技として、障害のある人とない人がともにシンクロに取り組んだことがきっかけとなりました。
 障害者シンクロは熱心な取り組みによって、京都を中心として全国に広がりはじめ、「他チームと交流をしたい」という願いから、第1回障害者シンクロナイズドスイミング発表会が1992年に京都で開催され、今回で6回目を数えるまでになりました。

障害者シンクロが大切にしていること

 このように、より広い地域で障害者シンクロが取り組まれるようになった理由として、全国障害者シンクロナイズドスイミング連絡会の掲げる基本的な考え方が、障害の有無を問わず、広く受け入れられ、現在も大切にされているということが考えられます。その考え方を紹介すると次のとおりです。

(1)障害のある人とない人が共にシンクロに取り組むこと。
 
(2)重度の障害があっても一緒に泳ぐ仲間の力を借り、演技や構成を工夫し、ルーティンをつくること。
 
(3)障害者シンクロには、競技シンクロとの技術の違いや、障害によって克服できない技術があるが、シンクロという同じスポーツに取り組んでいると考えること。
 
(4)障害のある人とない人が一緒に演技するときは、介助してもらう/してあげるという関係ではなく、演技者という同じ立場であるということ。
 
(5)音楽と水と仲間と同調して演技すること。
 
(6)楽しく泳ぎながら、シンクロの技術を向上させるよう努力すること。
 
(7)泳げなくても、泳げるようになってから始めるのではなく、シンクロの練習をしながら、泳げるようにもなるということ。

 障害をその人の個性と認識し、その個性を演技に取り入れられるよう工夫することにより、さまざまな障害のある人と障害のない人が一緒に演技することができます。泳げなくても、浮けなくても、どんなに重度の障害があっても、歩いたり、一緒に演技する人の力を借りて泳いだり、浮いたり、いろいろな演技に挑戦することができるのです。

おわりに

 障害者シンクロは、障害のある人とない人が演技者として同じ立場で共に楽しめ、観客とも一体となって楽しめるスポーツであり、ごく自然にノーマライゼーションがなされるスポーツであるといえます。
 また、シンクロは、「見せる」スポーツです。障害者スポーツの中で、これ程「見せる」ことを意識させるスポーツがあったでしょうか。障害のある人はともすれば内に入りがちですが、自分を表現することにより、限りない可能性を仲間や観客にアピールし、自分自身に対してもそれを気づかせてくれる素晴らしいスポーツだといえます。そんな素晴らしい障害者シンクロを、一人でも多くの障害のある人に親しんでもらいたいと思います。
 京都で開催される次回フェスティバルへ向け、それぞれの地域で、新たな目標を胸に活動を始めました。前よりももっと素敵な自分を、もっと多くの人に見てもらうために。

(おおたゆうこ 全国障害者シンクロナイズドスイミング連絡会事務局)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年8月号(第17巻 通巻193号)60頁~62頁