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特集/豊かな生活をもとめて

タックルが魅力 迫力あるウィルチェアーラグビー

薄マキ子

 ウィルチェアーラグビー(別称クアド・ラグビー)、ちょっと聞き慣れない言葉の上に、車いすに乗ってラグビーをする…となると、イメージが湧きにくい方が多いのではないでしょうか。実際、私も自分の目でこのスポーツを見てみるまで、どういうふうにするんだろうと、興味津々で取材しました。
 四肢マヒ者(頸髄損傷者等)によりカナダで考案されたこのスポーツ、日本では一昨年の11月にようやく始まったばかり。激しいタックル(車いす同士のぶつかり合い)とスピード感あふれるプレー、そしてチームワークが要求される迫力あるスポーツ、ウィルチェアーラグビーを紹介しましょう。

1 ウィルチェアーラグビーの始まり

 1977年、四肢マヒ者(主に頸髄損傷者)によりカナダで考案されたこのスポーツは、1977年にカナダで初めての国内大会が行われ、1981年にアメリカに紹介された後に、クアド・ラグビーという名称で親しまれるようになりました。
 このスポーツのルールはバスケットボールとアイスホッケーですが、バレーボールやラグビーの要素も含まれていて、当初はその攻撃的な性格からムーダー(殺人)ボールとも呼ばれていました。それは唯一、車いすによるタックルが認められていることによります。1990年には、イギリスの国際ストークマンデビル車いす競技(WSMWG)のプログラムに加えられ、1993年には公式の国際的車いすスポーツとして、WSMWGへの標準のイベントに加えられることが認められました。
 1996年のアトランタ・パラリンピックでは、デモンストレーション競技として初登場、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イギリス、スウェーデン、オーストラリアの6か国により競技が行われました。決勝戦はアメリカとカナダの戦いになり、アメリカが金メダルに輝きました。
 2000年のシドニー・パラリンピックでは、正式種目になることが決定し、ウィルチェアーラグビーは誕生から20年の間に国際的なスポーツとして発展するまでになりました。

2 日本ウィルチェアーラグビー連盟の発足

 日本では、シドニー・パラリンピックにウィルチェアーラグビーが正式種目として決定されたことから、1996年10月、アクティブジャパン誌(障害者のスポーツ誌)元編集長山崎泰広氏の声かけで、国内での普及、定着をめざして連盟設立準備委員会を発足させ、96年11月より活動を開始し、各地で講習会や練習会を行ってきました。
 昨年7月のオーストラリア遠征でキャプテンを務めた東條克之さんは、5年前仲間と一緒にアメリカへ渡り、ウィルチェアーラグビーの魅力に触れて、何とか日本に紹介しようと思いましたが、時期尚早で、ようやく日本で活動が始まった時、この日を待ちわびて何より喜んだ一人でした。
 昨年4月1日には、正式に日本クアド・ラグビー連盟(10月1日に日本ウィルチェアーラグビー連盟に名称変更)を設立し、現在は練習、講習会の開催と並行して海外からも多くの情報を入手し、国内各地への情報伝達にも努めています。また、五月には全米選手権2年連続優勝のアメリカクラブチームによる講習会をかねての交流試合を横浜と大阪で開催し、ウィルチェアーラグビーのおもしろさを大勢の人に知ってもらういい機会になりました。本場強豪チームの強さを思い知らされると同時に、日本選手の奮起を大いに盛りあげてくれるものとなりました。

3 競技内容(ルール)

 コートはバスケットボール用のコートを使用します(図)。1チーム4人で2チームにより競技を行います。1チームは補欠を含み12人の選手で構成され、選手は、障害のレベル(車いすの操作やボールを扱う能力によって、事前に個人のレベルは診断され登録されている)により0.5点から3.5点までの7段階で分類され、通常の競技ではコート上の4選手の持ち点の合計が8.0点を超えることはできません。最近ではより重度のレベルの障害者でも参加できるように、合計3.5点までのローポインターズゲームが考案されており、日本でも積極的に取り組んでいく予定です。

図 ウィルチェアーラグビーコート

図 ウィルチェアーラグビーコート

 ボールは公認バレーボール5号球が使われ、蹴ることを除いてはパスやドリブル、転がしたりして、相手方のゴールラインまでボールを運びます。パスは通常のラグビーとは異なり、攻撃する方向(前方)へのパスも可能です。ゴールは、ボールを持った選手の車いすの前・後輪4輪のうち2輪が相手方のゴールライン上にあるか、通過していれば得点(1点)になります。
 競技時間は1ピリオド8分間で4ピリオド行われます。第1と第3ピリオド終了後には1分間の休憩、第2ピリオド終了後には5分間の休憩があります。

4 タックルが魅力

 しかし、このスポーツの魅力は何といっても激しいタックルにあります。選手のみなさんも、みな口をそろえてこの点を強調しました。車いす同士がぶつかりあって、相手の動きを阻止するわけですから、その時の衝撃音は「ガシャ」と、ものすごい音がして、その衝撃で車いすが持ち上がったり、傾いたり、ひっくり返ったりすることもあります。
 10月下旬、国立身体障害者リハビリテーションセンターの並木祭でデモンストレーションが行われました。一般の観客も多く、タックルすると、思わず観客席から「オオー」と歓声が上がりました。
 このように、ウエイトもものをいうスポーツなので、体力づくりは欠かせません。実際、現在30名程いるメンバーの中には、車いすバスケットや陸上競技などの選手も多く、基礎体力が要求されるため、自宅でもウエイトトレーニングに取り組まれている方もいます。
 車いすは、ウィルチェアーラグビー専用の車いすが使用されます。オフェンス用、ディフェンス用とオフェンス・ディフェンスの兼用があり、バンパーの形状やウイングの取り付けなどが異なり、それらによって勝敗が左右することがあります。

5 連盟としての今後の活動

 今後、連盟では各地での講習会を中心とした普及活動に今まで以上に力を入れ、より多くの四肢マヒ者にウィルチェアーラグビーの楽しさを知っていただこうと計画中です。それと共に、パラリンピックや世界選手権などの国際大会出場をめざし、日本のウィルチェアーラグビーのレベルアップを図っていく予定です。
 また、連盟では選手の募集はもちろん、連盟の活動を支援していただけるスポンサーやボランティア、サポーターを広く募集しています。
 ウィルチェアーラグビーに興味をもたれた方、ぜひご連絡ください。

(すすきまきこ 日本障害者リハビリテーション協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年1月号(第18巻 通巻198号)16頁~19頁