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特集/これからの障害者運動

これからの障害者運動に一言

ネットワークの結成と高齢者団体との連携を

澤村誠志

 障害をもつ人が、たとえ日常生活で介助者の援助を必要としても、日常生活や社会参加の行動を自らの意志で選択し、決定し、主体的に住みなれた地域で共に生き、少しでも有意義な生活を送れる世の中をつくりたい。これが、私たちが長年めざしてきた地域リハビリテーションの理念です。そのゴールは、24時間ケア体制、地域の拠点整備と住宅確保にあるように思います。しかし、果たして私たちの日本型社会の中で、この主体性をもって、自主的に生きる体質が育っているかどうかは大きな疑問です。
 私たちの日本人社会に長年しみついている家族依存型体質の中で、一般に、海外と比較して自立意識が極めて低いと思われます。海外先進国にみられる、高校卒業後、親元を離れ、経済的にも自立生活を送る、あるいは自分たちの老後は厳しいけれど子どもに依存せず、社会の援助を得て、できるだけ主体的に地域で自立生活を送りたいとする思想は、わが国の障害をもつ人々、高齢者と比較してはるかに高いものと感じています。
 今から十数年前のサッチャー政権時代、ロンドンの街角でお年寄りのグループが、年金生活者への処遇カットに反対するプラカードをもって、キャンペーンを行っている姿に、大変新鮮な感動を覚えたことをよく記憶しています。最近の重なる国民の負担増案によって、最も打撃を受けるはずのわが国のお年寄りたち当事者が、ほとんど集団としての自己主張をせず、サイレントマジョリティをきめこんでいる姿とは大きな格差があります。
 デンマークには、1968年に結成された、高齢者のための高齢者による全国ボランティア組織「エンドラセイエン」があります。年会費2500円で30万人の組織ですが、高齢者の問題は、高齢者が一番よく把握しているとの当事者意識がその基本にあります。会員への情報提供、相談、ネットワーク、孤独な老人への各種ボランティア活動とともに、最も重要な活動として、国や自治体への政治的な働きかけをあげています。
 ご存じのとおり、スウェーデンでは、厚生省の下部組織として、9名の構成による障害者オンブズマンが設置されてから5年を経過しています。障害者の利益と権利を守ることを主活動とし、年間120件のさまざまな問い合わせに答え、障害者団体のニーズが直接国の政策に反映されるシステムをつくっています。この意味では、アメリカの自立生活センターの活動など、海外での障害者運動と比較した場合、わが国には、真の意味での障害者の政策参加による民主主義が育っていない感じがします。
 わが国のある地域では、大変すばらしい自立生活、社会参加活動をされているグループがあります。しかし、それはすばらしいリーダーの旗ふりによるものであり、地域による温度差はきわめて大きいと言わざるを得ません。市町村障害者プランが進まないのも障害者運動の低調が一因となっているのでしょう。選挙推進母体として政策参加することが要請されている時代に、まず、障害ごとの組織を強固にすること、そして、障害者団体間のネットワークの結成と高齢者団体の協力を得て、保健・医療・福祉インフラの整備が必要であると思います。そのためには、海外の障害者運動との連携をとり、官僚に勝る政策に関する懸命の勉強と実践活動の中で、現行の障害者プランでは達成できない、極めて具体的な政策提言を望みたいものです。

(さわむらせいし 兵庫県立総合リハビリテーションセンター所長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年10月号(第17巻 通巻195号)23頁・24頁