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特集/もう1つのオリンピック 日本の3月、パラリンピック。

長野パラリンピック後の障害者スポーツに期待する

これからの知的障害者スポーツ

能村藤一

■ 次なる飛躍への導火線

 長野パラリンピックへの初参加の意義は、極めて大きなものがあります。決定してから1年半の期間しかなく、しかも冬季競技の資料もデータも皆無の状態からの出発でした。
 あと3か月余りを残す現在、参加選手に大きな期待を託すことは無理ですが、外国選手と堂々と渡りあえる段階にまでは到達していると感じています。当初(本年1月)に比べると、技能、精神、体力、記録等の面で、驚くべき変容を見せていますが、惜しむらくはあまりにも準備期間の短いことです。したがって、冬季競技では、4年後のパラリンピックへ大きな期待をかけていると言えます。今回の参加が、知的障害でも冬季競技に十分適応できるという自信を得られたことは、一大収穫であり、この刺激と成果から冬季ゆうあいピックの開催を始めとして、未開発スポーツの導入等への大きな飛躍を期待しています。

■ 参加枠の拡大

 日本の知的障害者の国際大会への参加が認められたのは、1995年のIPC世界陸上競技選手権大会、1997年のアトランタパラリンピック、そして今回の長野パラリンピックの3回です。どれもが初参加でしたが、いずれも競技種目と選手数の参加枠が極めて限定されていました。例えばアトランタパラリンピックでは、陸上競技(200m・走幅跳)、水泳(50m・100m自由型)の4種目であり、選手数は世界から56名の僅少であって、日本としては出場資格の標準記録の壁の厚さから見送らざるを得ませんでした。このように立ち遅れている日本の現状から、国際大会へ参加する意義と波及効果は極めて大きなものがあります。聞くところによると、2000年のシドニーパラリンピックでは、陸上、水泳、卓球、バスケットボール、サッカーの5競技で、選手数は700~800名になるとのことで、非常にうれしく思っています。

■ スポーツに親しみ楽しむ環境づくり

 競技性スポーツの追求は、どうしても特定の一部の選手に限られがちになります。これに対し重要なことは、競技性スポーツの追求を頂点としながらも、平行して多くの障害者を原点とするリハビリテーション、レクリエーションスポーツの普及充実が進められることです。特に、関係者から知的障害者の健康上の問題点として、①体位、体力の劣悪、②老化現象の早期進行、③肥満傾向児者の増加等が指摘されています。障害のない人たちの生涯スポーツが花盛りである現状に照らし、障害者にも日常生活の中で、もっとスポーツに親しみ楽しむ環境づくりを進めて、健康の維持増進をはかることを期待しています。
 ゆうあいピック全国大会(一部の都道府県大会でも)では、少年組(13~19歳)、青年組(20~35歳)、壮年組(36歳以上)に分けて実施されていますが、これは生涯スポーツへのきっかけをつくって、振興につなげていきたいという願いの表れだと言えます。

■ 国内での競技別大会等の開催

 現在、知的障害者の総合大会は、ゆうあいピック全国大会と都道府県別大会に限られていて、競技別全国大会、地域大会、都道府県別大会(一部を除く)はほとんど実施されていません。競技別大会の開催は、スポーツの普及振興、競技レベルの向上等をはかる上で欠かすことのできない要件だと考えます。
 ゆうあいピック全国大会も、今年の10月下旬に開かれた愛知・名古屋大会で6回目を数え、全国からの参加選手数も3000名を超え、年ごとに盛大さを増し、スポーツの祭典と呼ぶにふさわしくなってきています。このように定着しつつある反面、関係者の多くから、大会の運営、競技規則と運営、参加条件等であいまいな点が多く、早晩の改善の必要性が指摘されています。一方では、前述した競技性スポーツの独走のみではなく、リハビリテーション、レクリエーションスポーツと両立する望ましいあり方を求める声も大きくなってきています。スポーツの普及振興のためには、身体障害者スポーツのように、一方では競技別大会の開催を促進しながら、他方ではそれぞれの大会の意義、つながり、運営組織等の面で具体化していくことであると期待しています。

■ 障害者スポーツ組織の一元化

 現在、知的障害者スポーツをとりまとめる全国的な組織はありません。したがって、本稿で知的障害者スポーツが抱える問題や課題等をあげてきましたが、その改善や解決に当たる組織がないことは致命的です。以下、その根拠を述べてみます。
 まず、今まで、いろいろな面で、もっぱら日本身体障害者スポーツ協会(以下、スポ協という)のお世話になっています。スポ協は、組織、活動面等で、長い歴史と輝かしい実績をもち、国内、国際的に素晴らしい成果を収めつつある先駆的な団体です。また、国際パラリンピック委員会(IPC)では、1997年の総会で「今後、全障害を網羅したスポーツを推進する」ことを決議しています。さらに、都道府県・政令指定都市段階では、障害者スポーツ協会の名称に変更して、一本化しているのが、半数を超えています。以上の3点をもとに考えるとき、さらに、今後の障害者スポーツの充実、発展をとらえるとき、障害者スポーツ組織の一元化を早急に進める必要性を痛感しています。同時に、新組織が誕生することによって、障害者スポーツの振興に拍車がかかり、一段と飛躍していくことが期待できます。
 日本で開催される長野パラリンピック後、早急に一元化が果たされる機は熟していると受けとめています。今後さらに、障害者国際スポーツ大会の門戸が解放され、障害者間が同一視されることを期待してやみません。

(のうむらとういち (社)東京都知的障害者スポーツ協会専務理事)

表 長野パラリンピック冬季競技大会 競技日程 略


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年12月号(第17巻 通巻197号)22頁~25頁