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列島縦断ネットワーキング

京都・京都市立養護学校作業学習製品販売店「歩」

京都市教育委員会養護育成課

 平成9年1月20日月曜日、京都市立養護学校作業学習製品販売店「歩」がオープンしました。
 京都駅の東、京都市東山区泉涌寺道の今熊市場内で、市場の皆様のご好意を得てスタートしました。

社会参加・自立をめざした指導

 京都市立養護学校高等部では、領域(道徳、特別活動及び養護・訓練)と教科の目標と内容を合わせた指導(統合の指導)の1つとして、作業学習を行っています。作業学習では、社会参加・自立できる能力を培うことを目的に、材料購入から制作・販売や商品開発などを通して「働くこと」を学ぶ学習です。陶工(コーヒーカップ等)・木工(コースター等)・縫工(小物入れ等)・紙工(手漉きはがき)・活版印刷(名刺印刷)・農園芸(しいたけ栽培等)などの作業種目が取り入れられています。
 生徒たちはその中で、自分に任された工程をやりきり、自分自身が「役割を担うこと」「期待される存在であること」の実感を積み重ねます。また、作業学習で自分自身にとっての「働くこと」を実感した生徒たちは、今度は「本物の働く場」で現場実習に取り組みます。各養護学校では、生徒たちの発達や障害の状態、課題に応じて、さまざまな形の現場実習を準備しています。このような積み重ねの中から、生徒たちの「働きたい」「仕事をしたい」という思いや、自分の将来の生活に対する夢や希望が育ち、意欲が高まり、ひいては、具体的な「働く力」や「生きる力」につながるのです。

製品の販売を自分たちが自分たちの店で

 これまで、各養護学校での作業学習製品の販売は、地域のイベントやバザーなど臨時的な場に限られていました。養護学校教育の充実に向けた取り組みの一環として、各養護学校からは、自分たちが自信をもって作り上げた製品を世に問える場が欲しい、1つの製品としての評価を受け、学習に生かしていきたいとの声が出てきました。さらに「もっと販売がしたい」「販売にかかわる実習がしたい」「接客の仕事がしたい」という声が上がるようになりました。
 このような「生徒たちが学校外のいろいろな場で、人とかかわりながら社会参加・自立の力を高められたら」「自分たちが自信をもって作り上げた製品を世に問う場を」「いろいろな働く場の経験を通して将来の夢や希望に、具体性・現実性をもたせられたら」「養護学校や障害のある人のことを多くの市民に知ってもらえたら」という各養護学校のさまざまな要望を受け、平成8年度新規事業「養護学校生徒作業学習製品販売店舗の開設」として予算化、開店の運びとなりました。

「歩」 の1日―販売実習の現場で

 「おはようございます」
 販売担当の生徒が元気よく市場に出勤します。
 「おはようさん。今日も1日頑張りや!」
 市場の方々の声に励まされて開店です。お釣りの準備や売上金の入金のために、毎日通う銀行の窓口の方ともおなじみになりました。店舗には、陶器のお皿やカップ、木製のコースターやキーホルダー、手織りのテーブルセンターやポーチ、再生パルプ利用のハガキやカード、藍染製品やお弁当袋等の布製品が並んでいます。
 「いらっしゃいませ」「どうぞ見ていってください」
 初めは恥ずかしくて大きな声が出せなかった生徒も、慣れるにしたがって笑顔で大きな声が出せるようになってきます。
 「これはどうやって作るの?」「こんな物はありませんか?」
 お客様の質問にも指導の先生の助けを借りながら答えます。お金のやりとりも、売上票の記入やレジをうつことで確認しながら取り組みます。1人がお客様との対応をし、もう1人がお金の計算や商品の包装をするなど、生徒同士で役割分担をする姿も見られるようになりました。市場の方々からは、「今のはいい応対やったね」「小さい声では聞こえへんで」「笑顔が肝心や」などお褒めの言葉やアドバイスをいただきますし、生徒たちもそれに応えようとがんばっています。注文ももらえるようになりました。市場の方々やお客様に支えられながら販売実習が進んでいます。

今後の展望と課題

 真冬にオープンして、春、夏と季節がめぐりました。冬によく売れていた物が、夏になると売れゆきが落ちたり、季節ごとに色合いの違う物が売れる等、季節に応じた製品と品ぞろえ、店舗の雰囲気も季節に応じて変えていくことも必要となっています。販売店という1つの窓口を通して、製品開発の手がかりを得、さらに製品としての質を高めること、規格を統一することや検品や納品のシステムが作業学習の中で展開されています。また販売を中心に据えて、通勤の練習やお金の計算、人との応対など、生徒一人ひとりの課題やニーズをクローズアップした実習の展開も各養護学校で工夫されてきています。
 生徒自らが製作・販売を行う常設店ができたことで、作業学習への生徒たちの意欲向上を図ることができるとともに、生徒と市民との交流を深めることにより、市民の養護育成教育に対する理解をより一層深めていくための場として期待されます。
※京都市教育委員会では、障害のある児童生徒の教育目的を積極的に表現するため「特殊教育」等を「養護育成」等に名称を変更しています。

   ―「歩」 ご案内―

場  所 今熊市場内
     (京都市東山区泉涌寺門前町)
開設曜日 毎週月~金曜日
     (学校休業期間中は除く)
開設時間 9時30分~16時30分
 京都市立東・白河・西養護学校生徒が作業学習で製作した製品です。
 陶  芸 大皿・小皿・マグカップなど
 木工品 コースターなど
 布加工品 手織りポーチなど
 和紙製品 手漉きはがきなど
 園芸用品 ポプリ


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年9月号(第17巻 通巻194号)62頁~64頁