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列島縦断ネットワーキング

神奈川・「湘南ふくしネットワーク」の活動

―地域ネットワーク型オンブズマンの試み―

上田晴男

なぜネットワークか

 1997年5月に、神奈川県茅ヶ崎市などの「湘南エリア」に福祉施設利用者の権利擁護を目的とした新たなネットワーク組織が生まれました。
 きっかけは、96年夏の障害人権弁護団(東京)主催のスウェーデン視察に参加したメンバーの中で、日本のオンブズマン制度の課題が話し合われたことです。その後、湘南地域のいくつかの施設に呼び掛け、96年11月よりネットワーク型オンブズマンの学習会が始まりました。その中で次のような基本的なことが話し合われ確認されました。

① 福祉施設の現状や構造から、利用者の権利擁護機関としてオンブズマン制度が必要なこと。
② 施設単独型のオンブズマンは、客観性や社会性が弱く、自己完結的になる要素があること。
③ また単独型では施設長の諮問機関という位置付けであり、職員への査定・管理的側面のみが強調されたり、オンブズマンの選任方法や運営についても利用者に誤解を招く恐れがあること。
④ オンブズマンの必要性は感じていても、施設単独では財政的にも人材を確保する点でも難しいこと。
⑤ 活動内容としては、受け身的でマイナス面の指摘が集中する「苦情処理」だけでなく、積極的なサービス評価、職員や家族への啓蒙的な役割、さらには地域や行政に対しての提言などを行うことを考える。

 これらの内容を受けて設立されたのが「湘南ふくしネットワーク」です。

精力的な活動と漂う緊張感

 97年6月に第1回のオンブズマン会議が行われ、当面の活動スケジュールや方法などが話し合われました。その中でも、オンブズマンの方々の並々ならぬ意欲と決意が感じられました。
 7月には別掲のオンブズマン活動宣言が発表され、8月にはオンブズマン全員による加入施設の訪問が行われました。そして9月からは各担当オンブズマンによる施設への活動が開始され、状況把握のために施設に泊まり込んだり、「協力員」(各施設の職員によるオンブズマンの窓口でありコーディネーター)との打ち合わせや、利用者の相談対応などが精力的に行われました。
 こうした展開は、運営委員でもある加入施設の各施設長たちの予想をはるかに上回るものでした。職員を含め各施設では、担当オンブズマンと和やかながらも緊張感漂う関係が生まれています。
 97年10月現在の活動状況では、まだ相談の数も少なく目立った動きもありません。一方、オンブズマンの施設訪問の感想などでは率直な意見が多くみられ、厳しい評価と共に施設側の努力も認め、実践を支えていこうとする姿勢が見えました。

広がる権利擁護の動き

 「湘南ふくしネットワーク」のオンブズマンがマスコミに取り上げられる中で、全国から励ましや相談、問い合わせなどがありました。その中で、福祉サービスの利用者が人権に関わるさまざまな問題を抱えていることや、各地で権利擁護の取り組みが確実に進行していることなどを改めて確認することができました。
 来年度は、さらに多くの施設会員の加入が予想されています。しかし「湘南ふくしネットワーク」では、組織を拡大することが目的ではなく、むしろ限定した地域エリアの中で、在宅サービスを受けている人たちを含めて、「地域の権利擁護機関」としての役割を目指そうとしています。

(うえだはるお 社会福祉法人翔の会福祉総合援助施設「空と海」総合施設長)

資料

湘南ふくしネットワーク
オンブズマン活動宣言

◆前文◆

 私たちオンブズマンは、施設や地域において、福祉のサービスを利用または必要とする人たち(以下、「利用者の人たち」という)の権利を守り、その人が決めた、その人らしい生活を実現するために活動します。
 私たちは、利用者の人たちの意見に耳を傾け、それらの人たちがかかえている問題に対し、一所懸命に取り組み、アイディアを出し合い、もてるだけの力を集めて、利用者の権利を守り、その人らしい生活の実現のために役立ちたいと思います。そのためにはぜひ、まわりにいる人たちにも協力をしていただくことが必要になります。
 ただし私たちは、あくまでも利用者の人たちの権利を守ることを第一に考えています。このような立場をとりますから、活動のなかで、ときには利用者の人たちのまわりにいる人、たとえば、施設を経営する人や施設で働く人、あるいは役所の人などと対立することがあるかもしれません。
 しかし、そのようなときでも私たちは、何よりも利用者の人たちの権利を守り、かつ実現することを第一に考えたいと思っています。それは決してまわりの人たちと対立することを好んだり、批判することを目的としているのではありません。
 私たちは、いろいろな立場の人と正面から向き合って、真剣に話し合い、協力しあっていきたいと考えます。あるときには意見を異にしながらも、利用者の人たちの声に耳を傾け、一人ひとりの声を実現するために全力を注ぎます。
 そして一人ひとりの声の実現をその人だけのものとするのではなく、この活動を通して、まず私たちの住む湘南、そして神奈川県の人々の幸福を実現したいと思っています。さらにこのような活動の輪を広げ、福祉社会の構築に役立ちたいと願っています。

◆宣言◆

1.私たちオンブズマンは、「権利」とは「その人らしく生きるために欠かせないもの」ととらえ、これを守り、かつ実現するために活動します。
2.私たちオンブズマンは、「権利」を奪うこと、特に体罰、虐待、拘束などを絶対に許しません。
3.私たちオンブズマンは、その人自身が決めたことを尊重し、秘密を守り、最善の利益のために活動します。
4.私たちオンブズマンは、一人一人が市民として地域社会で共に暮らせるように、社会のあり方を変えることに努めます。
5.私たちオンブズマンは、利用者の人たち、まわりにいる人たち、地域のあらゆる人たちと協力し、福祉社会の実現をめざします。

 1997年7月1日

湘南ふくしネットワークオンブズマン


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年1月号(第18巻 通巻198号)60頁~62頁