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特集/これからの障害者運動

これからの障害者運動に一言

障害者運動の大同団結を

堀内生太郎

 これからの障害者運動にぜひお願いしたいことが2つある。
 その1つは障害者運動の大同団結である。わが国の障害者福祉は「国連・障害者の十年」により大きく前進した。一例を挙げれば、車いすが乗れる電車やバス、車いす用のトイレや駅の昇降機、メロディを奏でる信号機、歩道の点字ブロックの設置などである。
 このような前進は、「国際障害者年日本推進協議会(推進協)」の旗の下にあらゆる障害者団体が結集し、活発な活動を繰り広げ、その活動が広く国民の支持を得た結果である。
 その後、国連の活動として「アジア太平洋障害者の十年」が新しく始まった。しかしながら、先の十年の成果を踏まえ、推進協は「日本障害者協議会(JD)」と名称を変えたが、さらに新しい団体への結集の動きは見られず、むしろ障害種別の中の細かいグループ化だけが活発になっているように見受けられるのは残念である。
 障害者福祉の向上を広く国民に訴えて共感を得るためには、個々のグループ活動も大いに重要ではあるが、それと平行して障害者運動の大同団結と、地に足がついた政策提言能力の強化が必要である。
 独立戦争に勝ったアメリカ13の旧植民地代表が集まった憲法制定会議は「妥協、妥協また妥協」の三原則が支配したという。個人主義の国民性をもつアメリカにしてしかり。関係者の努力に期待したい。
 ところで、先進諸国では政府の役割といわれる社会福祉の諸活動のかなりの部分を、アメリカでは民間活動が担っている。ADAの成立やIL運動など、アメリカの民間活動に学ぶ点が多いのはそのためである。ひるがえって、わが国のこれまでの障害者運動を見ると、行政に対する要求ばかりが目立つように見受けられる。いかに優秀なスタッフを抱える官庁、自治体といえども、各方面にわたる膨大な要求にそれぞれ腰を据えて検討することは困難であると言わざるを得ない。
 所得保障の問題は別として、障害者の交通や情報アクセスの問題にしても、衣食住などの日常生活機器の障害者(高齢者)対策にしても、陳情活動で法規制を待つよりは、大同団結した障害者の運動体がメーカーなどの関係業者や業界団体に直接働きかけるほうが、より効果的で、迅速かつ現実的な改善を期待できることも少なくない。
 また障害者自身の問題としては、隣近所との日ごろのお付き合いを心掛けることによって、日常生活や災害時の緊急対応など、かなり改善の余地があると考えられる。
 「国連・障害者の十年」以来、障害者に対する国民の目はかなり変わっている。小さな政府、財政再建が叫ばれている今日、行政に偏重した運動の方向を行政、社会、障害者自身に等しく向けることによって、早期かつ効果的な改善を目指すべきだということを、第2の要望として挙げておきたい。

(ほりうちせいたろう (財)安田火災記念財団専務理事)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年10月号(第17巻 通巻195号)21頁