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特集/もう1つのオリンピック 日本の3月、パラリンピック。

冬季スポーツの機器について

田中 理

1 はじめに

 冬季パラリンピックで繰り広げられるスポーツには、雪上スポーツと氷上スポーツがあります。
 雪上スポーツは、とりもなおさずスキーに代表され、冬季パラリンピック大会ではアルペンとノルディック競技が実施されています。アルペンには回転(SL)、大回転(GS)の回転系種目と、スーパー大回転(SG)、滑降(DH)のスピード系種目があります。ノルディックはクロスカントリーとバイアスロンの2種目で、ジャンプ競技は行われていません。
 スキーに出場する選手の障害は、視覚障害と肢体不自由に分かれます。肢体不自由では、立って自身の下肢を使って滑るクラスと、座って競技できる専用の器具を使って滑るクラスに分かれます。
 車いすの障害者のスキーは、当然ながら座位で競技することになります。座位で行うスキーの国際的な総称としてはシットスキー(Sit Ski)という言葉が用いられています。
 一方、氷上スポーツは、アイススレッジ(氷上そり)を用いて、座位で競技するもののみが用意されています。競技種目としては、いわゆるスピードスケートにあたるスレッジレーシングと、いわゆるアイスホッケーにあたるスレッジホッケーがあります。
 ここでは、冬季パラリンピックで使用されるスポーツ器具について、その概要を解説したいと思います。下肢を使って競技する障害者が使用する器具は、アルペン競技でバランス保持のために使用するアウトリガーを除いて、一般に利用される器具が使われますので、ここでは座位で競技する器具について紹介することにします。

2 雪上スポーツ

①アルペンシットスキー(写真1 チェアスキー(アルペンシットスキー) 略)

 車いすの障害者の冬季スポーツの代表的存在で、日本ではチェアスキーという言葉で知られています。
 冬季パラリンピックの正式種目に採用されたのは比較的新しく、第4回冬季パラリンピック(1988年、オーストリア、インスブルック)から回転と大回転の2種目が、第5回冬季パラリンピック(1992年、フランス、アルベールビル・ティーニュ)からスーパー大回転と滑降の2種目が加わり、4種目の競技が正式に行われるようになりました。
 用具に関する規則は、用具自体が発展・開発途上であることもあってか、まだ何も定められていませんが、使用する器具の特徴として、1本スキーに衝撃吸収機構を介して座席を取りつけたものが一般的に用いられています。競技者は自身のバランス保持のために、両手にアウトリガーを持って滑走します。競技者のスキー技術もさることながら、器具の性能が競技の勝敗に大きく作用するところが、現在のアルペンシットスキーの1つの特徴といえましょう。今後は、器具の細部にわたっての構造や安全対策などについてのルール化が問題視されてくるかもしれません。
 競技規則は、基本的にはFIS(Federation Internationale de Ski : 国際スキー連盟)の規則が採用され、パラリンピックのアルペン各競技種目のコースおよび旗門設定条件は、いずれもノーマルスキーに近い本格的なものになっています。例えば滑降競技のシットスキーの最高時速は100kmを超える記録が出ています。
 障害クラス分けは、2クラス制(LW10、11)と3クラス制(LWX、XⅠ、XⅡ)が併用されており、大会ごとに参加者数によってどちらかが採用されます。

②クロスカントリーシットスキー(写真2 クロスカントリースキー 略)

 クロスカントリーシットスキーは既に器具規則が定められています。2本のクロスカントリー用スキー板の上に座席が固定され、座席の地上高30cm以上、両スキー間距離16cmと決められています。競技者は両手にストックを持ち、雪面を突いてスキーを推進させます。
 コースガイドラインとして、単調さを避けるためできるだけ自然に近い形で起伏部分を設けること、森林地帯を利用すること、スピードの出やすい箇所や凍っている箇所は危険が生じないように設けること、ストックの操作と追越し動作がゆとりをもってできる幅をもつことなどが定められ、これを基にしたコース基準がさらに詳細に定められています。
 クロスカントリースキーは距離で種目が定められています。シットスキーには、2.5km(女子)、5km(男子、女子)、10km(男子、女子)、15km(男子)が用意されています。このほか、男子には3×2.5kmのリレーが用意されています。走法として、クラシカル走法とフリー走法がありますが、当然のことながらシットスキーにその区別はありません。
 障害クラス分けは、2クラス制(LW10、11)と3クラス制(LW10、11、12)がありますが、競技者数が少ない場合はパーセンテージ制が導入されて1クラスで競技が実施されることもあります。

③バイアスロン(写真3 バイアスロン 略)

 バイアスロンは、クロスカントリースキーと射撃が組み合わさった複合的なスポーツであり、シットスキーにも門戸が開かれています。
 競技は、7.5kmの距離をフリー走法で行うクロスカントリースキーの中に2度の射撃が組み込まれており、所要合計タイムで競われます。射撃は、射撃距離10m、直径30mmの黒円標的をうつ伏せの姿勢になり、ライフルで1度につき5回ずつ射撃します。射撃ミスとして、1標的につき1分ずつ(視覚障害のクラスは30秒)が合計タイムに加算されます。

3 氷上スポーツ

①スレッジホッケー(写真4 スレッジホッケー 略)

 スレッジホッケーは、アイススレッジを用いたアイスホッケー競技です。1960年代のはじめにスウェーデンで開発され、各地に広まりました。
 アイススレッジの基本構造は、パイプフレームで組んだ座席の後方下部に2本のスケートブレードが取り付けられた簡単なものです。障害の程度に応じてバックレストやシートクッションが使用され、身体をスレッジ本体にベルトで固定して競技します。両手にスティックを持ってプレイします。
 スティックには、パックを打つブレードと氷面を突いて推進するアイスピックがそれぞれ両端に装備されています。ゴールキーパー用にはブレードが大きい特別のスティックが用意されています。
 競技場は標準的なアイスホッケーリンクが使用され、ルールも一般のアイスホッケーと同様で、15分3セットで行われます。
 スレッジホッケーでは、各選手の身体機能によって3つのグループにクラス分けされます。クラス分けによって選手に割り当てられるポイントは、IPC(International Paralympic Committee : 国際パラリンピック委員会)のクラス分けテストによると、LWXが1点、XⅠが2点、XⅡが3点となっています。ゴールキーパーを含む氷上のチーム構成員6名の最大割り当てポイントは15点です。1994年の第6回冬季パラリンピック(ノルウェー、リレハンメル)では、このポイント制は初参加国への配慮から採用されませんでした。

②スレッジレーシング(写真5 スレッジレーシング 略)

 スレッジレーシングは400mのトラックで行われるアイススレッジのスピード競技です。使用されるスティックはスレッジホッケーとは異なり、一端がグリップ、もう一端がアイスピックの付いた、目の高さを超えない程度の長いものが使用されます。
 障害クラス分けは、LW10とLW11の2クラス制となっており、リレハンメル大会では、次の種目が実施されました。
LW10(男女) : 100m、500m、700m、1000m
LW11(男子) : 100m、500m、1000m、1500m
LW11(女子) : 100m、500m、700m、1000m
 また、各クラスごとに4種目通算の合計得点を競う複合競技も行われています。
 アイススレッジを用いる競技は、上肢でスティックを用いて推進し方向を定める必要がありますので、上肢に重度な障害がある人には困難な種目かもしれません。しかし、レクリエーションでは、用具を工夫することによって十分可能と思われます。

4 おわりに

 冬季パラリンピックで使用されているスポーツ器具のうち、とりわけ座位で行われる器具について、競技内容を含めて概要を紹介しました。アルペンシットスキーのチェアスキー以外の座位で行うスポーツは、長野大会が日本での普及のきっかけづくりになっているようです。長野が、障害者の冬季スポーツを大きく花開かせることを期待してやみません。

(たなかおさむ 横浜市総合リハビリテーションセンター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年12月号(第17巻 通巻197号)30頁~33頁