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特集/施設は今―地域施設最前線―

施設は今

―求められる障害者施設―

鈴木清覚

1 障害者施設のあり方をめぐる検討の動向

 障害者施設のあり方、およびその体系の再編をめざす検討と論議がさまざまなレベルで、活発にくりひろげられています。
 この背景には「国際障害者年」とそれに引き続く「国連障害者の十年」そして「アジア太平洋障害者の十年」の国際的な動向、国内での障害者運動と「障害者基本法」「障害者プラン」などの展開によって、障害者問題の基本理念としての障害者の全人間復権をめざすリハビリテーション思想やノーマライゼーション思想の普及があります。
 これらの影響を受けつつ、障害者福祉の主要な施策として展開されてきた「施設収容」施策から、地域・在宅福祉に、その重点を移行する大きな流れがあります。さらに、多くの障害者施設は、30年、40年前につくられた施設の最低基準に基づき運営されています。その基準は、理念的にも、対象者の実相においても、スタッフも大きく変貌し、実態に合わなくなっており、形骸化しており、その矛盾が現場では激化しています。
 「障害者プラン」の策定過程においても、当然のこととして、障害者施設とその体系のあり方が大きなテーマであり、関係者から新しい施設体系についての期待がよせられました。しかし、「障害者プラン」においては、「障害の種別や程度、障害者の年齢を踏まえつつ、総合化等の観点から障害者施設体系についての見直しを行う」とされ、いわば先送りされたのです。
 現在、先送りされた、障害者施設とその体系のあり方が本格的に検討されているのが、昨年11月20日にスタートした障害者関連の三審議会(身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会身体障害福祉部会、公衆衛生審議会精神保健福祉部会)の「合同企画分科会」です。この「合同企画分科会」では、6項目にわたる検討項目が掲げられ検討が開始されていますが、その最初の検討項目として「障害者施設体系の見直し」が挙げられています。これまで7回の本会議と2回の小委員会が開催され、主に関係団体からの「意見表明」がなされてきました。「合同企画分科会」は、本年11月に「中間答申」を出すべく作業が続けられています。
 民間団体では、1980年代前半に、全社協において、「全国社会就労センター協議会(旧・全授協)」が中心となり「授産施設」のあり方についての本格的な検討がなされ、92年には厚生省に設置された「授産施設制度の在り方検討委員会」からの提言が出されています。90年代に入ると、全国身体障害者施設協議会における「療護施設の機能・制度の在り方等基本問題検討委員会」、知的障害者分野では日本精神薄弱者愛護協会の「入所更生施設のあり方研究会」「通勤寮の将来構想委員会」等が設置され活発な検討が続けられています。また、関連分野では、生活保護法に基づいて運営されていますが、実態としては障害者施設となっている全国救護施設協議会においては、「救護施設のあり方検討委員会」が設置され検討が進められています。さらに、今日我が国の障害者施設問題を検討する時、欠かすことのできない大きな社会資源となっている「小規模作業所」問題については、全社協や国際障害者年日本推進協議会(現・日本障害者協議会)において80年代後半にそのあり方についての政策的な検討がなされ提言されています。
 今日の障害者施設体系再編の焦点ともいえる重度・重複・重症の障害者問題とその施設体系について、全社協に設置された「障害者地域生活支援に関する調査研究委員会」から「障害者活動センター」の提案がまとめられています。
 このようにして、障害者施設運営に当たる関係者が自主的・主体的に自らを変革すべく検討と努力が続けられています。こうした動向は、これまでの障害者施設における歴史上、かつて体験したことのない様相を呈しています。
 これらの検討を進めている民間団体が総結集して、総合的な検討がなされているのが、昨年9月から日本障害者協議会に設置された「障害者の施設制度・施設体系に関する研究会」です。この研究会は本年5月に「中間報告」をまとめ、現在その仕上げの段階に入っていますが、本稿は研究会での検討をふまえ、今後求められる障害者施設のあり方についての私案の提案です。

2 障害者施設の問題はどこに―問題の所在―

 求められる障害者施設とそのあり方について明らかにする場合、まず、現在の障害者の施設についての問題点は何かを明確にすることが大切です。
 この整理の視点として、当事者である障害者・家族からの視点、地域の視点、現場で障害者施設に働くスタッフの視点が必要です。
 第1に指摘されることは、障害者施設の絶対的な不足と地域偏在の事実です。今日依然として「学校卒業後の行き場のない不安」「病院退院後の行き場のない不安」など、先進諸国では考えられない障害者福祉の低水準が続いており、国の制度に基づかない無認可の小規模作業所は毎年二百数十か所増え続けている現実の解決です。
 また、本年3月に共同作業所全国連絡会(共作連)が全国の市区町村の障害者社会資源について調査の結果を発表しましたが、なんと全体の63%を占める2034の市区町村には国の制度に基づく障害者施設はまったくなく、小規模作業所を含めても、43%の1386市町村は障害者施設がないことが明らかになりました(図1)。

図1 社会資源メニュー別にみる設置率

図1 社会資源メニュー別にみる設置率

 こうした現実では、ノーマライゼーションを理念とし、市町村で障害者福祉と言ってみても、まったく現実は乖離したものになっています。理念を現実のものとする真摯な努力が求められています。また、「障害者プラン」の数値目標の見直しを行い、市町村の障害者計画の強力な推進が切実に求められています。
 第2には、その都度いわばパッチワーク的に障害者施設の体系をつくってきた結果、今日我が国における障害者施設種別は縦割りの法制度に基づき40種類にも及んでいます。複雑すぎる施設の体系となっています。これらの施設の体系は、国会の答弁においては有効であっても、現実に地域に生活する障害者にとってはまったく有効ではないのです。例えば、最も多く整備されている知的障害者の「更生施設(入所)」(1044施設)でさえ、市町村でみると746市町村(22.9%)にしか整備されていません。身体障害者分野で最も多く整備されている「療護施設」(261施設)で243市町村(7.5%)です。
 その他の障害者施設においては、精神障害者分野をはじめ多くの施設種別は、2%以下の設置状況です(図2)。これでは制度はあるが地域に施設はなく、利用できないのが現実となっています。この改革のキーワードは、「合同企画分科会」でも議論されていますが、障害の種別を超えての「総合化」「統合化」「相互利用」であり「小規模化」を行い、シンプルな施設の体系化を行うことが求められています。これらを可能にする根本的な解決法は、現在3本建てになっている障害者福祉の実定法を総合化し1本化することです。

図2 市区町村における法定施設と小規模作業所の設置状況

図2 市区町村における法定施設と小規模作業所の設置状況

注:区とは、東京都の23区を意味します。

 第3には、施設不足や複雑すぎる施設体系とも関連して、施設機能・役割の混乱があります。例えば、知的障害者分野ではこの30年来、繰り返し議論されてきたことではありますが「授産施設」と「更生施設」はどこが違うのか、対象者も同じ、やっている処遇もたいして変わりはない現実があります。施設整備では補助金の多寡によって、入所では重度加算制度のある「更生施設」がより多く整備され、通所においては「作業開拓職員」の配置のある「授産制度」がより多く整備されているにすぎません。施設利用者の側では、ニーズに基づく機能を選択して利用するのではなく、空きのある施設に入所するということになっています。この改革のキーワードは、ノーマライゼーション理念に基づく施設機能の明確化と地域における施設の計画的な整備です。
 第4には、我が国の障害者施設の体系と整備は、比較的障害の軽い人々を対象として進められてきた歴史もあり、重度・重複・重症の障害者への対応が極めて不十分です。とりわけ、これらの人々が地域で暮らしていくための、障害者施設体系はまったく未整備であると指摘せざるを得ません。これらの人々を対象とした本格的な通所施設制度および地域生活を可能とする介護・介助の体制づくりが必要です。新しい通所施設制度については、全社協の「障害者地域生活支援に関する調査研究委員会」から提言された「障害者活動センター」の具体化が求められます。
 第5には、我が国において、現実的には、量的にも、地域への広がりにおいても、最大の社会資源となっている小規模作業所を公的な国の制度として確立し、その抜本的な支援を図ることが急務であると言えます。小規模作業所は、今日障害者施設体系の改革のキーワードである、障害種別を超えての「総合化」「地域化」「小規模化」「運営の柔軟化」「権利擁護」などをすでに実践してきています。こうした民間の自主的な活力を公的に支援することこそ、障害者施設体系の見直しと新しい理念に基づく施策の推進にとって、最も有効な手段となるものです。
 最後に、障害者施設の運営に関連する諸問題として、運営の公開と民主化が求められています。また、頻発する障害者の差別と虐待等の事件に対しての障害者の権利擁護を確立するシステムづくり、形骸化している施設の最低基準、とりわけ職員の配置基準の見直しと個室化等の生活空間の見直しが必要です。

3 新しい障害者施設の体系についての提案

 以上の、現行障害者施設の問題点をふまえつつ、今後の21世紀に向かっての施設体系について構想する時、いくつかの原則と前提が必要となります。
 施設体系再編の原則と前提として次のような事項が考えられます。

①障害者の権利を保障しうる処遇を実現する。
 最低基準の見直し、援護の実施システムの見直しを行うことです。
 具体的には、自由な選択権、自己決定権を保障するシステムをつくり、個室化と小集団化を行い個人としてのプライバシーを保障することです。また、安心して生活することのできる介護と介助の保障がなされる職員体制・スタッフの確保が求められます。

②施設種別間の格差を見直し、体系的で一貫性のある施設体系を実現する。
 今日の障害者施設は、その根拠となる法制度(身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神障害者保健福祉法)によって、あるいは措置施設か利用施設かの違いによって、訓練施設か継続利用施設かの違いによって、通所施設か入所施設かの違いによって、居住する地域によって、あるいは法定施設か無認可施設によって著しい格差が生じています。例えば同一の障害者が利用する施設によって、その保障される公費は20倍、30倍にも及ぶ格差が生まれています。法の下の平等の原則を貫き、同じ国民として、これらの格差を解消し一貫性のある施設体系を実現することです。

③ノーマライゼーションの理念を貫き、職住分離、日中の労働と活動の場と暮らしの場を分離して新しい施設体系と施策の体系を実現する。
 障害の重軽、障害の種別、住んでいる地域における違いを理由とせず、すべての例外なく、国連決議に示された「他の市民と同じ生活条件」を実現することです。

④地域における福祉圏(エリア)を生活実感のあるものとし、施設と関係機関が協力し施策の調整と推進を図る体制を実現する。
 福祉圏については「障害者プラン」に示された30万人のエリアは全国的視野でみると大きすぎます。ちなみに、我が国の3300におよぶ市町村の7割近くは人口2万人以下の自治体であり、設定としては5万人エリアくらいが妥当ではないかと思われます。このエリアにおいて、施設や学校、病院、行政機関がそれぞれバラバラに福祉に取り組むのでなく、例えば「地域リハビリテーション委員会」のような調整と推進の機関を設置して、ひとりぼっちの在宅者を出さないシステムを構築する。

 こうした原則と前提をもとに、新しい障害者の施設体系としては、次の5つの機能に基づく体系が地域の中でバランスよく設置・整備されることを提案したい。
 第1には、日中―昼間―の生活を保障する「就労と活動の施設」を整備する。就労施設はヨーロッパ・北アメリカの諸国で実験済みの労働権を保障するシステムとし、活動施設は全社協の研究会で構想された「活動センター」として整備する。
 第2には、夜の暮らしを保障する生活の施設を整備する。どんなに障害の重度な人々においても必要な介護・介助の保障がなされるシステムをつくる。現行の生活施設、福祉ホーム、グループホームの抜本的な制度改革を進めつつ実現する。
 第3には、ゆたかな人生を築くための、生涯教育、文化、スポーツ、趣味の活動を保障する社会教育と文化の施設を地域に構築する。
 この基本となる3領域を核として、一定期間の自立訓練のための専門施設(視力・聴覚および重複障害者、中途障害者、一般就労障害者の自立訓練のための施設)を都道府県をエリアとして整備する。最後に、これらの障害者施設と地域の障害者のニーズの実現と権利擁護を推進する相談とコーディネート機能をもつ支援センターを整備すれば、総合的で多様な障害者福祉の推進が図られるものと考えられます(図3)。

図3 新しい障害者の施設体系図(案)

図3 新しい障害者の施設体系図(案)

(すずきせいかく 日本障害者協議会「障害者の施設制度・施設体系に関する研究」委員会副委員長、共同作業所全国連絡会理事長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年9月号(第17巻 通巻194号)10頁~15頁