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特集/これからの障害者運動

アジアの障害者運動

高嶺 豊

DPIの誕生

 1981年の「障害者インターナショナル(Disabled Peoples' International:DPI)」の誕生は、アジアの途上国の障害者運動の興隆に大きなきっかけをつくった。さらに、1983年から国連・障害者の十年が始まり、障害者運動は着実にアジアの途上国に根付いていった。アジアで、DPIに加盟している途上国をざっとあげても、タイ、バングラデシュ、フィリピン、カンボジア、マレーシアなどである。
 DPIの加盟団体の特徴としては、各国の団体が、さまざまな種別の障害者の全国組織を翼下にいれた連合組織であることである。例えば、タイの場合、タイ障害者協議会は、盲人協会、ろう者協会、肢体障害者協会、傷痍軍人会、知的障害者親の会などで構成されている。
 タイDPIの創設者であるナロン参議院議員は、1981年のDPI第1回世界会議に参加して、種別を超えた障害者の全国組織の必要性を強く感じ、帰国後、タイDPIの設立に奔走したと述べている。
 また、面白い特徴として、その構成団体はそれぞれ障害別の世界組織にも加盟していることである。盲人団体であれば、世界盲人会連合のメンバーであるし、ろう者団体であれば、世界ろう者連盟に属しているのが普通である。
 さらに、DPI加盟団体の一般的な特徴として、障害者の権利擁護、具体的には国の政策への障害者のニーズを反映させるためのロビー活動を中心に運動していることである。タイでは、タイ障害者協議会の絶え間ないロビー活動の結果、障害者リハビリテーション法を1991年に成立させている。

農村部に住む障害者への対応

 これまでアジアの障害者運動は、各国で、障害者に関する法律の制定や、国の障害者施策の立案・実施に参加するなど、さまざまな成果をあげてきている。しかし、それらの成果は、8割が途上国の農村部に住むといわれている多くの障害者の生活には、ほとんど影響を与えていないというのが実情であろう。また、今の障害者運動が都会を中心としたエリート障害者の活動ではないかという批判も聞かれる。これは、途上国の多くの障害者リーダーが都会の、割合高い教育を受けた中流・上流階級の出身者に多いことにも起因している。農村部の障害者と言えば、教育を受ける機会が限られ、リハビリテーションや福祉サービスがほとんど受けられない。さらに障害者運動に関する情報も得られない状況に置かれ、今の障害者運動に参加する状況にはないといえる。
 このような中で、DPIのアジア太平洋地域では、農村地域に住む障害者へのアプローチが不十分であることを認め、以下の条文を1994年ジャカルタで開かれた、アジア太平洋地域総会の場で決議している。
 「障害者の7~8割は途上国の農村地域に居住している事実を認識し、私たちは、DPIがこの状況を明確に把握し、農村地域に住む障害者に具体的、生産的、かつ効果的な方法で手を差し伸べるよう、また、この問題を私たちの十分な注意と優先事項かつ緊急課題として取り扱うよう要請する」
 途上国で、障害者運動が真にグラスルーツの広がりをもつためには、農村部やスラム街に住む大多数の障害者のニーズを取りあげ、解決していく必要がある。

サンガム運動―農村部の障害者運動―

 南インドのタミルナド地方では、農村部に住む障害者のサンガム(団体)運動が始まっている。14、5人の村の障害者が集まり1つのサンガムを構成する。障害の種類もまちまちである。毎月集会をもち、全員で少額のお金を積み立てる。積み立てられたお金は、会員が必要に応じて順繰りに借りていく仕組みである。ある会員は、商売を始める資金にし、他は子どもの教育費にするなどさまざまである。また、会員は村の生活で困っていることを話し合い、サンガムとして解決できないか協議する。必要であれば、部落の長にもサンガムとして協力を求める。さらに、村の評議員選挙に立候補者を送り込む障害者のサンガムも増え、障害者の村の政治過程への参加が盛んになりつつある。1つのサンガムは村の他のサンガムと連合し、村を代表するサンガムとなる。さらに村のサンガムは地域の連合体を構成する。
 障害者のサンガムは自然発生したものではない。ヴァンカテッシという盲人の活動家が、農村部の障害者の問題を解決する方策として多くのNGOの協力を得て導入したものである。サンガムを始める前に障害者は一定の研修を受け、リーダーを選定し、リーダーはさらに研修を受けるなどの過程を経て1つのサンガムが誕生する。
 今、サンガム運動は南インドの農村部で広がりつつある。さらにこの運動は、カンボジアの障害者にも紹介され、広められようとしている。サンガム運動は、アジア太平洋地域の農村部に住む大勢の障害者のエンパワメントを実現する方策として、今、期待されている。

(たかみねゆたか ESCAP社会開発部障害者プロジェクト専門官)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年10月号(第17巻 通巻195号)30頁・31頁