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1000字提言

ユニバーサルデザインをめざして

―家電製品のデザインの現場から―

柳田宏治

 家電製品のデザインの分野では、最近「ユニバーサルデザイン」という考え方が大変注目されています。これは、障害者をはじめこれまで家電製品を使いづらいと感じることが多かった人々にも、より使いやすいデザインにすることで、できる限り幅広い人々に公平な満足を提供しようというものです。個々の障害者のニーズに合わせた専用品の開発も不可欠なものですが、一般の家電製品が障害者をはじめ幅広い人々のニーズに適応できるようになることは、家族や友人と共に使えること、一般的な流通で扱われ購入がしやすいこと、価格が特別なものにならないことなどの利点を生みます。
 ユニバーサルデザインによって、障害者のニーズはどの製品のデザインにおいても考えるべき課題となります。これまでは自分の仕事とはあまり関係がないと考えていた多くのデザイナーにも、障害者のニーズへの取り組みが求められるわけです。このすべてのデザイナーを引き込んでいくことが、ユニバーサルデザインの優れたところです。そもそも家電製品に限らず道具のデザインとは、道具を人のニーズに如何に合わせるかを考えることであり、人が奮闘して道具に合わせることがないようにすることです。ユニバーサルデザインはこのデザインの本質そのものであるため、デザイナーには非常に好意的に支持されており、基本姿勢として定着していきそうです。
 ユニバーサルデザインの開発には、多様な人々のニーズを理解することが最も重要です。擬似体験もその手法の1つで、最近はブームのような感がありますが、これだけに頼ることには問題がありそうです。その時だけ目を覆っても、それは視覚障害者の日常生活の実感とはかけ離れており、また手足に重りをつけても加齢によって機能低下した状態とは大きなずれがあるでしょう。それよりも、障害者や高齢者に直接話を聞くことのほうが、より現実的で具体的な情報が得られるはずです。ユニバーサルデザインの開発には、実際に製品を使用する多様な人々にデザインのプロセスへの参加を願う「共創」のしくみづくりが鍵になります。
 近年、家電製品のデザインでも社会的なテーマが重要視されてきています。「多様な人々の公平」を考えるユニバーサルデザインは、地球環境問題について持続可能性という「世代間の公平」を考えるサステイナブルデザインと併せて、今後の2大潮流となるものだと考えています。

(やなぎだこうじ 三洋電機株式会社総合デザイン部チーフデザイナー)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年1月号(第18巻 通巻198号)45頁