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各国のセルフヘルプグループ

セルフヘルプグループの役割

中田智恵海

▼セルフヘルプグループとは

 自助グループ・当事者組織・本人の会などともいわれ、病気、障害、依存や嗜癖、マイノリティグループなど、同じ状況にある人々が相互に援助しあうために組織し、運営する自立性と継続性を有するグループである。
 アルコール依存症者が「AA」というセルフヘルプグループに入って断酒できた場合のように、セルフヘルプグループでは相互に援助しあって状況が改善したり、解決したりすることもある。しかし、それだけに終わるものではない。セルフヘルプグループのメンバー、つまり、セルフヘルパーには内なる変革・外なる変革が伴って生じるのである。
 時には状況の改善のないまま、病気や障害を抱えたまま、生きつづけなければならないこともある。例えば、顔に血管腫があるために顔貌が異形の人はそのままの顔で生きつづける。こうした変えられない宿命を負った者には、「自分」にしか生きられない生き方に気づき、語り、他者に伝えて、生きる力と勇気を自ら獲得することが必要である。セルフヘルプグループはそれを可能にする。
 仲間同士が出会って孤立から解放され、抑圧されない対等な関係の中で、情報を交換し、体験を語り合い、感情を表現する。そうした出会いを通して、ありのままの自分が仲間に受け入れられることで、自己否定やとらわれから解放され、ありのままの自分を受け入れることができるようになる。そして自分への信頼や自信を回復して人間としての尊厳性を自覚し、自立への意欲が喚起される。内なる変革である。
 さらにその過程を通して、社会の矛盾に気づき、病気や障害をもったまま生き生きと生きられる社会の実現をめざして、社会へとスピークアウトしていく。平均的状況からの逸脱を許さない社会、少数者を偏見によって差別し、排除しようとする社会の非人間性と不正常さを訴える。そして一般市民の理解を得て意識や態度の変更を求め、さらには新たな社会制度や社会サービスの創出や整備を図る。外なる変革である。
 このようにセルフヘルプグループは一般社会とは異なる独自の文化をもち、内には生きる力と勇気を育み、外にはスピークアウトして、自らの力と能力を最大限に引き出し、生き直すことを可能にするインキュベーター(孵卵器)である。
 困難な状況にある時、援助しあって単に状況を改善し解決するだけにとどまるものではないことを再度、強調しておきたい。
 また、かつて援助は民間の施しや恩恵であった時代から、自立した生活を営むために利用する権利としての公的な社会サービスへと転換した。しかし、これらはともに与える側と与えられる側とが明確に分かれている。そして今、セルフヘルプグループの援助は与える側が同時に与えられる側となる、援助の受け手と与え手とが同時平行する相互通行となる点で援助のあり方を大きく転換するものである。

▼セルフヘルプグループの特質

 セルフヘルプグループの援助特性の詳細については、本シリーズの最終を担当する岡が「わかちあい」「ひとりだち」「ときはなち」という概念によって明確にしている。ここでは一般的な特質と機能について整理して概略することとする。

①仲間を見つけ、孤立からの解放と安心できる場を提供する

 苦悩するのは「私一人ではなかった」と孤立から解放される。仲間は「そこにいる」だけで「丸ごとわかりあえる」宝である。温かい人間関係を基に心理的な支援が得られ、人格的な模範としての役割モデルとなる。安心して本音で話し合い、体験談を語り、感情を共有する。考える場、発言の場ともなり、人格と人格をぶつけあって、人間としての存在を認めあうことにつながっていく。

②主体的に課題を選択する

 他の誰でもない自分たちが課題と考えることに取り組む。例えば、子どもを亡くした父親の会である。父親はそうした事態を哀しんでいたり、泣いたりすることは社会が抱くあるべき男性像から逸脱し、女々しいとされ、率直に哀しみを表現できないと会を発足させた。感情の表現の仕方に至るまで、社会から押しつけられていることへの異議申立てともいえる。社会が自分にどのように期待するかに従うのではなくて、生活の主体者としての自分がどのようにありたいかに忠実に生きようと、主体的に選択した課題に取り組み、社会的に認められている常識や言説を書き換えていく。固有の文化をもって市民が社会のオーナーになる始まりである。

③援助にまつわるスティグマを除去する

 援助を受けることには、依存心を助長し、自立心や自尊心を喪失させる側面がある。逆に援助を与えることには、肯定的で積極的な意識を高める側面がある。援助し、援助されることが同時進行のセルフヘルプグループでは自分は他者に与える何かがある、という有能感を得、他者に役にたったという喜びが付与される。援助を受けなければ、生きていけない駄目な自分ではない。他者を援助できたという自信から自立できていると感じられ、自分の人生を自分で決定しようとする意識が高まる。

④反専門職主義を提唱する

 物事に疑義が生じると必ず、専門職の見解が権威をもって表明される。そしてその見解が間違いのない、全き正義として社会を横行する。また、人は困難にある時、専門職の見解を求め、それに従う。これは専門職は間違わないという幻想が刷り込まれているからであろう。また市民は、権威ある専門職に依存し、逆らわないで従うことが正しく、立派な市民であると刷り込まれているのである。例えば、医師患者関係において、おまかせ医療が妥当性をもつ根拠はここにある。しかし、専門職も人である限り、時には間違いも生ずる。弊害も限界も当然、存在する。しかし、市民からは権威づけて遇され、自らも権威づけることに習慣づいている専門職にはその間違いを率直に認め、真実に対して忠実であろうとする態度や思索が希薄な場合もある。これに対して、当事者であるセルフヘルパーは自分の実感を大切にして専門職に体験を伝え、仲間とともに異議を申立て、社会の主人公は専門職ではなくて生活主体者である市民にあることを訴えていく。

▼セルフヘルプグループの現状と課題

 1960年代に米国で始まった公民権運動・女性運動・消費者運動といった種々の市民運動に続いて、1970年代にはセルフヘルプ運動が台頭している。わが国でもこの運動の実施主体であるセルフヘルプグループの多くがこの時期に発足している。
 このことはノーマライゼーションの理念が1970年代から強調されるようになったことと無関係ではない。インテグレーションやメインストリーミングがノーマライゼーションの理念を具体的に展開していく原則だとすれば、セルフヘルプ運動は、これを実現する具体的な方法である。ちなみに自立生活運動やバリアフリー運動などとも互いに影響しあってこの理念を具体的に推進している。
 では、セルフヘルプグループはどのような人たちによって創出されているかをみると、①心身に病気や障害のある人―難病・精神障害者などの会 ②依存や嗜癖のある人―アルコール・拒食などの会 ③ライフスタイルの変更を強いられる人―子どもを亡くした人・離婚した人などの会 ④人間関係や社会との関係に悩む人―閉じこもり・虐待・不登校の人などの会 ⑤これらの人たちの家族などの会、などに分類できる。
 セルフヘルプグループは実際にはどの程度、存在するのであろうか。このグループには極めて多様な形態が存在し、一まとめにして数えあげることは難しい。

 ①その範囲をどのように限定するか。何らかの共通性をもつ当事者によるグループをすべて含むなら、公害・薬害運動からPTAや趣味のサークル活動までをも含んでしまう。

 ②グループの形態を一見しただけでは、上述のセルフヘルプグループの機能を有しているかどうかを見極めることが難しい。この機能には専門職との関係が「依存している」か「自立している」かに大きく影響されるが、グループ内部で生じるダイナミクスは複雑でメンバーがグループの代表になっていても実際には専門職の言われるままに従っている場合もあり、外観からは判断が難しい。

 ③グループの規模・組織のあり方が多様である。都道府県、国、世界のレベルで連携しているものもあれば、地区だけの小規模のグループなど多様に存在する。会費制を「とる・とらない」、会長から地区支部長といった役員制を「設けている・設けていない」、会合の開き方が「オープン・クローズド」、さらに同じ分類に属するグループでもそれぞれ異なるグループの目標を掲げている場合もあるなど極めて多様である。

 ④グループの創出契機が状況の共通性と自発性だけに依るので、グループの創出も崩壊も自由に実践される上に、メンバー間に上下関係を築かないように役員等の入れ変わりを積極的に実施するので、移動が激しく、実態を把握し難い。

 セルフヘルプグループを支援しようとする大阪セルフヘルプ支援センターの名簿をみれば、241グループが登録されている。一方、全国患者会障害者団体要覧(プリメド社、1996年)には770グループが記されている。しかし、これらがすべてセルフヘルプグループとみなすことができるかどうかは極めて難しい。
 形態も活動内容も多様であるからこそ、市民が容易に自分の直観や体験を基にグループをつくり、ニーズを充たしていくことができる。しかし、そのことが同時にセルフヘルプグループが一般市民や専門職らの承認を得にくい条件となっている。
 援助専門職らはセルフヘルプグループについて、市民や専門職らに正しく理解されるよう広報するとともに、セルフヘルプグループとしての機能を有するように当事者の立場に立って支援する必要がある。セルフヘルプグループの全容を正しく把握する人たちはまだまだ少ない。海外のセルフヘルプグループを紹介する本稿の11回のシリーズでその理解が一層、深まることを願っている。

(なかだちえみ 武庫川女子大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年2月号(第18巻 通巻199号)44頁~47頁