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1000字提言

シェル号とともに

上林洋子

 昨夜の雨も上がり、さわやかな朝です。あの残暑はどこへやら、素足には寒いくらい。盲導犬と出会って2年になり、私にはなくてはならないパートナーです。ゴミや郵便物を持っただけで間違いなくそこへ誘導してくれる5歳になる雌犬のシェル号。私の友だちに会うと尾っぽを振って応えてくれる人なつっこいのが取り柄です。こんなさわやかな朝は、緑いっぱいの遊歩道を歩いてみよう。大通りの信号を渡り、変形した十字路も難なく通過し、車止めの前でピタリと止まり、遊歩道の入口を教えてくれる。ここからはもう安心。雑木林の中をゆっくり歩いたり、走ったり、木の葉が風にさやぐ音を聞きながらの雨上がりの遊歩道は最高です。

 この夏、すばらしい体験をしました。盲導犬使用者の先輩の発案により、弱視の夫とともに、富士登山に挑戦したのです。7月19日、ベテランの男性登山家4名、点訳ボランティアで大の犬好きな女性2名の健常者にサポートをお願いし、視覚障害者4名と2頭の盲導犬のパーティーで無事登頂できたときの感激は筆舌には尽くせません。
 ところが山小屋に入ろうとした際、盲導犬同伴を断られ、11時間もかけて登頂した爽快感も吹っ飛んでしまいそうでした。みんなで足下に静かに伏せている盲導犬を見せて、熱心にお願いし、廊下に入れてもらうことができ一安心。また、宿泊客からも廊下に置いた盲導犬の近くの席を譲ってもらい、そのそばに休むことができました。このようにして多くの人たちの誠意や、チームワークのすばらしさ、道中に行き交う人たちの励まし、またサポートの人たちの心遣いなど、数えきれないほどの真心に出会い、ご来光を拝むことができました。

  10名と2頭のパーティー遂に今
         浅間神社の鳥居をくぐる
  ご来光拝みて佇む富士山頂の
         大気微かにぬくもりてくる

 毎日シェル号と歩くことにより、私も富士山を制覇できるほどの体力がつきました。でも、まだ盲導犬の数は少なく、一般社会からも理解されていないことが多くあります。こんな場面に直面したとき、私たち使用者自らが、盲導犬とともに誠意をもってお願いすることが社会の理解を得ていく早道だと思います。

(かんばやしようこ 新潟市視覚障害者福祉協会女性部長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年11月号(第17巻 通巻196号)28頁