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特集/地域での暮らしを支える相談員

身体障害者相談員の現状と課題

竹内正直

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 昭和42年「身体障害者相談員設置要綱」が厚生省社会局長通知によって始動してから、早や30年が経過しました。
 この間、わが国の障害者をとりまく環境や障害者福祉は、法律や制度の改正を含めて大幅な変革と充実を見ましたが、この「要綱」は何の手入れもなく今日に至っています。
 障害のカテゴリーや国民の障害者に対する理解・認識が変わり、人権と自立の確保をきびしい理念とする国の施策が定められてなお、相談員活動を民生児童委員業務を補完する、障害者の「更生援護」の相談指導の領域にとどめているのはどのような理由からか、私にはいささか腑に落ちないのです。
 この制度のスタートから相談員としてかかわった私としては、「要綱」を現実に即して見直す必要があることを痛感しています。

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 そのことについては後述するとして、しかしそれにもかかわらずこの仕組みが、障害者福祉の担い手の概念を変える極めて画期的な役割を果たしたことは忘れてはならないことだと思います。
 アメリカにおける障害者への自立支援運動、CILの設立は1972年からで、ここでは障害者自らが障害者の介助・住宅・雇用サービスのほか、アドボカシーやピアカウンセリングを基調とした活動を主たる事業メニューとしていますが、この運動は先の「要綱」の制定から5年を経過して始まっています。
 そうした先駆的意味合いを含めて、この30年間の相談員活動にはずっしりとした実績の重みを感じずにはいられない思いがあります。
 そして一般的には相談員活動は、障害者運動の中に着実に根付いて見事に結実し、日常活動として定着したという評価を得ていることも事実です。
 それは「要綱3」に示されている、「原則として身体障害者のうちから」相談員が選ばれているという、相談員選任の手順の経緯と不可分の事柄と言えます。
 同じ項目のうちの、相談員がいかに「人格識見が高く、社会的信望があり、身体に障害のある者の福祉増進に熱意を有し」ていても、正味障害の痛みが理解できる立場は、その痛みを共有する障害者自身をおいてないからであり、その故にこそ身近にいて同じ志をもつ者として安心して心の裡の真実を打ち明けることができる訳です。
 この相互信頼の関係があるからこそ、相談の真意・内容が的確に把握でき、適切にして果断な対応や措置を講ずることができるのではないでしょうか。

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 山梨県の相談員は、制度がスタートした翌年の昭和43年、全国にさきがけて山梨県身体障害者相談員連絡協議会を設立しました。
 発足当初は、情報の交換と相談員間の親睦・交流を主とした事業(相談員バッチ・門標の制定、研修事業の実施等)でしたが、昭和47年に未婚障害者の結婚促進事業や地域総合相談事業を県から委託を受けたことから、相談員活動は独自事業を加えてにわかに活発化しました。
 別掲の「事業系統図」にあるように、受託事業並びに独自事業は個々の相談員がそれぞれの地域にあって、日常活動のかたわらこれらの事業に主体的かつ積極的にかかわり、その実績を着実に重ねてきたのです。
 事業によっては県下全域の相談員の活動をネットした連携や、関係機関と緊密な業務の提携を行ってきました。そのうちの結婚促進事業だけでも相談員の手によって得られた成婚の数は、実に300組を超えるに至っています。
 このように相談員は、その資質に即して生き生きと独自性・専門性を発揮して業務をすすめてきました。
 こうした事業の取り組みや相談員の働きは、後に全国の熱い視線を集めた「山梨県障害者幸住条例」制定に当たってその理念形成に、あるいは山梨県で初の国際会議となった日米障害者協議会やまなしフォーラム'93事業の成功にささやかな一灯を点じ、県の障害者施策推進に一臂の力になったと信じて疑いません。

 山梨県身体障害者相談員協議会事業系統図

山梨県身体障害者相談員協議会事業系統図

※1・昭和47年から実施している未婚障害者結婚促進事業(集団見合い)
※2・県内2地区を持ち廻り、未婚障害者の結婚に対する啓発・指導を行う
※3・結婚するどちらかが県内障害者で、いずれかが3級以上の場合、1件3万5000円相当のサイドボード、書棚等贈呈
※4・県内2地区を持ち廻り、県の巡回相談未開催地域で開催。結婚・就業・医療・年金、生活全般にわたる相談を実施
※5・若い障害者と健常者の交流促進事業で福祉事務所地区ごとに年1回開催。昭和49年にスタートして現在は県ボランティア協会に委託替えして実施
※6・相談員事業の啓発・啓蒙を目的とした図書刊行。シリーズで『障害者の結婚』『相談員事例ケース集』を出版
※7・既婚障害者の家庭生活のアフターケア。家事・育児・家族計画から職業・医療・生活相談、あるいは講演・洋裁・茶の湯まで実施
※8・身体・精薄相談員と県下64市町村の障害者団体役員の合同研修で、最近「災害対策」「障害者計画」等を研修
※9・県民生児童委員協議会と当会並びに精薄相談員協議会の連絡会を年1回開催。県社協、県障害者福祉協会が参加

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 相談員活動の定着化は、連動して市町村における障害者運動の活性化を促す効果をもたらしました。
 現在、相談員の多くは障害者団体や地域活動の中心的な働き手です。相談業務は障害者個人の暮らしや悩みに、絶えず深く分け入って行われる関係上、否応なく障害者のさまざまな要求・要望と出会いその解決に懸命に当たることになります。つまり相談員は障害者の新たな、そして切実なニーズと密着している訳で、このことが人間として、また障害者運動の推進役としての相談員の資質を絶えず引き上げ、さらには事業に常に新鮮な配慮が行きわたることになります。
 「要綱4―(1)」は相談員の業務を「身体障害者地域活動の中核体となり、その活動の推進を図る」と規定していますが、これは相談員活動がもたらす相乗効果に大きな期待が寄せられていることを示しています。

 身体障害者相談員設置要綱(抜粋)

1 目的

 身体障害者相談員(以下「相談員」という。)は、身体に障害のある者の更生援護の相談に応じ、必要な指導を行うとともに、身体障害者地域活動の推進、関係機関の業務に対する協力、身体に障害のある者に関する援護思想の普及等身体に障害のある者の福祉の増進に資することを目的とする。

2 委 託(略)

3 推せん(略)

4 業 務

 相談員は、次の各号に掲げる業務を委託されるものとする。

(1)身体障害者地域活動の中核体となり、その活動の推進を図ること。
(2)身体に障害のある者の更生援護に関する相談に応じ必要な指導を行うこと。
(3)身体に障害のある者の更生援護につき、関係機関の業務に協力すること。
(4)身体に障害のある者に対する国民の認識と理解を深めるため、関係団体等との連けいを図って援護思想の普及につとめること。
(5)その他前各号に附帯する業務を行うこと。

5 関係機関との連けい(略)

6 業務委託の期間(略)

7 業務委託の解除(略)

8 その他(略)

[昭和42年8月1日社更第240の1号 各都道府県あて厚生省社会局長通知]

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 ところで相談員事業30年の間に、障害者事情は大きく様変わりしました。
 障害の重度化、複雑化、障害者ニーズの高度化、多様化、そして高齢障害者の増加など国の施策や対応が追いつかない程のスピードでこれらの状況変化は、同時進行しています。その上先行きの明暗が定かでない行財政改革の行方を考え合わせますと、今後相談員に要求される業務の範囲や領域はますます広がり、あわせてその質量がいよいよ加重なものとなってくることは火を見るよりも明らかです。
 すでに多くの相談員は、「要綱」が示す「業務」の範囲をはるかに踏み出し、さまざまな事例を通して障害者の人権や生活支援の分野にまで深く足を入れて、その「自立」に直接手を差し延べてきています。
 果たして相談員の業務を、相談当事者の「更生援護に関する相談」と「関係機関の業務に協力する」としている「要綱」は、現行のままで良いのでしょうか。それにともない相談員としての処遇や立場は、現状背負っている役割と職責にふさわしいものに改善の必要はないのでしょうか。もとよりこのことは、民生児童委員の業務との整合の上で考慮されるべきことではありますが…。

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 この制度は、いよいよ専門化・複雑化する行政事務や公的サービスの補完をすすめる上で、民生委員制度とともに極めて重要なものとなってきます。そこでこの制度に対し、次の改善を求めたいのです。

① 現行の「要綱」を法律に改めるか、または次の改訂を行うこと
 ※法律に改める際は身体・精薄を一元化して「障害者相談員法」とする

② 「業務の委託」を「職の指定」とする
 ※ただし民生委員法第10条同様「名誉職」とする

③ 民生児童委員との業務の領域の棲み分けを明確にする

④ 「要綱4・業務―(2)(3)」にある「更生援護」の文言を、現実の業務の実態に合わせて「自立支援」等の適切な用語とする

⑤ 研修参加を義務づけて必修とし、相談員の資質のレベルアップを図る

⑥ 現行2年の任期を民生児童委員と同様3年とする

⑦ 相談員の適正配置を図り、身体障害者100人に1人規模とする

*   *   *

 21世紀の高齢社会は心身に何らかの障害を有する人が今より多く共生することになります。相談員はそれらの人の個々のライフステージにおける良きパートナーであり、いつも身近にいてきめこまかな相談・指導・支援を果敢に行う実践者としての国民の期待は、さらに一層大きなものになるものと思います。

(たけうちまさなお 山梨県障害者福祉協会・本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)8頁~11頁