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列島縦断ネットワーキング

福岡・セルプちくほのCI戦略

―誰もが人間らしく暮らせる社会をめざして―

大庭秀和

イメージアップ作戦

 当センターは、昨年の4月1日付けで重度身体障害者授産施設「信光園」から社会就労センター「セルプちくほ」へと名称を変更し、セルプする意志を宣言しました。
 長く慣れ親しんできた名称を変更することには一抹の寂しさやセルプ事業への不利益も考えられましたが、授産という事業(言葉)は江戸時代に始められたにもかかわらず、社会的に馴染みにくいもので、授産施設が助産院と間違えられたりと、関係者以外には授産の内容はもとより、言葉の意味すら伝わっていないのが現状でした。
 施設の名称を変更してみると、地域の人から「何で変えたとね」と尋ねられることも多くなり、「SELP」とは「(障害をもつ人たちが)他人に依存せず、自分の力で、自己の向上・発展をめざし、(施設、職員が)これを支援する」ところです、と説明する機会が増え、助産院から障害者の就労の場へと理解が進んできたように思います。最近では、施設の名称を「セルプさん」と呼んでくれる人も多くなり、存在感が増してきました。
 また、「セルプちくほ」を社会にアピールするために、セルプガイドラインに沿って、次のものを設置及び変更し、すべてにセルプロゴマークを付けました。
 サイン(看板、案内板)、車両ステッカー、パンフレット、名刺、封筒、センター旗、作業服、ウインドブレーカー等です。作業服は、セルプカラー4色(青、赤、緑、黄)から好きな色を自由に選択することで、作業棟が明るくなるとともに、利用者職員にセルプの一員としての意識が芽生えているようです。ウインドブレーカー(白)は、背に大きくセルプロゴマークを入れたもので、バザールやスポーツ大会等で着用しています。これは注目度抜群でバザールの売り上げが伸びるとともに、他の施設から同じものを作ってほしいとの依頼があり、セルプの輪が広がっています。

セルプ事業の振興

 作業種目は、縫製、簡易作業、農耕園芸の3つです。
 縫製作業は、布団カバー、ピロケース、SELP防災品ボーテム携帯キット等を原反から採寸裁断して、工業用ミシンで縫製しています。工業用ミシンはマイコン内蔵先引ローラー付きで、脳性マヒの障害をもつ人でも縫製ができるように配慮されています。
 簡易作業は、サンタクロースなどのクリスマスグッズを、ベルトコンベヤーによる流れ作業で組み立てています。受注量と納期により1日の生産数を決め、変速装置を使って効率的な生産管理を行っており、1年中クリスマス気分で作業をしています。その他、博多名物の辛子めんたい用の段ボール箱の組み立てで、お中元、お歳暮シーズンは特に忙しいのですが、障害の重い人たちの作業となっています。
 農耕園芸は、りんごやみかんの栽培と鶏の飼育等です。観賞用の植木を植えるより、食べられる果樹をとの発想で、現在は当センターの給食でさばく程度ですが、将来が楽しみです。
 現在、振興策として取り組んでいるのがクリスマスグッズをセルプ製品化することです。デザイン提携を含めて検討中ですので、SELPロゴマーク入りのクリスマスグッズが出るのを楽しみにしていてください。
 次に、他の施設のセルプ製品を販売する相互協力です。特に、障害者自立支援商品である済美職業実習所のSELPボールペンは、販売はもとよりPR用として活用し、町の運動会の参加賞や食品会社の粗品に採用されるなど、少量の受注ですがPRの効果が出てきています。また、地元商工会と連携しての町起こし商品(筑前茜染めのハンカチ、柚胡椒等)の販売などで、売り上げの向上と地域への貢献をめざしています。

これからのセルプちくほ

 「授産施設制度あり方に関する提言」(文献1)のなかで、「授産施設は、利用者のプライバシーあるいは自立生活の助長をサポートする観点から、職住分離を推進するとともに、通所を基本とする」と提言がなされています。
 施設の名称を変え「授産施設のCI戦略」(注)に沿ってこの1年間走ってきましたが、何が変わったのか。ロゴマークを付けられるものにはすべて付け、事業は人なりと勉強会も何回となく行い、研修会にも参加しました。全国の一部でしか盛り上がっていない「授産施設のCI活動」、先が見えないだけになんとなく疲れたような気もしますが、もう後戻りはできません。CI調査報告書(文献2)の中で、㈱PAOSの中西元男社長が次のように述べています。
 「人は誰しも働きたいという欲求と他人の役に立ちたいという願望をもっています。『SELP』とは、まさに働くことにハンディキャップをもった人たちにチャンスを与え、自立への道を開いていくキーワードです。
 同時に、市民的・職業的交流の中で『個の存立を確立』していくことに他なりません。従来、わが国で障害者福祉と呼ばれてきた分野に、独自の『日本型ノーマライゼーション』を具現化していくことこそ、『SELP』の目標なのです」
 これをセルプちくほの理念として、障害者の職業的自立や社会生活向上のために、福祉ホーム、グループホームを含めた誰もが利用できる小規模複合型施設への転換をめざして、今後とも授産施設のCI戦略を通して意識改革、体質改善を地道に実践していき、誰もが人間らしく暮らせる社会をめざしていきたいと思っています。

(おおばひでかず 社会就労センターセルプちくほ副センター長)

(注)
 CIとは、Cooperated Identityの略。    
 全国授産施設協議会(現、全国社会就労センター協議会)は、1992年厚生省の「授産施設制度あり方に関する提言」で指摘された名称の検討等の提言を踏まえ、「授産施設の体質改善と共通意識づくり、一般社会と積極的にコミュニケーションできる環境づくり」を目的としたCI戦略を展開しました。その中で生まれたのが「SELP/社会就労センター」という新名称です。

〈引用文献〉
1 『授産施設制度あり方に関する提言』厚生省、1992年7月
2 『SELP「セルプ」CI調査報告書』全国授産施設協議会、1995年6月


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年9月号(第17巻 通巻194号)65頁~68頁