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特集/これからの障害者運動

全国SCD友の会の活動について

今西永光

脊髄小脳変性症(SCD)という難病について

 脊髄小脳変性症は厚生省が指定した特定疾患の1つであり、治療方法はもとよりその原因も解明されていない神経難病です。
 言いかえれば、脊髄、小脳その周辺の神経細胞が萎縮変性し運動失調をもたらす疾患の総称です。遺伝性と非遺伝性とがあり、細かく分類すると十数種類に及ぶといわれています。
 これまでの分類は、厚生省の特定疾患調査研究班のものが使われていましたが、近年とみに研究が盛んになっている遺伝子異常の面からの分類が多く用いられるようになってきました。
 しかし、分類はともかく、現段階では「原因も治療方法も不明、特効薬もない進行性の難病」であり、リハビリにより病状の進行を遅らせる以外、これといった良い方法はありません。
 具体的な症状としては、強度のふらつき、歩行困難、構音障害、書字不能等があります。この他、人によっては排尿困難や眼振に悩まされたり、起立性低血圧がひどくて起きていられないこともあります。
 総じて病状は緩徐ですが、確実に進行し、5年から20年で寝たきりになり、寝返りもできず、発声も不可能になるといわれています。
 また、この病気は直接致命的にはならないともいわれますが、実際に亡くなる患者は肺炎、尿路感染、窒息など合併症によるものが大部分です。
 意識がしっかりしていても運動失調によって身体が動かせない、発声も書字もできないと終末は悲惨な状態です。
 わが国における患者数は1万2000人とも2万人ともいわれていますが、正確な数は不明です。これは日本独自のことかもしれませんが、遺伝性(家族性)のものが40パーセント、非遺伝性(孤発性)のものが60パーセントといわれています。欧米では非遺伝性のものは少なく、病気自体が遺伝性のものとみなされているようです。
 最近遺伝子の分野の研究が急速に進み、遺伝性脊髄小脳変性症の一部では、遺伝子の異常が原因であることも判明してきました。DNAの配列が健常者とは異なっているといわれています。将来は遺伝子治療が考えられるかもしれませんし、非遺伝性の脊髄小脳変性症についても決定的な治療法の開発など、かなり期待できそうであるともいえます。
 ただこうした研究は始まったばかりであり、その成果が見られるのはかなり先になるでしょう。

友の会の歴史と目指しているもの

 昭和51年8月、故田中成夫さんが教育テレビに出演されたのを機に、全国の同じ病に苦しんでいる友に呼びかけ、昭和52年6月26日「全国脊髄小脳変性症(SCD)友の会」が結成されました。設立後すでに20年の歴史があり、会員も約1600人を数えています。
 その目的とするところは以下の通りです。

(1)脊髄小脳変性症と家族の相互の交流と親睦を図る
 
 現在原因不明、治療法のない難病といわれていますが、会報、交流会あるいは旅行会等を通じて、お互いの経験談、人生論を交換することにより、独善的で一人よがりになりがちで、打ちひしがれた患者の心を癒す上での効果を期待しています。
 
(2)脊髄小脳変性症の早期原因究明と治療法の確立を図る
 
 一刻も早いSCDの原因究明と治療法の確立、医療体制の充実と向上を目指して厚生省や関係主要医療機関等に働きかけています。
 
(3)脊髄小脳変性症に対する社会の認識を深める
 
 このSCDという病気は、患者が多い割には、ALSや筋ジストロフィーのようにセンセーショナルにマスコミなどに取り上げられることも少ないため、あまり一般に知られていないようです。このため患者は周囲の理解を得られず、誤解を受けることも多く、苦労した例が報告されています。この病気が社会に認知された難病として理解が得られるようにしたいものです。

活動内容

 前述の友の会の目的を達成するために、具体的に下記の活動を行っています。

 (1)厚生省への陳情(年1回)
 
 特定疾患の調査研究費を大幅に増やして疾患の解明に一層の努力をするとともに、国立療養所の統合と再編成、重症患者が長期入院でき、かつ専門医がいる施設の確保などを要求しています。
 
 (2)医療講演会の実施(年2回)
 
 毎年春には東京で友の会の総会を開き、同時に専門医や学者を招いて講演会と医療相談会を行っています。秋にはできるかぎり、東京以外の都市で医療講演会を開き、会員の利便に供しています。
 
 (3)交流会の実施(年6回)
 
 会員相互の意見交換、親睦のため東京で交流会をもっています。時にはスポーツトレーナーによるリハビリの実技指導があったり、出席された会員には大変喜ばれています。
 
 (4)会報の発行及び配布(年6回)
 
 会の活動状況、連絡事項徹底、会員相互の意見交換のため、年6回会報を発行しています。とくに情報の少ない地方の希少難病の患者にとっては、唯一の情報源として役立っています。
 
 (5)電話医療生活相談(時間を限定)
 
 幹事の中より経験豊かな人を選んで、会員のいろいろな電話相談に応じています。相談内容は病状のこと、リハビリのこと、病院のこと、保険のこと等多岐にわたり、相談員1人では十分な回答ができないこともありますが、誠心誠意対応していきます。
 
 (6)会の組織の強化
 
 会は会員の会費(年間3600円)でまかなっているため、運営は必ずしも楽ではありません。事務は患者及びその家族の輪番制で行っており、会員に十分なサービスができていませんが、おいおい組織の強化を図っていきたいと思っています。現在、会員は約1600人ですが、疾患の認知が進むにつれて増加の傾向にあります。

今後の課題と展開

 いうまでもなく、会の目的は「病気の原因の究明と治療法の開発」にあります。この意味で一刻も早く「脊髄小脳変性症」という難病が駆逐され、逆説的に「会」が解散できることが理想です。
 しかし、遺伝子治療の分野でかなりのスピードで開発が進んでいるといわれていますが、それが脊髄小脳変性症の有効適切な治療法として、日の目を見るのは、かなりの時間が必要と考えるのが、現実的でしょう。
 このような意味からも、ここしばらくは会としても会員相互のQOLの向上のため、前述の活動を続けていくつもりです。

(いまにしひさてる 全国SCD友の会事務局長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年10月号(第17巻 通巻195号)27頁~29頁