音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/障害者プラン推進・厚生省予算

リハビリテーション どこまできたか日本の現状

医療

上田 敏

▼ライフステージに沿うかのような対象範囲の拡大

 日本の医学的リハビリテーション(以下「リハ」と略す)は、その源流をたずねれば1930年代の高木憲次氏による肢体不自由児の療育事業にまでさかのぼることができる。氏の高い先見性・指導性により、肢体不自由児療育は戦後すぐに復興し、最も早く普及した。
 次いでもう1つの源流となったのは、第2次世界大戦中に軍事保護院で行われた戦傷兵(切断、脊髄損傷など)のリハであった。この技術が戦後まもなく設立された国立身体障害者更生指導所(現在の国立身体障害者リハビリテーションセンターの前身)に受け継がれ、主として若い成人のリハがここを中心として発展した。
 それに次ぐ「第3の波」が人口の高齢化に伴う脳卒中などの成人病のリハ・ニーズの高まりであって、1960年前後に始まり、ますます重要性を増して現在に及んでいる。このように小児→若年者→高齢者というように、あたかもライフステージに沿うかのように対象範囲が広がってきたことは非常に興味深い。

▼記念すべき年1963年から35年間の大きな進歩


 1963年は日本リハ医学会の発足、日本最初の理学療法士・作業療法士学校の開校(東京・清瀬市)、最初の大学病院リハ部門の創設(東大)など、記念すべき年であり、この頃に日本の医学的リハは本格的な態勢をととのえたといっていい。それからの35年間には日本経済の急成長にも比すべき、あるいはそれ以上の急激な進歩がみられ、今やわが国の医学的リハは、世界の先進国の仲間入りを果たしたといって過言ではない。理学療法士・作業療法士の数、学校数は人口比でみてアメリカに次ぐ第2位となり、昨年には国際リハ医学会世界大会が日本で開催され、来年には国際理学療法学会が予定されていることなどもこれを示している。

▼残る問題点

 しかし、まだ問題はたくさん残っている。紙幅もないので箇条書き的に述べてみたい。

①サービスの質:急激な発展のひずみともいえるが、質の向上が量的拡大に伴っていない。特に、真のリハの思想に立脚して人間全体とその人生、すなわちQOLの向上を目的とするのではなく、「機能障害の治療医学」にとどまる還元主義的な傾向が根強い。

②教育の質:医学部でのリハ医学教育は大学によって大きな差があり、理学療法士・作業療法士の教育も先端は大学院のレベルに達したが、まだ大多数は3年制の専修学校にとどまっている。言語聴覚士の資格は30年の遅れをもって最近やっと成立し、これから国家試験というところである。

③地域リハの遅れ:世界的な脱病院・施設の流れの中で、また介護保険法の成立によってわが国でも地域(在宅)リハ・ケアの基盤ができた現在、リハの対応は遅れている。特に、地域リハ特有の技術・プログラムの開発の面がそうである。

▼おわりに

 このほかにも問題は多い。しかし量的拡大から質の向上への転換は時代の要請であり、長い目で見ればやはり着実に進むであろうことを信じたい。

(うえださとし 帝京平成大学教授)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年3月号(第18巻 通巻200号)18頁