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特集/もう1つのオリンピック 日本の3月、パラリンピック。

メダリストからの声援

長野パラリンピックがんばれ!

南 浩一

 長野パラリンピック出場おめでとうございます。日本で開催される大会に出場できるというのは、大変名誉で素晴らしいことだと思います。また、ユニフォームまでオリンピックと同じデザインで、冬季パラリンピックの選手の方々は、大きな喜びと、またそれにも勝る程の責任感を感じられていることと思います。
 そう言えば、アトランタパラリンピックの後、首相官邸に招かれた時、橋本総理が、「長野パラリンピックには、私も大変興味があり、日本政府としても、特にバックアップしていきたいと思います」と言っておられました。総理のお父さんは、足が不自由だったにもかかわらず、とてもスポーツマンで、総理は、そのうしろ姿を、いつも尊敬の眼差しで見て育ったのだそうです。その力強いお話を聞いて、アトランタパラリンピックの選手たちは、皆感激のあまり、思わず涙ぐんでしまいました。そんなこともあり、総理の長野パラリンピックへの思い入れは、とても大きいのだと思います。
 選手の皆さん。僕は同じパラリンピックの選手として、そう簡単にメダルは取れないことも、重々承知しているのですが、あえて言います。ぜひ、メダルを狙ってください。僕が今まで、3度パラリンピックへ出場して実感したことですが、やはり、メダルが取れたのとそうでないのとでは、いろいろな面で、天と地との差があるということは事実なのです。
 パラリンピックに選ばれた選手の人たちは、今まで大きな大会をたくさん経験してこられているので、僕ごときのアドバイスでとても恐縮なのですが、何かの参考にしていただければと思います。
 パラリンピックの場合、開会式・閉会式のすごさといい、周りの待遇といい、また海外選手の顔ぶれ等、あまりに他の大会と違います。たいていの選手は、開会式の素晴らしさに感動してしまい、試合の時に、今まででは想像もつかないような、プレッシャーに襲われ、何がなんだか分からないうちに試合が始まってしまう、ということがよくあります。でもそれは、他の国の選手も同じで、後で考えてみれば、今までの練習の記録が、出ていさえすれば、十分上位に入れたのに…ということが、本当にあるのです。このへんをうまく調整できれば、意外とメダルが狙えるかもしれません。
 オリンピックやパラリンピックには、“勝利の女神”が必ずいて、こちらを向いてくれさえすれば、勝ててしまいます。運がよかったとよく言いますが、4年に1度のビッグゲームに運をもってこられれば、とてもラッキーだと思います。僕の出場しているアーチェリー競技にもよくあるのですが、勝利の女神がそっぽを向いてしまうと、“こんな時に、壊れなくても”と言いたくなるようなことが起きてしまいます。特に冬季パラリンピックは、道具の調整がかなり重要で、道具のチューニングや整備には、念には念を入れられていることと思います。道具が完璧であれば、おのずと自信もわいてきます。
 パラリンピックは、実にさまざまなアクシデントとハプニングの連続です。そんな中で戦うための信条は、僕の場合、怪我をする前の、ハンググライダーのジャパンマスターズ大会で優勝した時の経験にさかのぼります。決勝戦では、みなレベルは五分五分だったのですが、最後のドタンバで僕は、バックアップ用のパラシュートを外して機体を軽くし、動きをよくして勝つことができました。つまり、最後に、“もうだめだ”と思ったり、受け身になってしまい、“何とかここだけうまく過ぎてくれないか”なんて思ったら、もう、負けです。あくまで攻撃的に、ドタンバで、“これだ”とひらめいたことをあきらめずにやってみる、ということだと思うのです。やるだけのことをやって、悔いのない戦いができれば、たとえ成績が悪くても、気持ちがいいと思います。日の丸のことは気にせず、Let's try ! あるのみです。皆さんのご健闘、心よりお祈りいたしております。

(みなみこういち 埼玉県在住)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年12月号(第17巻 通巻197号)15頁・16頁