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1000字提言

可能性発見の旅路 ―1―

寺谷隆子

 生かしあう自分発見の感動

 実習先で精神に障害がある人の存在を知り、惹かれるように精神病院でソーシャルワーカーとして働き、仲間を募って地域支援団体JHC板橋を結成、在宅福祉サービスの担い手として可能性発揮に挑戦する4か所目の作業所開設を契機に、22年間在職した精神病院を退職しました。
 JHC板橋設立は1983年ですが、折からの国際障害者年の提唱するノーマライゼーションの波の音が響くなかで、人々の可能性の発見と生かす機会を創りだし、だれもが暮らしやすいまちづくり(Cosmos 調和)をめざし、支えあって共に(Joint 共に)歩んできました。
 精神障害者の可能性の発揮を、「だれもが地域の一員としてかかわれる場」としての作業所づくりに求めてきました。
 作業所の在宅給食サービス、老人福祉施設へおやつのケーキ・軽食喫茶のサービス、清掃、洗濯などの家事援助、情報誌発行や文化教養講座などを通した地域住民との日常的な交流は、感謝のシャワーを存分に浴びる機会になりました。
 病院勤務時代に、同じ人間、同じ年齢、同じ女性、自分とどこが違うの? という素朴な疑問。ストレスに過敏で素直さ、やさしさ、真面目さに優るという障害の共通点に、さんざん母親を嘆かせてきた自分のはずかしさが募ってきました。さらに、逆境にあってもなお自らの可能性を求め、よりよく生きようという希望を失わない人々、一緒に年齢を重ねてきた人々の可能性を発見し生かす喜びは、私自身の可能性が引き出され生かされるという感動の贈り物を頂くことにもなりました。
 精神に障害をもつ人々の福祉のニードは、人間としての尊厳を十分に尊重されたいという、私となんら変わらないものであり、自分の可能性を存分に発揮して社会の一員として人生を送りたいだけなのです。地域の一員として活動し社会に参加していくという当たり前の希望は、同じ地域の一員としての私と共通の関心と問題でもあるのです。
 お互いが力を借りあって、生かしあっていくこと、そうした支援活動が地域の人々や本人の共同参加によって行われること、そこに人々の共通の基本的社会生活のニードに対応する福祉の実現があるといえましょう。

(てらたにたかこ 社会福祉法人ジェイ・エイチ・シイ板橋会理事長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年12月号(第17巻 通巻197号)39頁