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フォーラム'98

95 Readerについて

岡田伸一

1 はじめに

 95 Reader(キュー・ゴー・リーダー)は、パソコンで広く使われているWindows 95を視覚障害者にも使えるようにした我が国初のソフトで、画面を音声で説明し、マウスは使わずキーボードだけで操作できるようになっています。このソフトは、コンピュータを視覚障害者にも使いやすくしてその雇用を促進することを目的に、日本障害者雇用促進協会の障害者職業総合センターが開発し、1996年11月末に「システムソリューションセンターとちぎ」から発売されています。また97年10月には、財団法人ソフトウェア情報センターから、視覚障害者の要請に応え、そのコンピュータ利用の拡大を期待させる製品として「プロダクト・オブ・ザ・イヤー'97」を受賞しました。同賞は、今回で第9回を数え、第1回にはワープロソフト「一太郎」(ジャストシステム)も受賞した権威ある賞です。そして本年2月には、CD―ROMデータやヘルプの読み上げなど、機能アップした95 Readerバージョン2.0が発売されました。

2 95 Readerの特徴

 開発にあたっては、まず評価用ソフト(Windows 3.1版)を50人余りの視覚障害者に試用してもらい、その意見を開発の参考としました。このようにして開発された95 Readerは、次のような特徴をもっています。

(1)クリアな音声

 従来のMS―DOS版の視覚障害者用のソフトに比べ、95 Readerでは発音がクリアになっており、とくに文章を読み上げさせた場合、たいへん聞き取りやすくなりました。

(2)多様な読み上げ

 文章を朗読のように読み上げる「なめらか読み」、カーソルの移動につれ1文字ずつ読み上げる「移動読み」、かな漢字変換時に漢字などを言葉で説明する「かな漢字変換読み」の3つのモードがあります。さらにすべてのモードで、言葉や音の違いで漢字や、ひらがな・カタカナ、全角・半角、英文字の大文字・小文字が区別できるようになっています。そのため、状況やユーザーの好みに応じて、読み上げ方を変えることができます。

(3)音切れの良さ

 「音切れ」というのは、キー操作などで読み上げ部分が移動したとき、それまでの読み上げを即座に停止して新しい部分を読み上げる機能です。例えば、メニューの中から目的の項目を選ぶ場合、先頭の1文字か2文字ほど聞いて、目的の項目でなければ次の項目へと、どんどん聞きとばして、素早く目的の項目に移動できなければ、ユーザーは各項目を最後まで聞かされイライラしてしまいます。95 Readerでは音切れに十分に配慮していますので、キー操作に対応して即座に読み上げが切り替わり、快適な操作性を実現しています。

(4)キーボードによる直接操作

 Windows 95は、初心者にもなじみやすいように、画面上のアイコンやメニューなどをマウスでクリックするGUI(Graphica1 User Interfaceの略)という操作方法を採用しています。これがWindows 95の急速な普及の大きな要因となっています。しかし、視覚に依存するGUIは視覚障害者には使えません。そこで95 Readerでは、Windows 95をすべてキーボードから操作できるようにしています。マウスによる各種の操作を、音声によるガイドを伴うWindows 95自体のキー操作と95 Reader独自のキー操作で代替しました。例えば、メニュー選択には矢印キーを使う、現在使っているソフトを確認するにはCtrl, Alt, Aの3つのキーを同時に押す、ソフト(タスク)の切り替えにはAltキーを押しながらEscキーを押すといった具合です。各操作に割り当てられているキーを覚える必要がありますが、いったん覚えてしまえば、Windows 95やいろいろなソフトでキー操作は共通していますし、かつマウスで操作するよりも速いので、たいへん能率的な操作方法となります。

3 利用できるソフト

 95 Readerは、DOS/VパソコンでもNECのPC 98シリーズでも使えます。音声出力には、PCM音源とそれに接続したスピーカーが必要ですが、最近のパソコンの多くは、標準で装備しています。
 現在95 Readerが音声化できる主なソフトは、次のとおりです。

(1)文書処理

 Windows 95添付のメモ帳とワードパッドが音声化されています。とくにワードパッドは、一般に広く用いられているワープロソフトのWord(マイクロソフト)の文書が読み書きでき、他の人が作成したWord文書を読むのに便利です。また、市販のエディタ・ソフト、WZ Editor(ビレッジセンター)が95 Readerに対応しています。大きな文書の作成や同時に複数の文書を扱う場合に便利な、文書の入力・編集に適したソフトです。

(2)表計算ソフト

 Excel 95(マイクロソフト)の基本的な機能が音声化されていて、通常の事務計算に利用できます。なお、Excelの最新バージョンはExcel 97ですが、95 Readerで使いやすいのはExcel 95(Excel Version 7.0)です。

(3)日本語入力システム

 かな漢字変換に用いる日本語入力システムとしては、IMA97(マイクロソフト)とATOK11(ジャストシステム)など、最新のものが使えます。

(4)インターネット

 インターネットのホームページを読み上げるWindows 95版の音声ブラウザ・ソフトとしては、「眼の助」(富士通東北海道システムエンジニアリング)と「ホーム・ページ・リーダー」(日本アイ・ビー・エム)が、昨年秋に発売されています。そして、このほどインターネットで通信をするためのソフト(メールソフト)Winbiff(オレンジソフト)が95 Reader対応となりました。これで、視覚障害者のインターネット利用環境もほぼ整ったといえます。

(5)CD―ROMデータ

 辞書などの大量のデータがCD―ROMで提供されるようになっています。そこで、CD―ROMデータ検索ソフトViewin(イースト)を95 Reader対応として、95 Readerの新バージョンに添付しました。これで、視覚障害者も各種の辞書・辞典を手軽に利用できます。

(6) 特定目的への利用

 そのほかにも、Windows NTで構築した福祉行政システムを視覚障害をもつ職員にもアクセスできるようにした政令指定都市や、情報公開が進む中で、視覚障害者をはじめ肢体不自由者や高齢者を対象とした音声による地方自治体の行政文書情報検索システム(会議録研究所)といった、特定目的への95 Readerの利用も行われています。
 なお、95 Readerには、6点点字入力、Windows 95や各種ソフトの「ヘルプ」読み上げ、クリップボード読み上げなど、便利な機能が用意されています。

4 おわりに

 95 Readerには、まだ不十分なところがあり、さらに充実を図る必要がありますが、その開発によって、Windowsを視覚障害者も利用できることを実際に示すことができたと思います。また、WZ EditorやWinbiffのように、ソフトメーカーが95 Readerを利用して自社ソフトをバリアフリーにしてくれる例や、音声ブラウザ・ソフトや行政情報閲覧システムのように、95 Readerを活用して視覚障害者を対象にソフトやシステムを開発する例もでてきました。今後さらに、このような取り組みが広がり、視覚障害者のWindowsの利用環境が整備されていくものと思います。
 なお、障害者職業総合センターでは、重度障害者の雇用促進を目的に、95 Readerの他にも、上肢障害者用の大型と小型のキーボードと下肢障害者用の長時間使用しても疲労の少ないオフィス用車いすを開発しています。これらも市販の予定ですので、ご期待いただきたいと思います。

(おかだしんいち 障害者職業総合センター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年3月号(第18巻 通巻200号)40頁~43頁