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海外自立生活新事情

カリフォルニア大学バークレー校障害者学生サポートセンターは今

―障害者の高等教育機会の平等を考える―

定藤丈弘

 私が留学していたカリフォルニア大学バークレー校は、障害者の自立生活運動の先駆者である故エド・ロバーツの母校であり、彼が仲間とともにその創設に関与した有名な障害者学生サポートセンター(Disabled Students Program :DSP)が今でも運営されている。同校を卒業後、地域に出たエドは、バークレー自立生活センターの創設をはじめ、自立生活運動の全米リーダーとして活躍したのである。
 障害をもつアメリカ人法(ADA)は、社会のあらゆる領域における障害者の機会平等の実現を目標に制定されたが、すでに1960年代にDSPを開設したバークレー校は障害者の高等教育機会の平等の実現のための全米のモデル校の1つとして評価されている。本シリーズを終えるに当たって、今回はバークレー校のDSPの今日的状況を紹介するとともに、このシステムに学びながら、わが国における障害者の高等教育機会の平等を推進する際の課題について考えてみたい。

障害者学生の受け入れ状況

 バークレー校は他のカリフォルニア大学系列校と同様に多くの障害者学生を受け入れている。表は1995~96年のバークレー校のDSPに登録している障害者学生の数を表している。筆者が前回留学していた年の前年度である1986~87年には、413名の障害者学生が登録していた。最近の1995~96年は838名だから、10年間で倍増している。全学生数は約2万1000名だから、障害者学生の全学生中の割合は約4%、25名中1名が何らかの障害をもつ学生である。

表 カリフォルニア大学バークレー校における障害者学生の内訳
(1995~96年)
障害種別 障害固定者 一時的障害者 全体数
学部生 大学院生 学部生 大学院生
身体障害者の全体数 214 68 46 15 343
 視覚障害者 17 6 2 0 25
 移動能力障害者 70 22 17 6 115
 その他の機能上の障害者 119 40 27 9 195
 後天的脳障害者 8 0 0 0 8
コミュニケーション障害者の全体数 17 3 0 0 20
 言語障害者 2 0 0 0 2
 聴覚障害者 15 3 0 0 18
学習障害者 436 39 0 0 475
障害者の小計 667 110 46 15

838

全障害者数

777

61

 バークレー校の特徴の1つは、一時的障害よりも永久に固定した障害をもつ学生(777名、92.7%)が圧倒的に多いことや、特に重度の障害者学生が多く在籍していることである。例えば視覚障害者でも強度の弱視や全盲者が多いし、聴覚障害者でも強度の難聴者やろう者も多い。移動能力上の障害者の中でも車いす利用者も多く、それも単に下肢マヒだけではなく、介助の必要な四肢マヒ障害者が多く存在している。
 最近の顕著な特徴はいわゆる学習障害者の激増であり、475名もいて、全障害者学生中の約57%を占めている。ここでの学習障害者は、知能面での制約はないが、脳の何らかの機能上の制約により、部分的に計算が困難であったり、文字が読めなかったりなどの学習上の障害をもつ学生である。
 このように障害者学生は、重度の障害をもつ学生が多く、しかもほとんどの学生が親もとを離れた自立障害者であることも注目すべき事実であるが、それら障害者学生の専攻課程が実に多様であることも特筆に値する。わが国では、「実験、実習などに支障の生じる障害者学生は実験などがウエイトを占める学科では不合格とする場合もある」という「不合格規定」が大学によっては未だに存在し、特に理工系の学科での障害者の入学制限が推測されている。
 これに対してバークレー校では理工系も含む多様な専攻課程で多くの学生が学んでいる。例えば経営管理学、化学、環境工学、工学、公衆衛生学、コンピュータサイエンス、生物工学、法律学等々、多岐に渡っている。10年前でさえ、当時7名いた全盲学生の専攻内訳は、コンピュータサイエンス、生物物理学、統計学、社会福祉学、生物化学などで、むしろ理工系のほうが多かった。特定の障害だけを理由とした入学拒否は教育の機会平等に反する差別として禁じられており、理工系でも多様な障害者学生の受け入れ努力が着実になされていたのである。

DSPの提供する支援サービス

 DSPでは多数の障害者学生の学生生活を支えるために、障害の種別や状況に応じたきめの細かい配慮、サービスを多様に用意し、供給している。その詳細はすでに10年前に本誌で紹介しているので、ここでは若干の概要について紹介しておきたい。DSPの支援サービスは大きく2種類に区分される。
 その1つは一般的な支援サービスである。これには、入学前の申し込み手続きの情報提供や、入学に伴う特別な援助、大学直営の寮、学生協同組合のアパート、地域の住宅などへの紹介・斡旋といった住宅サービス、講義や試験などの際の必要な配慮を内容とする学業上の援助、連邦政府、州、郡などから供給される所得保障、福祉サービス、医療保障などの財政的給付の活用を支援するサービスがある。また、学業上の援助として、ノート・テイカーや朗読者、手話通訳者、実験補助者などの供給を行ったり、図書館利用に伴うサービスといった補助的援助があげられる。
 もう1つは専門的サービスである。このサービスは特別な障害をもつ学生のニーズに対応するものである。それには、介助の必要な学生に対する介助者ケアの斡旋を行う介助者照会や、聴覚に障害をもつ学生に対するコミュニケーションの円滑化を図るための諸サービス、視覚障害者学生を対象に、その移動上のサポートや学業上の補助機器類の活用といったサービスがある。また、種々の学習障害者に対して個別の能力条件に応じた学業上の諸配慮を行う学習障害者対策、および介助の必要な重度者の自立生活への移行をサポートする居住プログラムが含まれている。
 これら以外にも、障害者学生の職業相談、雇用上の情報提供などを行う職業紹介事業、また、スポーツやレクリエーションを促進するサービス・プログラムなどが用意されている。
 なお、従来は学内の移送サービスや、車いす修理などさまざまな改造援助をする整備工場部門があったが、状況の変化により今日では廃止されていた。居住サービス部門も一部機能が縮小されている。

障害者学生受け入れの進展要因

(1) 一般的な要因

 障害者学生の受け入れが進んでいる要因の1つは、リハビリテーション法504条項で、大学における障害を理由とした受け入れの拒否を差別として法的に禁止されているからである。
 筆者が最も印象に残った出来事の1つに、実験の多い生物物理学の博士号を取得した全盲の学生との出会いがあった。彼が受け入れられたのは、その大学院に入学できる条件をクリアしていたことを前提に、視覚障害を理由にした受け入れ拒否が差別として禁止されていたこと、また、生物物理学科で実際に学びえたのは朗読サービスや実験補助者などが公費で利用できたこと、逆にいえば朗読サービスなどの必要な配慮を怠ることが全盲学生が生物物理学科で平等に学ぶ機会を損なうことになるという理由で差別として禁止されているからである。
 第2は具体的な受け入れ条件の整備がなされていることである。まず、バークレー校のキャンパスは建物のほとんどにスロープがつけられ、エレベーターも設置されているなど、アクセシブルな環境整備がなされている。公的な経済的援助システムも確立している。親・家族の経済条件とは無関係に受給資格条件をみたせば、生活保護制度にあたるSSIが支給され、多くの障害者学生がこれを受給して学業への専念を可能にしている。介助の必要な重度障害者には州の介助手当制度であるIHSSが支給され、それにより有料介助者を日常的に確保している。介助の必要な重度障害者が親もとから独立して大学で学びえているのは、同手当の活用を前提に大学寮に援助スタッフが常駐する居住サービスや介助者ケアの照会サービスが提供されているからである。
 聴覚障害者には学業上の手話通訳者やノート・テイクサービスが提供され、視覚障害者には朗読サービスや視覚障害者学習センターに設置されたさまざまな補助機器の利用が保障されている。学習障害者には学業上の不利を補うための個別的な学習援助がなされる、といったきめの細かい学業上の補助的サービスなどの整備により彼らの大学への参加を促進しているのである。
 初等・中等教育における統合教育の浸透も要因の1つといえる。統合教育を原則とする全障害児教育法の成立を1つの契機に、次第に地域の普通校への入学の道が開かれ、障害児が地域の普通高校で、基礎学力を向上させて大学に入学する機会も高まってきたのである。

(2) 大学入試システムにおける機会の平等化

 米国、特にカリフォルニア州の大学入学試験のシステムも、機会平等理念を取り入れており、進展要因の1つにあげられる。大学の入学資格の判定は、わが国のように、一律のペーパー・テストによる得点如何だけでなされるのではない。学業成績も、一定のウエイトをもつが、それに加えてこれまでの課外活動・社会的キャリア(例えば、コミュニティでのボランティア活動とか自治会やクラブ活動)の程度を考慮したり、あるいはスポーツ、芸術活動などで人並み以上の能力をもつか、逆にマイノリティ、低所得者層、および障害などのゆえに学業上の社会的不利条件をもっていることなども、大学入学資格の考慮条件の1つに含まれる。
 例えば、1988年になされた野口道彦氏の調査によれば、バークレー校を志望する場合、基本的にはカリフォルニア大学系列9校が共通に定める一定の学力水準に到達する必要性があり、これを充足している者を入学資格者という。この学力は、高校の成績と標準学力テストとを統合して出された学力指標得点(AIS)で判定される。そこで、多くの志願者から、まず1つは学力本位でAISの得点の高い順序で、定数の選抜が行われる。
 同時に、もう1つは多様な能力をもつ学生を集めるための選別がなされる。この選考方法によって、黒人、ヒスパニック系といったマイノリティ集団の入学資格者と同様に、身体的、または、学習上の障害をもった入学資格者はDSPの職員によってそれらの障害に対する受け入れ施設や条件が整っていると判断されれば、一定の範囲内で優先的に入学が許可されるのである。
 このような選考基準が用いられるのは、1つには大学が、多様なキャリアの階層や、マイノリティ、低所得者層、障害などのゆえに教育上の社会的ハンディを負った学習意欲のある人たちに教育の機会を平等に提供することを社会的使命として位置づけているからである。
 このように、学業成績はもちろん重視されるとはいえ、それ以外の多様な能力、可能性を入学資格の考慮条件に含んでいる入学判定システムの採用が、障害者学生の大学入学機会を増加させる一定の要因となっていることは明らかである。

わが国における課題

 終わりに、わが国の状況について若干言及すると、最近では、障害者の大学教育はわが国なりの進展をみせているのは確かである。入学資格判定がほとんどペーパーテストの得点で左右されるわが国では、入学試験における障害に伴う不利を補うための諸配慮は全国レベルでは進展している。そして、この10年で受け入れ数や受け入れ状況がさらに進展していることは確かである。
 とはいえ、アメリカ、特にカリフォルニア大学系列校、バークレー校などの教育状況と比較すれば、その格差はあまりに大きい。何よりも障害者学生の進学者の絶対数のあまりの少なさ、就学上の機材や援助などの教育サービスのたち遅れ、介助が必要な重度障害者学生の家族責任への依存度の高さ、障害者問題に対する組織的な取り組みさえ全くない大学の存在など、とても対等な比較は困難である。同じ先進自由主義経済国で障害者の比率もそんな大きな差がないという状況を考慮すると、わが国における障害者学生に対する大学教育の受け入れ状況の遅滞現象は深刻な事態であるといってもよい。障害者学生の大学進学率の低さということ自体が、わが国の中等・高等教育などの教育システムのあり方に1つの重要な問題提起をしている、とみることもできるのである。
 このような状況を打開するために、わが国でも障害者学生サポートセンターを少しでも多く設置していくことが大切な課題の1つである。そしてそのためにも障害者学生の進学者の絶対数を一層増加させることが急務の課題といえる。わが国でも障害児の教育機会の平等化に対する国民世論の支持は高まっているのである。
 障害者学生の進学率を高める方策の1つとして、大学入試における障害者学生枠の設置(一定水準の学力を前提とした)を検討することがあげられる。一般推薦入試や社会人入学制度などの一環に障害者学生枠を設置することは十分可能と思われる。本稿の最後に、その設置の根拠をいくつか指摘しておきたい。

〔大学入試における障害者学生枠創設の主旨〕

① 重い障害をもつことによって、障害をもたない生徒に比べて学習上のハンディが生じることにより、重い障害をもつ生徒の高等教育機会の不平等は生じている。そこで、障害者学生枠を設けることにより、高等教育機会の平等化を図る。
 米国に代表されるような先進国においては、このような障害をもつ生徒の高等教育機会の平等化を促進するため(障害を理由とした教育上の差別を改善するため)、事実上一定の障害者学生枠を設けており、その結果わが国に比べれば障害をもつ生徒の高等教育機会への参加ははるかに増加している。
 
② さらに、今日のわが国の中等教育においては、重い障害をもつ生徒は普通高校での教育機会を制限されており、その結果高等教育に参加しうるだけの学力の獲得を、障害をもたない生徒に比べれば制限される傾向にある。このような教育機会の不平等を是正するためにも、高等教育の入試において障害者学生枠を設ける積極的意義がある。
 
③ わが国においても最近になって、多様な能力をもつ学生を高等教育の場において受け入れる傾向が増大している。帰国子女や外国人留学生、社会人入学などに加えて、さまざまな領域で一芸に秀でた能力をもつ学生枠を設けるなどして、それぞれの大学の状況に応じて多様な学生の受け入れを行っている。障害者学生枠も、そのような入学選抜方式の1つとして位置づけられる。
 
④ 1990年代になって、神奈川県、大阪府、兵庫県をはじめ多くの都府県では、福祉のまちづくり条例があいついで制定され、教育施設も条例対象となり、障害者の社会参加機会の平等化の促進を環境設備面から支えようとする動きが高まっている。
 1993年1月の中央心身障害者対策協議会意見具申での、障害者の高等教育機会の平等化の促進の提唱に代表されるように、国も障害者の高等教育機会の平等化を促進することや、そのために必要な配慮を充実させることの必要性を特に強調している。わが国では四国学院大学を除けば、障害者学生に一定の入学枠をはっきり設けている大学はほとんどない状態であり、その早急な創設が高等教育機会の平等化のための課題といえよう。

終わりに

 カリフォルニア州は1996年11月の大統領選挙当日、住民投票提案209を成立させた。本シリーズの第4回で紹介したように、これは機会平等権の根幹をなす、アファマティブ・アクション(積極的差別解消施策)を同州では廃止するとしたものである。もちろんその反対運動も強く、209の違憲性への訴訟がなされ、クリントン政権も違憲の疑いが強いとの表明をしていたが、1997年11月に連邦最高裁判所は209は違憲とはいえないとの判決を行った。
 これにより209が執行されると、カリフォルニア大学は人種別マイノリティ等の優先入学枠を廃止(縮小)するなどの機会平等的入試システムの変更を行うことも推測される。しかし209は直接的には人種や性別などの積極的差別禁止規定の廃止を目指すものであり、障害者の機会平等権に直接影響を及ぼすものではないし、したがって大学の障害者入学枠は継続されよう。また、209自体は機会平等権を否定する保守的な政策であり、人権政策に逆行するものであることを重ねて指摘しておきたい。

(さだとうたけひろ 大阪府立大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年1月号(第18巻 通巻198号)52頁~57頁