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特集/施設は今―地域施設最前線―

障害の重い人たちの地域生活の拠点

―西宮市社会福祉協議会「青葉園」の状況報告―

清水明彦

青葉園の概要

 「青葉園」は、兵庫県南東部に位置する西宮市(人口約40万)にある、非常に障害の重い人たちの通所施設です。
 通所する人たちは、全員西宮市在住の市民で、大半が20歳代~30歳代の人たちです。「重症心身障害」あるいは「重度重複障害」といわれる障害の人がほとんどで、現在53名の人たちが通所しています。
 市域南部の市街地のほぼ中央に建つ、西宮市総合福祉センターの一角にあり、現在、職員スタッフは27名となっています。
 西宮市には1960年代から始まる、重い障害をもつ人たちやその父母による、どんなに障害が重くてもこのまちで暮らし続けていこうとする活動展開の経過があります。学齢前の通園施設設立運動に始まり、その後の就学運動等を経て、やがて学校教育終了後の障害の重い人たちの地域での活動拠点づくりへとつながる地域生活運動です。
 青葉園はこういった経過の中で、1981年に西宮市独自の法外の通所施設として、市の補助金により西宮市社会福祉協議会の運営のもと、発足しています。
 園発足後も定員定数や在園期限を定めることをせず、障害が重いため授産施設や作業等へ進路を求めることのできない、市内の学校教育終了者を受け入れ続け、現在の規模となっています。
 発足の翌年には「青葉園は重度障害者の生活拠点的場である」と位置付けた「青葉園基本理念」を皆で確認し、併せて、活動においては「生産性・効率や単なる身辺自立のみを追及するのではなく、皆で主体的に生き合う暮らしの創造をめざす」こと、また「どんなに障害が重くても、一人ひとりの自己実現をめざしていく」「地域に開かれ、多くの人とかかわりをもちながら進めていく」などの基本方針を明記しています。
 通所施設として生まれた青葉園ですが、地域生活上の必要性から徐々に活動が広がっていき、家庭での介助が困難となってもずっとこのまちで暮らし続けていくことをめざして、宿泊実習やショートステイ等の「ナイトプログラム」、通所者一人ひとりの住むまちで社会参加を進めていこうとする「地域プログラム」が展開されるようになり、17年の経過の中で総合的な地域生活の活動展開と支援のシステムに向かおうとしています。

青葉園の活動

① デイプログラム(園での日中活動)

 日々の活動は、通所者の自宅まで職員がタクシーやリフト車で迎えに行く通所送迎から始まります。現状では1人週3日(1部週4日)の通所にとどまっており、通所日拡大が課題となっています。
 活動内容は個別的プログラムをベースにさまざまで、また変化を繰り返してきました。
 非常に障害が重く言葉でのコミュニケーションが難しい人たちは職員と1対1で、機能訓練も含めた、体を動かし相互関係を広げていこうとする活動や、車いすでの外出、買い物などの活動を。また言葉でやりとりができる人たちは、時事学習や口述筆記、そして買い物や外食などをそれぞれ個別的に取り組んでいます。
 そして相互の関係の拡大を求めて小さなグループをさまざまにつくり、感覚活動や音楽、造形活動、ものづくり、演劇、パソコン、リサイクル、そしてさまざまな目的のグループ外出など、それぞれに取り組んでいき外部への広がりをめざしています。
 医療的配慮を日常的に必要とする人たちがほとんどで、嘱託の専門医の診察をはじめ、それぞれのかかりつけ医との連携や、障害者医療専門機関での診察、治療等が日常的に不可欠の活動となっています。医療機関への受診には、職員が付き添い、通所者一人ひとりが医療支援を的確に受けられるよう、嘱託医を中心に支援体制の整備に努めてきました。

② 地域プログラム(地域社会参加活動)

 社会福祉協議会による運営であることを生かし、園通所者一人ひとりの住むまちの中で、住民たちの地域活動と連携し、交流を深めていこうと「地域社会参加活動」と称して、地域に出向いての地域プログラムを進めてきました。
 市内各町の公民館等に、近くに住む園通所者が毎週1回3~4人で職員スタッフと共に集まり、町中で活動し、地域の人たちと交流をもつ地域密着型のミニ通所事業「青葉のつどい」を現在4か所で実施しています。
 また、地域の人たちを対象とした講座の開催や機関紙の発行等の活動、各町内での地区運動会や盆踊り等の地域行事にも積極的に参加していくなど、地域とのつながりを求めてきました。
 一方、こういった活動に呼応する形で地域住民側の活動も、市社協の支部・分区(西宮市社会福祉協議会は、市内を9つの支部に分け、さらにその下に、おおむね小学校区単位で分区を設置。現在9支部32分区の、住民による地域福祉推進組織となっている)の役員や、民生委員が中心となって進められています。支部・分区内に居住する園通所者宅への家庭訪問活動が取り組まれたり、園通所者自身や、父母も交えての地区懇談会、学習会が開催されるようになってきました。
 現在では「青葉のつどい」に、多くの地域の人たちのボランティア参加があり、また、あちこちで地域行事等への参加交流を支援していく活動等、それぞれの地域の中で地域の人たちによるさまざまな活動が展開されつつあります。

③ ナイトプログラム(地域生活確立事業)

 将来的にも安心して、この西宮で暮らし続けられるよう、一人ひとりの地域での生活の確立をめざそうと「地域生活確立事業」と称して、園でのナイトプログラムを実施しています。
 その中心となるのは「自立体験ステイ」で、これは、2~3人のメンバーで園職員と一緒に宿泊(通常月曜から金曜の4泊5日)し、親以外の介護者との生活の体験を積み上げ、一人ひとりの自立力を高めていき、また、副次的には親の休息的側面ももたせるもので、園通所者全員が順次このプログラムに参加しています。
 そしてこのステイでの経験をベースに、親の急用等必要が生じたとき、随時宿泊をする通所施設のショートステイともいえる「緊急ステイ」も併せて実施してきました。
 こういった中、親の入院等による長期の「緊急ステイ」が増大し、常に2~3人が園に泊まっている状態となったため、いよいよ安心して暮らしていける独立したグループホームが必要となり、通所者の父母や社協関係者が中心となって、重度障害者を生活主体者とするグループホームを設立していくための組織 「あおば福祉会」 が結成され、そして1993年に「あおば生活ホーム」が誕生しました。
 現在、ホームの定住者は1名で、他の人たちは期間を定めての体験入居や親の入院などによる長期間の生活支援型入居で、常に数人のメンバーが入居している状態です。

青葉園活動関連概念図(1997.4.1)

青葉園活動関連概念図

青葉園の今後

① 地域生活展開構造の構築

 青葉園に通所する人たちの地域生活の現状は、親の高齢化等に伴い、ますます厳しさを増しています。
 どんなに障害が重くても、このまちで一人ひとりが堂々と日中の「活動」を展開し、そして必要な「支援」を得ながら暮らしていける状況をつくり出していくことが急がれます。
 一人ひとりが豊かに自己を実現するための社会関係の中に、きっちりと位置づけられた「活動」の場と、家族と共に暮らしていても、一人暮らしでも、グループホームでの暮らしでも、安心して介護を得て暮らし続けられる「支援」のシステムが結びつきあった、重度障害者の地域生活展開構造の構築が今、求められています。
 青葉園でも日々の「活動」の充実をめざす一方で、地域の中で必要な介護が得られるよう「支援」の課題が大きくなってきました。
 これまでの「活動」の関係をベースに、ホームヘルパー、ガイドヘルパー等在宅サービスとの連携や派遣型の支援、ボランティア、介護人の養成・紹介等を通所者自身による相互相談や自立プログラムづくりに向けての活動とも連携し、模索を始めています。そして「緊急ステイ」や「あおば生活ホーム」の入居ともつながり合っての総合的支援をめざしています。
 今後は「障害者プラン」後の制度動向をにらみながら、制度整備が進められつつある生活支援センター的機能を果たすものへとつなげていけないかとも検討を進めているところです。
 いずれにしても、青葉園の展開という概念を超えて、西宮市における重度障害者の地域生活展開構造の確立に向けた展開が課題となります。
 重度の障害をもつ人たちの地域での生活は制度基盤のほとんどなかった中でも、すでに全国のいたるところで展開されています。
 進められようとしている制度改革に期待する一方、すでに重度障害者自身が選び取り、切り拓いてきた地域生活実態に誠実に対応し、取り急ぎ基盤整備を図ることが、必要になっているのではないでしょうか。各自治体レベルで地域特性を踏まえ主体的に手を打ちつつ、種々の現行制度を内包的に適応、拡張し、制度改革展望を見出していくことが切に望まれます。

② 個人総合活動計画づくり (総合プログラム)

 青葉園ではこういった状況の元で、もう1度一人ひとりの地域生活の現実と響き合い、「活動」と「支援」を総合的に進めていくため、現在個人総合活動計画づくり(総合プログラム)に取り組み始めています。
 この個人総合活動計画(総合プログラム)は、地域生活展開構造下での暮らしの内実づくりをめざすもので、まず日中活動の場面では活動の形骸化を払拭し、できるだけ活動の個別化をめざし、そして一人ひとりが活動を選択し、通所者自身が活動を創りあげていき、一人ひとりをベースに活動が生み出されてくることをねらいとするものです。
 またデイプログラム、地域プログラム、ナイトプログラムを統合化しようとするもので、一人ひとりの地域での暮らしの視点から、それぞれのプログラムが相互に作用しながら機能することを目的としています。
 またさらには、地域の人たちとの関係や、生活支援サービス(ホームヘルパー、ガイドヘルパー、訪問看護婦等)との関係も含め、さまざまな関係を生きる一人ひとりの「活動」「支援」としてとらえ、総合的に計画をつくっていこうとしています。
 そしてこの個人総合活動計画を、常に通所者本人に問いかけ、働きかけ、同意をしっかりと確認し、そして一緒に見直し動かしていこうとするものです。
 とはいうものの、まだまだ緒についたばかりの状況で、今後職員の力量をより高めつつ、一人ひとりを主人公にした活動展開を推し進めていかなければなりません。

③ 社協活動との統合化

 重度の障害をもつ人たちが地域生活展開構造を構築していくうえで重要なことは、一方で、それを受け止めて一人ひとりを社会の一員としてとらえ、その存在を地域の中に位置付けていこうとする地域住民サイドによる活動展開です。
 私たちは「地域プログラム」の展開の中で、日々まちづくりに誠実に取り組む地域の人たちと園通所者自身が直接出会い、関係を深めていくことにより共に変わり、そして、地域で暮らしていこうとする意味やその存在の値打ちが地域の中で深く認識され、地域連帯を強化し、さらなるまちづくりが進められていくことを経験してきました。
 もはや現在の青葉園の活動は、そのデイプログラム、ナイトプログラムにおいても社協活動としての要素を抜きには考えられないものとなりつつあります。
 重度障害者が主体的に地域の暮らしを拓いていく拠点と、広範な市民によるノーマライゼーション運動の拠点が統合されたとき、新しい「しせつ」が出現するように思われます。

(しみずあきひこ 西宮市社会福祉協議会「青葉園」)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年9月号(第17巻 通巻194号)22頁~27頁