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ハイテクばんざい!

コミュニケーション

―言語障害のある人のための機器―

鈴木理司

はじめに

 これまで肢体不自由者(児)で言語障害を伴うような脳性マヒ者(児)の多くがコミュニケーションの手段として文字板(紙等に手書きで五十音を記述したもの)等を使用してきましたが、文字板等ではコミュニケーションの結果が残らないことや、介護者などが代わりに文章の形にして伝える形式の意思伝達方法では質や量といった点に問題があり、決して満足いくものではないことは周知の通りです。
 株式会社ナムコ(以下「当社」と呼ぶ)では、大阪府立身体障害者福祉センターでの障害者(児)用コミュニケーションに関する研究に基づき「トーキングエイド」(以下「TA」と呼ぶ)を実用化しました。その後、数多くの福祉機器を市場に提供してきましたが、ここでは携帯型意思伝達装置「TA」について記述します。

TAとは

 B5版程度の大きさで携帯性をもたせたコミュニケーションエイドであり、会話や筆談の困難な障害者(児)を対象に開発した国産初の携帯型意思伝達装置です。
 本機器は文字盤に代わる文字キーや、人間の声に代わる音声発生装置やスピーカー、そして押した文字を表示する表示装置から構成されています。
 また、足の指等を使って入力する方には、大きいキーボードが必要となるので専用の大型キーボードを使用していただき、不随意運動が激しく1つのスイッチしか押すことができない方の場合には専用オートスキャンを用意しました。
 この他に、打った文字を印刷するプリンターや、車いすに取り付けることのできる専用のホルダーもご用意しました。
 次に本機器の詳細について説明します。

1 主な機能・仕組み

 サイズB5版程度・重さ1.3kgの中に日本語五十音や各種文字キー・1画面最大63文字表示の液晶装置・音声合成出力500mWのスピーカー・充電式電池・制御基盤等が内蔵されています。
 操作方法は伝えたい言葉に該当するボタンを押していき、言葉が完成したら音声発声ボタンを押し発声させます。アテトーゼ等の不随意運動がある方の場合は、無効時間を設定することで2度押しを解消することができます。
 また、不随意運動によるボタンの押し間違いが多い方は、保持時間を設定することで誤打を解消することが可能となります。このほかにも「TA」は脳性マヒ者(児)の特性を配慮し、語句登録や絵文字・漢字・アルファベット等の機能も有しています。
 さらに、1994年にモデルチェンジした「TAαⅡ」では、ユーザーの意見を反映し、死角の少ない液晶画面や音声発声装置等の機能アップを図りました。
 なお、「TAαⅡ」は「携帯用会話補助装置」として日常生活用具及び非課税対象品となっています。

2 ユーザー

 この機器を発売した頃は会話・筆談が困難な身体障害者(児)、特に脳性マヒの方々をターゲットに開発したのですが、操作が簡単でユーザーの使用状況に合わせた設定ができることから、最近では脳血管障害やパーキンソン病の方にも利用されるようになりました。
 「TA」は機器自体がコンパクトであることと携帯性であることから、主に外出時等に使用するユーザー、病院や施設・家庭内で日常会話用として利用するユーザーも多くなってきました。また、これまで電話による会話は不可能とされていたユーザーが、「TA」を使うことによって電話によるコミュニケーションも可能となったことから(図 使用イメージ 略)、今後ますますコミュニケーションの質と量が拡大すると思われます。

3 入手方法

 現在市販されている「TAαⅡ」は当社希望小売価格12万5000円で、福祉機器を取り扱っている業者で販売されています。
 また、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの重度障害者用向けに当社が開発・販売している「パソパルマルチ」も同様です。
 これらの福祉機器は厚生省の日常生活用具給付の対象となっていますので、購入に当たっては福祉事務所やケースワーカー等に相談してください。また、事前に福祉機器展示センター等で体験してから購入することもお勧めします。

その他の福祉機器

 当社における福祉機器の開発は13年以上の経験があり、これまでも前述の「TA」「パソパルマルチ」といった福祉機器以外にも、本や雑誌のページをボタン入力でめくることができる「リーディングエイド」や電波を利用して人を呼び出すことができる「ピピエイド」といった装置等の販売も行ってきました。
 当社ではこれからも“ユーザーの目線でのもの創り”を前提に、福祉機器開発に着手していきます。

最後に

 コミュニケーション機器の歴史は、福祉市場では後発の道具として発展してきました。当社の「TA」や「パソパルマルチ」等はその象徴と思います。
 テクノロジーはこれらコミュニケーション機器の誕生を可能にしましたが、今後はコミュニケーション機器市場を育てていく時代になっていくと思います。

(すずきまさし 株式会社ナムコ)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年3月号(第18巻 通巻200号)44頁~46頁