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特集/検討中!これからの障害者施策パート1

今後の障害保健福祉施策の在り方について

厚生省障害保健福祉部 松岡正樹

 障害保健福祉施策は、現在、平成7年12月に決定された「障害者プラン」に基づき、政府全体で推進しており、厚生省においても、障害者の保健福祉施策を積極的に推進する体制づくりを行うため、障害者の年齢及び障害種別により分かれていた組織を見直し、平成8年7月に大臣官房に障害保健福祉部を設置した。
 さらに、今後の障害保健福祉施策の在り方について、介護保険制度との関連に留意しつつ、特にその総合化の観点から全般的な検討を行うため、平成8年10月に身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会及び公衆衛生審議会精神保健福祉部会に企画分科会を設置し、合同で審議を行ってきた。
 昨年12月9日(障害者の日)に、三審議会合同企画分科会において、「今後の障害保健福祉施策の在り方について」(中間報告)として、取りまとめが行われたので、その概要について以下に述べたい。

1 検討の視点

 第1に、身体障害、精神薄弱、精神障害の3つの障害種別に係る施策の総合化を図ることである。これまで3つの障害種別ごとに障害特性に応じた施策が講じられてきたが、一方では、施策間の整合性の確保や障害の共通性に着目した施策も求められている。
 第2に、介護保険制度の導入を踏まえ障害者施策の再整理を図ることである。利用者の権利性、選択性等の点の整理が必要である。
 第3に、21世紀を迎える中で、社会経済や国民の意識の変化への対応を図ることである。社会保障構造改革、財政構造改革、地方分権、規制緩和等の障害者施策全体を取り巻く情勢もにらみつつ検討が行われた。

2 障害者の現状

(1) 概況

 障害者は、現在、身体障害、精神薄弱、精神障害を有する者の合計で約500万人である。障害は人の生涯でいつでも生じることであり、身近なことで、特別なことではない。
 障害者の自立の意識が高まる一方で、社会の構成員としての役割を果たすことも求められている。社会全体の意識も障害者が地域で生活するのは自然なことという考え方に変わりつつあるが、障害者に不利な仕組みも多く、今後とも改善が必要である。

(2) 身体障害者

 身体障害者は、在宅者280万3000人、施設入所者14万5000人、合計約295万人である。重度化・重複化の傾向、高齢化の傾向があり、障害原因としては心疾患、糖尿病等の増加が見られる。

(3) 精神薄弱者

 精神薄弱者は、在宅者29万7000人、施設入所者11万6000人、合計41万3000人である。18歳未満の精神薄弱者の減少、加齢による高齢化傾向、重度化・重複化傾向が見られる。

(4) 精神障害者

 精神障害者は、入院患者33万人、在宅患者124万人、合計157万人である。入院の長期化傾向は依然あり、社会復帰は進んでおらず、入院患者の高齢化傾向もある。

3 基本的理念

 第1に、障害者の自立と社会経済活動への参画の支援である。障害者のリハビリテーションの目標は、職業復帰や経済的自立のみではなく、生活の自立、社会活動への参画、主体性の確立等に拡大することが必要である。また、障壁の除去(バリアフリー化)等による機会均等化を図り、障害者が障害のない者と同様に生活し、活動する社会であるノーマライゼーションの実現を目指す必要がある。
 第2に、主体性・選択性の尊重である。障害者が主体的に自立生活を送れるようにするための選択肢を広げ、生活の質(QOL)の向上を推進することが必要である。介護保険制度の考え方も踏まえ、障害者が権利としてサービスを選択できる仕組みとしていくことが必要である。
 第3には、地域での支え合いである。障害者への支援には、心の通い合う身近な地域社会の支援や障害者同士の支え合い、ボランティア活動が重要であり、地域のさまざまな施設の活用、住民参加、民間事業者の参加により、地域の福祉基盤を厚くすることが必要である。

4 基本的な施策の方向

(1) 障害者の地域生活支援施策の充実

 身近な地域における保健福祉サービス等の社会資源の充実が重要であり、障害者の需要に対応したサービス種目や施設の整備、在宅で介護する家族への支援の充実が必要である。

(2) 障害保健福祉施策の総合化

 障害者が身近なところで適切な保健福祉サービスを受けられるよう、サービスの決定権限を市町村に揃えるとともに、障害種別を超えた総合的施策の推進が必要である。また、生涯を通じた各段階で教育施策や労働施策とも相まった適切なサービスの提供、保健・医療・福祉の連携強化を図ることが必要である。

(3) 障害特性に対応する専門性の確保

 一方で、障害種別ごとの特性に対応する施策の充実のため、専門的機関による支援体制の強化が必要であり、身体障害者更生相談所等を中心とした総合的なリハビリテーション体制の整備が必要である。

(4) 障害者の重度・重複化、高齢化への対応

 重度の身体障害と精神薄弱が重複した障害者等への適切なサービスの対応、障害者施策における介護保険制度と遜色のないサービス提供等が必要である。

(5) 障害者の権利擁護と参画

 最近の障害者の権利を侵害する事件の発生にもかんがみ、障害者の権利擁護の仕組みが必要である。また、当事者活動の支援等による障害者の参画の推進が必要である。

5 具体的な施策の方向

(1) 障害者の地域での生活支援

 障害者が地域で生活できるようにするためには、訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)、地域生活援助事業(グループホーム)等の展開が必要である。このうち、特に重度障害者に対し夜間でも介護が受けられる体制の整備の検討が必要である。
 精神障害者の訪問介護事業等在宅支援施策についても、総合的検討が必要である。
 また、障害者を介護する家族等の負担軽減を図るために一時的なサービスを利用できる事業(いわゆるレスパイトサービス)の推進や、障害種別間を超えた各種サービスの相互利用の途の拡大等が必要である。さらに、障害種別ごとの社会参加促進事業の総合化、障害者全体の「障害者社会参加推進センター」の推進も必要である。

(2) 障害者施設体系

 障害者施設については、障害者の年齢や能力への対応、医療との関係、就労等との関係、地域との関係、生活の質の向上という観点からの施設の在り方の検討が必要である。当面の課題としては、重度・重複の精神薄弱者のための施設形態の検討が必要である。
 地域の中での施設機能の発揮のため、障害児通園施設や授産施設等の相互利用の推進、在宅サービス支援機能の強化等が必要である。
 また、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等重度障害者への対応の改善、個室化等施設の処遇内容の充実等も必要である。
 さらに、小規模作業所についても積極的に位置付け、法定施設(事業)化への要件緩和、新たな事業形態の検討が必要である。

(3) 障害保健福祉サービスの提供体制

 市町村におけるサービス提供体制の一元化を図るため、障害児及び精神薄弱者の福祉サービス決定権限の移譲、精神障害者の福祉サービスの市町村における対応の強化が必要である。
 また、市町村域(在宅保健福祉サービス等)、障害保健福祉圏域(複数市町村による圏域、入所施設の適正配置等)、都道府県域の適切な機能分担によるサービス提供体制の構築が必要である。
 さらに、措置制度について利用者本位のサービス提供のための仕組みの検討等が必要である。費用徴収制度についても、介護保険制度の導入に伴い、応益負担的な考え方の導入等の検討が必要である。

(4) 障害特性に対応する専門的支援

 市町村等の支援のため、都道府県における総合リハビリテーションセンターの整備を検討することとし、更生相談所等の統合、再編、連携等の検討が必要である。
 また、専門職の養成と生涯研修体制の整備、障害特性に応じた人材の養成、情報伝達施策等の充実が必要である。

(5) 障害者の権利擁護

 障害者の権利擁護のため、福祉事務所等の対応要領の整備、施設入所者の生活支援指針の策定の他、障害者やその家族等の相談に随時対応できる相談事業の実施が必要である。また、法務省の「成年後見制度」の検討を踏まえた対応の検討も今後必要となる。
 さらに、「精神薄弱」の用語の早急な見直し、各種資格制度等における欠格条項の実態調査と見直しの推進も必要である。

(6) その他

 障害者関係審議会の統合、自閉症・てんかん・高次脳機能障害の施策の整理、障害保健福祉研究の促進、文部・労働・建設行政等の連携なども課題として掲げられている。

6 今後の進め方

 中間報告の一部は平成10年度予算案の中にも取り上げられているが、主要論点については、今後さらに検討を深めることとしている。
 また、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の保健・医療関係の見直しについては別途検討を行うこととしており、本年3月より精神保健福祉部会に「精神保健福祉法に関する専門委員会」を設置し、検討に着手した。
 また、中央社会福祉審議会においては、現在、社会福祉事業の在り方の全般的な検討が行われており、社会福祉事業の範囲、社会福祉法人の在り方、措置制度の在り方等について議論されており、障害保健福祉施策の見直しにおいてもこれらとの整合性を図ることが必要である。
 以上を踏まえて、障害保健福祉施策全体について、本年夏から秋頃に最終的な取りまとめが行われる予定であり、平成11年に障害保健福祉施策の見直しを図ることになると考えられる。

障害保健福祉施策の今後の在り方について

障害者保健福祉施策の今後の在り方について

(まつおかまさき 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課課長補佐)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)9頁~13頁