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特集/施設は今―地域施設最前線―

互いに利用できる身近な施設

―高齢者と障害者の併用デイサービスを通して―

高橋克佳

はじめに

 徳島県では、常時介護を必要とする人たちの入所施設である身体障害者療護施設が不足し、入所待機者が絶えずいっぱいで、待機期間も長期にわたり、県外施設にも入所している状況でした。
 当法人(社会福祉法人徳島県身体障害者連合会)では、療護施設設置の必要性を痛感し、平成5年11月、本県で開催された第29回全国身体障害者スポーツ大会の記念事業として、県有地を無償で借り受け、財団法人日本船舶振興会をはじめ、県、市町村等の助成をいただき、平成6年4月、定員50名(ショートステイ2名)の身体障害者療護施設「小星園」を開園しました。
 家庭において適切な介護を受けることの困難な重度身体障害者50人が開園と同時に入所し、障害程度に応じた介護、機能訓練を受け、日々のクラブ活動、花見、海水浴、納涼祭、旅行、体育祭等の行事を通じ、生活の場面を広げると共に、生きがいを模索し、社会参加に目を向けつつあるところです。
 在宅福祉の3本柱の1つ、ショートステイ事業についても、常時利用者が絶えない状況で、平成7年8月には、町の委託を受けて在宅福祉2本目の柱であるデイサービスセンターと在宅介護支援センターを併設し、地域福祉サービスの枠を拡大しました。特にデイサービスセンターについては、身体障害者の介護型サービス、老人のB型サービスを併設しており、全国的にも数少ない事業形態ということで、今回、当事業を紹介することになりました。

地域性と開所まで

 当センターのある脇町は、徳島県西部に位置し「うだつの城下町」として知られ、今年の正月映画『虹をつかむ男』のロケ地ともなりました。人口1万8500人、世帯数6000世帯、身体障害者数1000人、65歳以上の人口は3500人で、核家族化の進行により、高齢者世帯が増加しています。山間僻地地域が広く、学校数は小・中学校合わせて13校と人口の割には多く、統合問題がでる中で地域の過疎化はますます拍車がかかる状況です。
 町内の福祉施設の状況は、身体障害者療護施設1(小星園)、知的障害者更生施設1、養護老人ホーム1、老人デイサービスB型1で、デイサービスに限っては、登録者数1600人と非常に多く、そのため、2か月に1度の利用でした。
 このような地域性の中、当法人の在宅障害者福祉に対する見解と、町の高齢者保健福祉計画とが合致し、身体障害者デイサービスの介護型ではありますが、老福第125号・社更第121号通知(平成3年5月30日)「老人デイサービス運営事業及び身体障害者デイサービス事業の運営について」―老人及び身体障害者が、身近なところでデイサービスを利用できるようにするため…本来の目的を損なわない範囲内で、双方のサービスを提供しても差し支えない―を生かし、身体障害者、老人デイサービスの併用型としてデイサービスセンターが開所しました。

事業の実施

 前述の経緯からも、お分かりになるかと思いますが、事業の実施は、町を2分し、西地区を当センターの担当区域として、1600人の半数800人の登録者を受けもつ形で、開始しました。
 入浴サービスでは、全介助(機械浴)を必要とする重度の身体障害者を特浴対象者、その他の利用者を一般対象者に分け、毎週水曜日を特浴利用日、月、火、木、金曜日を一般利用日として週5日実施しています。
 現在、身体障害者登録者数50人、老人登録者数880人で合計930人、うち実質利用者数500人、昨年度平均利用者数は、14.4人でした。一般利用時間は午前10時~午後3時の5時間(送迎時間を除く)、送迎時間は15分~90分(平均45分)です。また、特浴対象者として介助を要する身体障害者は登録者数11名、利用時間は人によって異なりますが、平均利用時間は約1時間30分です。一般利用者は月1回、特浴利用者は週1回の利用状況です。職員は、指導員1名、寮母2名、運転手1名の計4名が専任です。ほか施設長、事務員、栄養士、調理員、看護婦は、療護施設小星園と兼任です。
 併用実施に当たり、事業内容の検討が不可欠であり、当初、身体障害者と老人の事業内容をいかにミックスするか等の意見もありましたが、送迎、入浴、給食サービスはもとより、身障介護型と老人B型の事業内容は、共通、類似する点が多く、例えば、身障の機能訓練、スポーツ・レクリエーションは、老人の日常動作訓練に共通し、身障の健康指導は、老人の健康チェックであるとの解釈から、基本事業については、機能訓練、介護方法の指導、スポーツ・レクリエーション、健康指導を選択し、創作的活動事業については、手芸、折り紙等、簡単で家庭でも容易に取り組める内容のものを取り上げて実施しています。また、春と秋には近隣へのドライブにより、気分転換を図りながら潤いのある事業をめざしています。
 しかし、特浴利用者に対しては送迎、入浴、機能訓練と爪切り、耳掃除等の身辺ケアに限られているため、今後、給食サービスも含めた内容の充実が課題です。

今後の課題

 身体障害者、高齢者を問わず数多くの地域利用者がいるということは、療護施設を理解していただく上においても、また、地域の情報を収集し、地域ニーズを明確化できる面から見ても大きな利点があり、ある意味では、施設の地域解放の実践が行われ、地域生活支援へ向けての大きな財産であるかもしれません。確かに、比較的元気そうに見える高齢利用者の中にも衰えていく体力に自信を失い、社会からの疎外、孤独を感じ、心のケアを求めていることも現実としてとらえられます。しかしながら、現実にはこういった心のケアにまで取り組むことは、週間プログラムを実践していくデイサービスとは大きくかけ離れた状況にあることも事実で、今後は、個々の利用者にもっと目を向け、厚みをもった援助計画を立てて実践し、地域での生活を支援していくことが必要であると考えます。そのためには、現在の利用者数では困難な状況にあり、登録利用者数を減らさなければなりません。
 老人に関しては、平成12年より公的介護保険制度が施行される予定で、サービス利用基準が明確になった時点で登録者が減少するとも考えられますが、それに伴う身体障害者の利用基準をどうするか。また、介護保険導入時に、老人は保険、身障は措置という形での現在の併用型をどのように運営していくか。要綱上の問題として、利用人員の問題(1日15人以上、うち療護、特養入所要件該当者が5人)もあります。当センターの週間プログラムで仮定すれば、週間利用者が75名、うち特浴利用者が25名となります。しかし、現在の当センターでの特浴1日利用可能者数十名から考えると、療護、特養対象者の5人以上はとても困難な状況であることなど、さまざまな問題が互いに交錯し、浮き彫りにされます。このような状況の中で何をすべきかが私たちに課せられた最大の課題ですが、療護施設に母体を置くセンターとして考えれば、その特徴を生かし、療護、特養対象者に対するサービス内容の充実を図ることを最優先するほうが望ましいのかもしれません。

おわりに

 障害者プラン、ゴールドプラン、エンゼルプランとそれぞれに福祉の対象者を区別し政策が進められていく今、「ノーマライゼーション」の意味を再度確認する必要があると思います。障害者も、老人も、子どももともに地域の中で身近な施設を互いに利用できるならば、地域に根ざした本当の意味での施設の社会化が可能になるのではないでしょうか。
 最後に、社会からの疎外、孤独を感じ心のケアを求めている人たちのことも忘れることはできません。国の経済力の悪化に伴い、制度的にも大きく変化していくであろう近未来において、身障、老人、子どもたちの、在宅、施設を問わず、心のケアについても考察、実践していくことが、私たち福祉施設職員にとって、また地域住民の一人として、重要な意味をもつのではないかと思います。

(たかはしかつよし 身体障害者療護施設 小星園)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年9月号(第17巻 通巻194号)28頁~31頁